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アメノムコウガワ

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 ロックオンは、ちっと小さく舌打ちをした。ダイニングとベッドルームを繋ぐドアに鍵はなかった。部屋の入口を破られたらこの部屋へは一直線であり、ベッドルームには窓が一つあるだけで他には何もない。もし、相手が敵であるなら、騒ぎは出来るだけ起こしたくないのだが、逃げ場がない以上交戦は止むなきだろう。
 熱とは違う汗がじんわりと浮かぶ。怖じ気付いてはいないけれど、緊張に全身が支配されるのが判る。鼓動が確実に速くなる。
 そして、やはり気配は驚くほど易々と、まるでロックの解除キーを知っているかのようにすんなりと部屋に入ってきて、真っ直ぐにこちらに向かってきた。 
 ロックオンのトリガーにかかる指先に、僅かに力が篭もる。発熱の続く身体と腕に拳銃は重いけれど、照準がブレることはない。
 かちゃりとドアノブを回す、トレミーでは聞く事のないオーソドックスな音が静寂に響く中、ドアが開くとほぼ同時。
 人差し指が、まさにトリガーを引こうとした瞬間。
「!!」
 姿を見るよりも早くはっきりと感じた気配は、余りによく知るものだった。



「〜〜〜〜〜〜っ!?」
 ロックオンの緊張を最高潮まで引き上げた気配の持ち主は、よく知るどころの話ではない、同じマイスターのアレルヤ・ハプティズム。
 ロックオンが拳銃を向けていると予想していたのだろうか。ホールドアップをしながら入ってくる姿は、間違いなくアレルヤその人だった。 
 慌てて合わせた照準を外し、ロックオンは引き掛けたトリガーから指を強引に剥がす。たったそれだけの事だが、ぎりぎりまで張り詰めた精神は、身体から力という力を奪ったようで、ぐったりと脱力感にベッドに崩れ落ちた。
「ロックオンっ! 大丈夫ですか!?」
 お前のせいだ、お前の!と、慌てて駆け寄り崩れる身体を支えるアレルヤに、ロックオンは抗議の声を上げた。
「アレルヤ、お前なぁ…気配を消してくるなよ。危うく撃っちまうとこだっただろ」
 ちらりと。己の右手に握られた銃を、ロックオンは見遣る。
 あと少しアレルヤだと気付くのが遅れたら、冗談ではなく本当に引き金を引くところだった。
 僅か数メートルしか離れていないこの距離では外す筈もなく、間違いなくアレルヤを殺してしまっただろう。 超兵として常人離れした反射神経を持つアレルヤなら、ひょっとしたら間一髪でも銃弾を避けられるかも知れないが無傷では済むまい。いくら狙撃手としての過去を持つとはいえ、仲間を誤射するなんて冗談ではないというものだ。
「すみません。眠っていたら起こすといけないと思って…―――って、そうだっ、ロックオンが体調崩したって聞いたんですけど大丈夫ですか!?」
 大丈夫かと聞いてはみたけれど、その様子はどう見ても大丈夫そうには見えない。
 ぐったりとしてしているだけでなく、発熱しているとはっきり判るほど汗を掻いているし、日頃のロックオンから比べると相当具合が悪いと判った。
 尤も今に限って言えば、半分はアレルヤが無駄に緊張させたのが原因ではあるのだけれど。
 考えてみれば自分達は気配に敏感になるべく訓練を受けている。誰という認識まで出来なかったとしても、訓練された感覚は僅かな気配でも鋭敏に察知するのだ。配慮したつもりだったのだが逆効果だったようで思わず、アレルヤは己の思慮の浅さに眉を潜めた。 
「あー…聞いたって、ミス・スメラギか?」
「え、ええ、僕と刹那のミッションが終了したので、報告した時に…」
 そう言えばアレルヤと刹那は、デュナメスとは別動隊として地上でのミッションがあったと、ロックオンは痛む頭の片隅から記憶を掘り起こした。
 ミッションが終われば報告をする。これは最低限マイスターに与えられた義務である。当然アレルヤと刹那も規律に従い報告をするので、その際にでも聞いたのだろうと容易に推測出来た。
 そして、アレルヤと刹那はロックオンに一日遅れで、プトレマイオスに帰還する予定になっていた筈だった。つまり、口止めしようにも二人が戻れば、すぐバレるのは間違いない。
 それ以前に万が一、ミッションが入ったなら穴埋めするのはマイスターしか出来ないのだから、帰還が遅れる以上隠せるわけもないよな…と、スメラギに口止めをしなかった事を後悔したロックオンは、諦めに溜息を吐いた。
「刹那は…?」
「刹那は予定通りにトレミーに戻りますよ」
「アレルヤ、お前さんは…?」
「僕ですか? 僕はあと少しで地上での休暇の予定になっているから、少し早めて貰ったんですよ。ただし、僕まで寝込まないようにって、釘刺されましたけどね」
 柔らかく笑いながら言うアレルヤに、無理だと判っちゃいるが、ロックオンはだからバレたく無かったんだ!と内心で悪態をつく。
 宇宙に戻る前にマイスター達に連絡が行ったならば、必ずアレルヤは来ると。そんな予想がロックオンにはあった。
 自惚れでも何でもない。刹那やティエリアならいざ知らず、アレルヤは面倒見が一番良く、一番まともな生活をする人物であるし、何よりオープンにはしてない―――出来る筈もない―――が、紆余曲折の末になったロックオンの恋人でもあるのだから。それを考えれば、彼の性格からして真っ先にやってくるだろう。   
 診察を受けていないので風邪かどうかも判らないのに、もしアレルヤまでが感染して寝込んだら…。いくらアレルヤが頑丈だと言っても感染しないとは限らない上に、日頃病気知らずな人間ほど軽い風邪であっても酷く辛いと言う。
 更に動けるマイスターは、宇宙に二人。幾ら何でもそれではミッションが入ったら支障を来す。計画が大幅に歪んでしまうかもしれない。
 それは流石にマズいのではないだろうか。
「ちなみに言い出したのは僕じゃなくて、スメラギさんですよ」
「え?」
「ロックオンの事だから、食事もしないで潰れてるだろうから、見に行ってくれって言われました」
「はぁあ?」
 アレルヤの腕に支えられながら、素っ頓狂な声を上げるロックオンに、アレルヤはくすくすと笑う。医師にもかからず潰れている事は予想していたが、まさか本当に食事もしていないとは思っていなかった。
 ベッドルームまでの途中で見たキッチンは、食事を作った、もしくは食べたらしい形跡が全くなく、恐らくは昨晩も今日も外食で済ます予定で何も買っていなかったといった風情だった。
 怠くて食べる気が起きなかったのも原因なのだろうけれど、あれだけ日頃は刹那達にちゃんと食べろとか、好き嫌いするなとか言ってる彼の、意外な一面を見たような気がして、アレルヤは思わず嬉しさに笑みを零した。
「何笑ってんだよ…」
「なんでもないですよ。でも凄いよね。戦術だけでなくてこんな事もお見通しなんだから、スメラギさんは」
 零れた笑みを見咎めて、ロックオンが睨み付けて文句を言ってくるけれど、発熱で潤んだ瞳では効果は半分も有りはしない。寧ろ滅多に見られない子供っぽい表情と相俟って、可愛いとさえ思ってしまう。勿論、そんな事を言ったら追い出されるに決まっているので、賢明にも口にしたりはしないけれど。
作品名:アメノムコウガワ 作家名:瑞貴