かなしさは蒼に逝く
「別にね、僕は戦う事に理由なんていらないと、思ってるよ。」
思ってもみなかった返答を返されたのか、アキトを見るヒイロの瞳が少し見開いた。
「理由が無くちゃ戦えないなんて、子供みたいだし、ね。確かに理由があった方が楽だから。」
「・・・でも、あるんだろう?」
「そうだね、僕には確かに守りたいものがあるよ。何を犠牲にしても、何を踏みにじっても。
決して失くしたくないものがあるから、戦うんだ。でもね、無意識でも意識的でも、"戦う"って事は、それだけで誰かの何かを突き動かしてるんだ。」
ヒイロは黙って聞いている。
「大体、無理矢理理由を探すのも、なんかこじ付けみたいで格好悪いじゃないか。
・・・きっとね、分からなくても良いんだ。いつか、時が経って、過去を思った時に、ふと自分の戦う理由が分かるかもしれない。
それは誰かや何かや、もしかしたら自分の為かもしれない。でも、結局大切なのは今で、結果で、自分がしてきた事だ。
何かで言い訳したとしても、過去は清算出来ないし、罪が軽くなる訳でも無い。斯く言う僕もそう。
散々人を葬って、傷付けて・・・言い訳なんかで帳消しには出来ないから。」
弱い心と、脆い自身のプライドと、諦めきれなかった想いの為に。
「大丈夫、君だってちゃんと、戦う理由があるさ。今は分からなくても、"今の為に"戦える事に、意味はあるから。」
じっと黙って見詰める彼の頭に、アキトは手を置いて撫でた。
「難しく考えなくて良い。君は君の思うようにやりなさい。」
「・・・・・・手を退けてくれ。」
その顔が少し赤味を差しているのに、アキトは笑ってしまった。
素直でないのは、環境なのか、性格なのか。
この場合、両方のような気もする。
「君も僕の息子だったらなぁ。」
「・・・こんなので良いのか?」
「どうして?君みたいな子供も欲しかったよ?」
「物好き。」
吐き捨てた呆れ口調に、剣や棘が含まれていなかった事が、余計にアキトの心に響いた。
平和を夢見ながら、
その先を夢見る事の出来なかった少年。
平和を思い描き、
その為に自分を犠牲にした青年。
根底にある思いは、恐らく同じだろう。
まだ見ぬ誰か、守りたい何か。
"大切なモノ"の為に、汚れる手を今日も、天へと翳す。
眩い光が、何かを変えると、信じて・・・