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かなしさは蒼に逝く

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 あれから、どうしているだろうかと、時折思う。

 きっと元気だろう。そうであると思う。

 何かが変わっただろうか、それともありのままの君だろうか。

 そう考えて、筆をとった。

 君は今、幸せですか?










 
 マリーメイア・クシュリナーダを軸とした2度目の戦争が終結した後、それまで行方の知れなかったヒイロやジャンク屋を営んでいたデュオ、
マリーメイアの軍下に身を置いていたトロワ、五飛、そしてカトルは、過ちを繰り返さない為、平和維持活動を主として、プリベンターに籍を置いていた。
 ウィナー財団の当主でもあるカトル以外は、ほぼ全員がプリベンターとしての活動に精を出していた。
 よって、実は5人揃っての任務など少なく、各々がそれぞれ違う任務をこなす事の方が断然多かった。
 故に、今回は珍しく、全員揃っての任務で、2人位なら顔を合わせる事もあれど、全員と顔合わせなど、どれ位ぶりだろう、と言う話だった。
 司令官のレディ・アンの指揮の下、次の任務に向けての説明や作戦会議などがなされる。
 それぞれが真剣で、決して重い訳では無いが、その空気は軽くも無い。
「では、これで異存は無いか?」
 会議も終盤に掛かり、全員の同意を得る。
 彼等自身も加わった作戦会議の下での事。即決と言う形で終わった。
 知らず知らずの内に張っていた肩の力を抜き、一同が休息を得ようと話し始めたその時だった。

「入室しても構わないだろうか。」
 控え目なノックの後に告げられた声。
「会議は終わった。気にするな。」
 司令官レディ・アンがそう言い放つと、「失礼する。」と言う声と共に入室してきたのは、ノイン。
「どうした、何かあったか?」
「いえ、実は・・・」
 そう言うと彼女は、懐から何かを取り出した。
 視線は、ヒイロへと向けられている。
「先程、ヒイロ・ユイ宛にコレが届けられた。」
「・・・・・・・・・・・・俺に?」
 シンプルに柄も無く、いっそ嫌味であるかのように真白い、長方形の封筒。
 久しく見ないソレに、不信感は否めない。
 ヒイロの怪訝そうな声音は仕方の無いものかもしれない。
「何かの間違いじゃ無いのか?」
「だが、確かにお前の名前が書いてあるんだ。」
 ほら、と差し出される封筒を、ヒイロは一応受け取った。

 記憶を巡らせるが、自身に手紙を出すような人物に心当たりなど無い。ある訳が無い。
 ドクターJならばこのような回りくどい手段は取らないし、ましてコロニーにそこまで親しい知り合いがいる訳でも無い。
 第一、戦後隠れるようにしてこの組織に入ったヒイロは、誰にしたって自身の居所など告げてはいなかった。
 差出人の無い手紙。
 封をしてある裏側は、本当に白紙だ。
 くるり、と裏返す。確かに宛名はヒイロ自身。
 そしてヒイロは、その筆跡に微かな既視感を覚えた。
(・・・何所かで・・・)
「誰からだ?」
 ひょこりと覗いて来るデュオは明らかに好奇心に目が輝いている。
 だが彼等も例外では無く、唯一不審さに厳しい顔をしているのは最高司令官であるレディだけだ。
「ヒイロ?」
 宛名だけの、差し出し人不明の手紙。
 ただの封筒に見えてその実、どのような危険が伴っているか知れない。
 本部に出入りする全ての物に気を配ってはいても、何時何処で何が起こるかなど、誰にも予測は出来ないのだ。
 ノインも特に危険は無いと判断したからこそ本人の元へ届けたのだろうが、本当は封を切ってみるまで分からないのだ。

 不安要素なら見るまでも無く捨てろと、視線で語るレディを余所に、ヒイロは思い切りその封を切った。
 ギョッとしたレディとノインだが、当のヒイロは平然としている。
 何所かに直感があったのだ。これは危険なモノでは無いと。
 恐らく、先程のデジャヴュのせいであろう。
 確かに、知っている、のだ。
 
 封を切り、中のモノを取り出す。外身の封筒と同じく、飾り気の無い、シンプルな便箋。
 唯一目立つのは、罫線と引かれた青の線のみ。
 そこに記された文字は黒。
 流麗では無いが、決して粗忽でも無い、言葉の羅列。
 それを眺めた瞬間のヒイロの表情に、全員が瞠目した。
 普段の彼とはあまりにも違う、妙に穏やかで、優しい顔付。
 恐らく無意識だろうが、向けるヒイロの視線は、いつものキツい眼差しでは無く、どちらかと言えば慈愛溢れるソレだった。
 全員が言葉を無くした事に気付いて無いのだろう、ヒイロは微かに溜息を洩らすとカサリと便箋を折り畳み封筒へ戻した。
「レディ・アン。」
 掛けられた言葉に弾かれたように、レディは意識を戻した。
「なっ、何だ。」
「会議はもう終わったのだろう?俺は一足先に退室させて貰う。」
 そう言うとヒイロは、返事も待たずに一同を残して部屋を出て行った。





 1人きり椅子に身を沈め、一息付くと、再度手に持っていた手紙を眺めた。
(・・・まさか、今になってこんなモノ・・・・・・)
 忘れていた訳では無いが、完全に記憶の彼方へと追いやっていたそれを、これによりヒイロは完全に引き戻してしまった。
 かつて過ごした穏やか、とは決して言い難いが、包まれた感覚のあった、時間。
 過ごした短い時間で、ヒイロ自身、何かが変わったような気もするし、変われなかった気もしている。
 ただ、確かに意味のある時間だったとヒイロが思うのは、彼にとってそれが必要だったのかもしれないと思うからだ。
 何故差出人の名前が無かったのか、その意を汲み取るのは、存外容易い事だった。
 それ程迄に他人の心を汲めるようになった自身の変化に、多少の戸惑いを覚える。
 それすらも、この差出人は見通してるのかもしれないけれど、とヒイロは渋面を作った。



 紙面に書かれている文字は、ついこの間のような気もしたのに、随分と懐かしいモノのように感じた。



『ヒイロ君へ。
 元気だったかな?・・・なんて訊くときっと反論が返ってくるのだろうね。
 だから元気であると言う断定に近い仮定の下で書きます。
 あの戦いから、もう1年が経つんだね。月日と言うのは本当に旅人のようで、拘りも無く過ぎ去って行きます。
 あれから、君はどうしてるかな?散り散りになった皆にしてもそう思うのだけれど。
 僕も色々環境が変わったりで、慌ただしい日々をついこの間まで送ってました。
 ルリの事や、妻の事や、今後の世界の事や・・・僕に出来る事なんて、高が知れているって、分かってはいるんだけどね。
 偽善なんかじゃなくて、義務でも無くて、やっぱり、皆が生きる世界が幸せであったら良いと、少しずつ活動をしています。
 最初の頃は本当に大変で、精神的にも肉体的にも余裕が無くて、ルリ達にも散々支えて貰って、少し、本当少しですが、余裕が出来ました。
 1人で無いと言うのは、本当に偉大です。改めて、そう思わされました。
 そうして、ふと、君の事を思ったんです。
 皆が皆、それぞれ誰かと共に元ある地へ帰って行く中で、君だけが1人、去って行きました。
 戦う意味が分からない、と言った君が、再び戦火の中へ身を投じなくてはならなかったと聞いたのは、実は情けない事につい最近でした。
作品名:かなしさは蒼に逝く 作家名:Kake-rA