こらぼでほすと 再会1
それで、土日を利用して、見舞いに来たのだ。
「そうですね、僕と悟浄も、そのローテーションに組み込んでください。」
バイト組は、昼間に仕事があるが、本職組は、昼間は比較的暇だ。それで、本日も、こ
んな陣容で顔を出している。
「しかし、相変わらず、オーナーの情報網は洒落にならないよな? 」
呆れたように、ハイネは、そう言って苦笑する。宇宙空間で戦闘があるということくら
いは、把握できるが、ロックオンが、どこで戦闘に参加して負傷したかまで、把握してい
るのが、非常に恐ろしい。砂漠で、一粒の砂を拾うくらいの正確な情報がなければ、生き
たままのロックオンを拾うことは不可能だ。
「ラクスなら可能だろうさ。なんせ、キラの時は、本人がプラントで、キラは地上で負傷
したのに、わざわざ、プラントまで運んで治療したことがあるんだからさ。」
「え? 」
その負傷に関わったアスランだって怪我をしたが、放置されて、カガリに辛うじて見つ
けて貰ったのだ。本当は、知っていたはずなのに、キラに怪我をさせたから報復されたと
みていい。
「そんなにお気に入りだったのか? ロックオンは。」
「違うな、あれは、刹那のためだろ? ラクスは、可愛いものが好きなんだ。いずれ、刹
那を引き抜く布石ってとこだろ。」
「それに、割とお客様に好評だったからでしょうね。商売上手というところですか。」
八戒とアスランの意見に、うんうんと、悟浄とハイネが頷く頃に、キラと刹那が戻って
きた。
「それと、キラ君が、刹那君を可愛がっているというのも、オーナーの理由なんでしょう
ねぇ。」
「それが最大の理由かもしれませんね、八戒さん。」
「よくアスランが生きてるな、と、俺は感心してるよ。」
「ああ、それ、俺も思うよ、ハイネ。離婚したら、速攻で消されるんだろうな。」
四人で大笑いしているので、キラは不思議そうに首を傾げているし、話に参加していな
かった悟空は、そんなものは無視して、刹那にお菓子を勧めている。
夕刻まで、そうやって過ごし、夕食を食べてから、刹那とロックオンを残して帰って行
った。
再生治療は、完璧なものではない。それに、擬似太陽炉から放出されていた粒子は、遺
伝子情報を狂わせる効果があった。比較的軽傷で済んだところは、難なく再生したのだが
、肝心の右目は視力が、ほとんどない。形は完全に再生できているが、機能までは再生で
きなかった。だから、利き目が使えないロックオンでは、死角が大きすぎてデュナメスを
乗りこなすことができなくなった。ハロのサポートがあろうと、それで補完できる簡単な
ものではないからだ。
目が覚めて、あっちこっち検査されて、判明したことに、それはそうだろうと納得はし
た。生きているだけでも不思議な状態だったから、どこかに不具合が生じるぐらいはある
だろう。
ぼーーっと、庭を眺めていたら、目の前に牛乳の入ったコップが、ふいに飛び出してき
た。無言で睨んでいるのは、刹那だ。
「ああ? そりゃ、おまえの飲み物だろうが。俺は、もういい。」
ぐいぐいと、口元に押し付けてくるので、仕方なく受け取ったものの、それをテーブル
に置いたら、また、付きつけられた。飲むまでやめないらしい。
「おまえこそ食べろよ。」
「・・・・・・・・・・」
注意しても、返事も言い訳も聞こえない。とりあえず、睨んでいるので、牛乳に口を付
けた。そうすると、大人しく刹那は椅子に着席して、自分の食事に手をつける。朝食にし
ては、結構、ヘビーな感じだが、刹那は気にした様子はない。さすがに、ロックオンの前
には、軽い感じのメニューが並んでいる。内蔵を動かしていなかったわけだから、徐々に
馴らしていくように、と、医者が説明してくれた。
「そういや、おまえの服を、どっかで調達してこないとな。」
着たきりスズメの刹那は、昨日と同じ服を着ている。サイズが違いすぎて、ロックオン
のために用意されたものは、ぶかぶかで無理があった。着の身着のままで、すっ飛んでき
たから、着替えも何もあったものではない。だが、何日も預かるなら、そういうものも必
要だ。
「昨日、アスランにでも頼めば、よかったな。失敗した。」
歌姫様の別荘だから、以前も滞在したことがある場所だ。ここなら、ヘリで往復できる
ので、アスランに頼めば、難なく調達してくれるはずだ。さすがに、自分自身は買い物に
行けるほどには回復していないが、刹那に行かせればいいか、と、思い直す。
「なあ、刹那。おまえ、着替えを調達してこいよ。」
「・・・・・・・・」
ハグハグとパンに齧り付いていた刹那は、ロックオンの言葉に、ぶんぶんと首を横に振
っている。
「けど、着替えがないんだぞ? 」
「・・・・・・・・・・」
じろっと睨んだ刹那の瞳は、「着替えなくても死なない」 とか言っているのが、わか
って、ロックオンは笑いだす。
「そりゃ、死にはしないだろうがな。俺の精神衛生上よくない。サイズが俺と一緒なら貸
してやるんだけど、おまえ、細いからな。」
昨晩、パジャマを着せてみたのだが、上着は折り返すとかで、どうにかなったが、問題
は下だ。裾は折り返しても、腰がすかすかで、ずり落ちてしまったからだ。
「おまえ、毎晩、パンツを洗濯して、それで、俺の上着だけ着て、下はすっぽんぽんで寝
るつもりか? 風邪引くだろ? 」
一日ぐらいは仕方がないと、そういう格好で寝かせたのだが、毎晩、それはまずいだろ
う。
「うるさい。」
「おお、刹那、やっと言葉を思い出したか? 」
ようやく刹那が声を出した。だが、それだけだ。威嚇するような瞳で、立ち上がると、
ロックオンの傍へやってきた。そして、テーブルに配置されたままになっているスプーン
を取り上げて、ロックオンの右手に無理矢理掴ませて、スープへと、そのスプーンを突っ
込んだ。
「なに? 」
「・・・・・・・・」
「わかったよ。食えばいいんだろ、食えば。」
強引に食事を強要してくるので、ロックオンも仕方なしに、スープを飲む。こいつ、こ
んなに世話焼きだったろうか、と、考えて、ついつい頬を緩むのが止まらない。
リハビリと言っても、今のところは歩くぐらいが、関の山なので、とりあえず屋敷を徘
徊する程度だ。それも、後ろには無口な猫を従えている。
「どうも、足の運びがぎこちないな。」
返事はなくても聞いている刹那に、話しかけていると、前方から人がやってきた。使用
人のような制服ではないから、明らかに外からの訪問者だ。刹那のほうも気付いたのか、
自分の前に庇うように出て来る。
「うおっ、本当に威嚇されたよ、俺。」
その様子を目にした黒い髪の少年のほうは大笑いして、「俺、敵じゃないから。」 と
、手をひらひらと振っている。
「キラさんのお使いです。」と、金髪の綺麗なほうは、軽く会釈してくれた。
「キラ? ああ、あんたたちもホストなんだな。」
作品名:こらぼでほすと 再会1 作家名:篠義