Ⅷ→D
どう、スか?
ま 目をさま い だ…
…し…も、見事にボ ボロっス ぇ。
コスモ、に頼 ば、彼にも新しい服 用意し ……
人の、話し声が聞こえる。
男の声だ。
「―服はこうなのに傷が塞がってるのは凄…?あ、起きそうっスよ!」
「本当か?!」
「(うる、さいな…。)」
何故だかずっと眠っていたようだ…開ける瞼は重く、頭がズキリと痛む。
簿やけた視界がクリアになり、一番最初に見えたのは、日焼けした少年の顔のドアップだった。
「(?!)」
「おはよっス!あんたなっかなか目覚まさないから皆心配したんスよ?」
「(誰、だ?何なんだコイツは…。)」
「お~い、何か反応返してくんないとわからないんスけどー。」
「おい、目が覚めたばかりの人間にまくし立てるヤツがあるか…。」
呆れたように笑うのは浅黒い肌の青年。
どちらも見たことも無いような服を来ていたが…共通するのはこの二人の体が明らかに鍛えられている、戦うために造られた肉体をもっている、ということ。
「…アンタ、誰だ?」
そのことを瞬時に見抜き、警戒心からか喉から出たのは低く堅い声だった。
「お、やーっと返してくれたっスね~。オレはティーダ!ザナルカンドエイブスのエースっス!」
「(ザナルカンド?エース?)…知らないな。」
「うっ、」
「どうやら、お前の世界の人間じゃないようだな。」
「(“お前の世界”?何を言ってるんだ、コイツ等は…。)」
「俺はフリオニールだ。お前の名前は?」
「なま、え……。」
問われて、“彼”は愕然とする。
出てこなかったのだ。
自分という人間を示す最も基本的な言葉が。
「(俺、は……?)」
「…もしかして、わからない、っスか?」
「(なぜ、俺は寝ていた?なぜ…服がボロボロで、血が着いているんだ?どうして、体には怪我の跡が無い?…なんで、自分が怪我をしていたはずだとわかるんだ、俺は。)」
「だ、大丈夫か?顔色が悪いぞ…無理に思い出さなくても良い。」
「そ、そうっスよ!今は休んどいたほうが良いって!」
その内思い出すさと言う二人は安心させようと言っているのだが…何も思い出せない“彼”本人には何の効果もない。
自分を示す言葉、自分という存在を支えるモノが無いのだ…不安を感じ、恐怖を覚えるのも当然だ。
「(思い出せ…“俺”は誰だ…。)」
―チャリ、
涼しげな音に視線を下に…正しくは自分の手元に向ける。
右手で握り締められた、シルバーのネックレス。
動物の横顔をモチーフにしたらしきそれに、“彼”は無意識に手を伸ばしていたのだ。
「(ライオン…。)」
なぜか、そのモチーフが何を象ったものなのか知っていた。
いや、自分が身につけている物なのだから知っていて当然なのだが…名前すら思い出せない“彼”が唯一覚えていた物。
握り締めた掌が、ほんの少しだけ、温かくなったような気がした。
「レオン……ハート。」
先程までが嘘のように、言葉がスルリと音になる。
「名前っスか!?」
「レオンハート、か……。」
「レオンっスね!」
「違う、そうじゃ、ない。」
「へ?……あ、ふぁみりーねーむってヤツっスね!」
「(そうだ、これは俺の、目標で…俺は―
頭の中で、声が聞こえた。
呆れたような、
女性の、
慈しむような、
少年の、
馬鹿にしたような、
子供の、
憎らしげな、
男性の、
愛おしそうな、
少女の、
優しげな、
年若い女性の、
過去呼ばれた一つの単語。
そこに含まれた全ての感情を、そう呼んだ全ての人の声を、同じ長さ、同じ大きさに圧縮したような音だった。
--スコール。
―スコール、スコール=レオンハート。」
「スコールか…他に思い出せることはあるか?」
「(他に……。)」
頭に流れたのは、自分の記憶だろうか?
銀の髪に黒い翼。
深紅の衣服を纏った女の姿。
「…アルティミシア。……(そうだ、俺は奴を倒すために…そう、シード)バラムガーデンのSEED。」
「アルティミシアは人の名前っスかね。ばらむは…。」
「ティーダで言うザナルカンド、地名だろうな。」
「んじゃ、シードって言うのは?チームの名前かなんかっスか?」
「種。悪い魔女を倒すために蒔かれた種。」
「………つまり?」
「傭兵だ。特殊精鋭部隊SEED。」
「傭兵!しかも“部隊”ってことは!」
「ああ!セシルやクラウドに次ぐ戦闘のプロだ。」
「(誰だ?まだ他にも人がいるのか?)」
「なあなあ!他には?スコールのこと聞かせてくれよ!」
「(俺、の?)」
白い、翼。
風邪になびく、黒い――
何処までも続く、荒れ果てた――
「(?!)」
「スコール!?」
突然頭を押さえ苦しみだしたスコール。
「大丈夫か?!」
「あ、ぐっ、」
「そんな…皆思い出せなくても、こんな苦しまなかったのに……。」
「ティーダ、ライトさんとセシルを呼んで来てくれ!」
「わかったっス!」
名前を思い出させてくれた獅子も、今度ばかりは助けてはくれないようだ。
「…っふ、」
「大丈夫、か?」
「………。」
無言で頷いたスコールに、フリオニールは胸を撫で下ろす。
「良かった…、俺達…あ、俺とティーダの他にもあと7人いるんだがな。俺達は神に召喚された戦士、だそうだ。」
「(何言ってるんだコイツ、頭大丈夫なのか?)」
「詳しくはライトさん、リーダーから聞くといい。」
「フリオニール!スコールは大丈夫っスか?!」
バタバタとテント(スコールは今気付いたが、彼が寝かされていたのはテントの中だったのだ)に飛び込んできたティーダに続いて、カシャンと音を発てながら青い鎧を身につけた男が入って来た。
「…どうやら、大丈夫なようだな。」
「ああ。でも、スコールは俺達とは少し違うようだ。」
「そーなんスよ!思い出すときめちゃくちゃ苦しみだしてさぁ!」
「ふむ……。」
「(あんな報告で通じるのか…。)」
「思い出せたのは名前と、自分が傭兵だったということだけらしい。」
「そうか。」
「(一々偉そうな奴だ。)」
「スコール、彼がリーダーだ。」
「紹介が遅れて済まない。ウォーリア・オブ・ライトだ。」
「光の戦士?(それは名前じゃないだろう…。)」
「…彼はおそらく君と同じか、それ以上に記憶を失っている。」
「オレ等はライトさんって呼んでるっス。」
「戦いに関することは覚えているのだから、不便はない。」
「(そういう問題か?記憶が、無いんだぞ。)」
「…コスモスに新しい服を用意してもらった方が良いな。君は。」
「そうだな。皆にもスコールが起きたことを知らせたいし。」
「ティナと、第一発見者のバッツも心配してたしな!」
「(…何もわからない以上は、着いていくしかないか。)」
テントを出ていく背中を睨みつけるようにしながら、スコールは彼等の後を追って、テントの幕を潜る。
フリオニールが言っていた“神”とやらに会う為に。