添臥と寒暁
「先生、もうちょっとこっち来て」
まだ向こうの端の方に寄っている糸色を背中から呼んで、またちょっとずつこちらの方へ体をずらす彼の背へ、准はそっと寄り添った。
「……あ」
少しだけ触れた背中が強張る。
ちょっと前までは強く四肢を絡めて体の奥深くまで繋げていたのが夢の中のことだったかのように、今は触れるや触れずやの緩やかさで寄り添うだけのまま。
「こうするの、いやですか?」
准は背中越し、糸色へと小さく囁いた。
「──いいえ」
さっきまでの頑なさとは違った小さな仕草で、糸色は首を横に振る。許しを得て、准は少しだけ彼の方へと距離を詰め、背中から彼の体をそっと抱いた。
腕の中、胸の中へ、温かさが伝わる。
「久藤くん」
闇で満たした部屋の中に聞こえる小さな呼び声に、准は笑みながらはいと応えた。
「……ごめんなさい」
「どうして、謝るの?」
「我が儘云って──ごめんなさい」
泣きそうな響きの詫び声に、准は愛おしい思いに微笑みを誘われるのを感じながら、今度は少し強く、恋する人の体を抱いた。
ごめんなさいという言葉の意味が、彼が本当はこんな風に准の目を避けたりしたくないと思ってくれているという事ならば嬉しい。
本当は触れ合い、抱きあって、感じるものを隠さず准へ預けたいと思ってくれていると云うことならば。
今は気恥ずかしさが勝って、どうしようもなく、こうして准に背を向けずにはいられないのだとしても。
「先生……好きです」
柔らかな黒髪に軽く口接けながら、いつだって心に満ちている言葉をそう告げると、彼は小さく頷いて、
「はい……」
と、准の心を受け入れる言葉をくれた。
寄り添い、触れ合ったところから、彼の体温が柔らかに伝わってくる。
部屋の中には冬の寒さが染みてきているけれど、ふたり体を潜めたこの場所は、こんなにも心地よい暖かさに満たされている。
その温かさを大切に抱きながら、准はそっと目を閉じた。そうして、身を寄せ合うふたりともに、穏やかな眠りの中へ沈み込んでいった。