すべてをゆらして
「で、栄口の彼女はどんなんだ?」
「まさかぁ、いるわけないじゃん」
予想もしない自分へのフリに一瞬面食らったが、手を上下にひらひらと振った。実際彼女はいなかった。
すると、友人たちは嘘ついてんじゃねぇよ〜と小突きながらその根拠をひとつひとつ挙げていった。
最近付き合いが悪い、服が格好よくなった、なんとなく幸せそう、などのどれも予想の範囲を出ていないものだったけれど、栄口は改めて指摘されるそれらの要素に全く気がついていなかったので、自らを省みることとなった。
付き合いが悪いのは部活が忙しいのもあったが、その数少ない休みは水谷と一緒に過ごしていたし、服は水谷の買い物についていったついでに買ったものだし、水谷を見ているとなんだか幸せだ。思い返してみると全て水谷に起因していることに栄口は少し恐怖感を抱いた。
「お前みたいな人のいい奴は早くに売れていきそうだな」
「そうそう、三十そこらで奥さんとガーデニングだな」
ありえるありえると友達たちは手を叩きながら大げさに笑い、栄口も笑顔でそれに同調したが、心の中ではありえねーよと悪態をついていた。
例えば水谷がタオルを首に巻き、舌を噛みそうなカタカナの名前の草花に水をやったり、良くない葉っぱを間引いたり、今年の夏は暑くなさそうだからナニナニを植えようかと言っている、そんな想像の中の自分はなぜかトンボを持っているのだった。
(ははは、ありえねー)
栄口はその恐ろしげな妄想を否定し、引きつった顔をごまかすためにストローを口に寄せた。