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ハンサムキラー

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 父は釣りに、姉は友達と買い物に、弟は友達の家へ。
 日曜ののどかな昼下がり、ひとり家に残った僕はなぜかカレーを作っている。
 昨日ボロボロになりながら家に帰ったあと、そのやるせない思いをどう昇華させようかと考えた。勉強・筋トレはびっくりするほどやる気が出なかったし、暴力や愚痴をもって外に吐き出すのは得意じゃなかった。
 そういうわけで僕は無性に凝った料理を作りたくなった。だいぶ暑くなってきたしカレーを、それもルーから作ってしまおう。最初はナンまで作ろうと意気込んでいたが、買い物メモを見られた姉にやんわりと止められた。
 料理している姿を家族に見られなかったのは幸いだ。僕はある執念に駆られただただ野菜を刻み、怨念を込めながら材料を炒めた。つまりそれくらい煮詰まっている。カレーもいい感じに煮詰まってきている。カレーのことしか考えないのはとても幸せだ。シンプルだ、面倒くさくない。
(栄口は)
 水谷のあの、確信しきったような顔。
(俺のことすげー好きなくせに)
 憎たらしい。ちくしょうやっぱあのとき一発殴ってやればよかった。
 その勢いで鍋を混ぜていたヘラが変な方向に動き、僕の休日スタイル、首がよれよれのTシャツと中学ジャージ下にカレーが跳ね飛んだ。あの野郎こんなときにもオレの邪魔をしやがってと八つ当たりするのはお門違いだったけど、それくらいの侮辱をあいつはしたのだ。男に力ずくでキスされてしまった僕は今、水谷がてっぺんにいる食物連鎖の一番下辺に位置しているだろう。
 鳴り響く玄関の呼び出し音にはっと正気に戻された。一体何時から鳴っていたのかわからないけれどベルは止まない。大方宅急便か何かだろう。僕は取り急ぎコンロの火を止め、何も警戒せずにドアを開けた。
 はーい。能天気に出した声の最後は変に裏返る。ドアの向こう、不気味に緊張している水谷と目が合った。
 ……え、なんで?ハトが豆鉄砲をくらったような顔をした僕に水谷はへへへと笑い返した。もうさっぱり訳が分からない。
 そもそも水谷、お前今日デートだろ?今の時間ならそろそろFカップの色白美人とラブホになだれ込んでる頃じゃないのか?そのシャツは花井が羨ましがってたショップ開店記念の限定モデルとかいうやつだろ?髪型だってワックスでやたら気合入れて、お前はなんだ街角おしゃれボーイズにでも掲載されるつもりか?だったらオレんちの玄関でへらへら笑ってないでさっさと然るべき場所に行けよ!ていうかオレはなんでその水谷を家に上げて麦茶とか出してんの?水谷は人んちなのにもうリラックスして寝そべりながら弟のジャンプとか読んでるわけ?もうすべてにおいて理解不能です。
 水谷がジャンプを読むのに飽き、つまらなさそうに夕方のニュースを眺めている間、僕は混乱しながら、だけどしっかりカレーを混ぜた。そうしているうちにまず父が空のクーラーボックスを抱えて帰宅し、弟が腹減ったーと大きな声でキッチンを覗き込み、最後に姉が両手いっぱいに買い物袋を抱え戻ってきた頃には、もうなんとなく水谷君も食べていったら?という雰囲気になっていた。悲しいぐらい僕の家族だ。……悲しい。
 結局カレーはその招かれざる客を含め5人でを食べた。水谷は持ち前の調子の良さであっという間に僕の家族の中に溶け込んでしまった。
 まだ整理のついていない頭の中、水谷を送ってくると家を出た。夜の9時を過ぎた住宅街は静かで、僕の作ったカレーをベタ褒めしているあいつの声が路地に響く。それを遮り、お前今日デートだったんじゃないのと核心をついた質問をしたら、気まずそうに語りだした。
「ま、待ち合わせ場所までは行ったよ。」
「Fカップとするんじゃなかったっけ?」
「あ、あはははは」
「……」
「……だってなんか気が乗らなかったんだもん。」
 理由を問いただす気力はもう残っておらず、僕はこれ以上水谷と会話するのが億劫になった。あからさまに呆れてしまった空気に気づいたのか、水谷もまた何も喋ろうとしなかった。
 そのまま学校帰りいつも別れる川のたもとまで到着し、さっさと解放されたくてバイバイの『バ』の字を言いかけたら、水谷は僕のTシャツの裾を掴んでこう言った。
「栄口俺のこと嫌いだよな」
 何をいまさらそんな当然の事を言うんだ?
「お前昨日は自信満々に『俺のこと好きなんだろ』って言ってたくせにどういう風の吹き回しなわけ」
「ほらやっぱ嫌いなんじゃん……」
 縋るように絡めてきた水谷の腕で昨日の悪夢を思い出す。熱い手のひら、口の中で蠢く水谷の冷たい舌。
「嫌いだよ」
 払い除けた腕、泣きそうになっている水谷をバカみたいだとせせら笑いながら、とどめを刺すために、もう一度。
「だいきらいだよ」
 嗜虐心に駆られ、整った顔が崩れる姿を黙って見ていた。
 僕もこいつ以上によっぽどひとでなしだ。
作品名:ハンサムキラー 作家名:さはら