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すべてをゆらして

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スタートライン


 中学の時の誰が付き合った誰が別れただのという話を栄口は炭酸の抜けたコーラと一緒に飲み下した。喉越しは悪く不愉快に甘い。
 向かいに座る元クラスメートは、自分の彼女がアイドルのナントカに似ていると公言し、その隣に座る友人がそんなことあるわけないと囃し立てる。栄口は冷めたフライドポテトを口に運びながら二人のやりとりに笑い、けれど頭の隅ではもっと別のことを考えているのだった。
 (あいつ今なにしてんだろうなぁ)
 一方その頃、水谷は寝転びながら読んでいた雑誌をずるりとベットの下に落とした。天井からそのままゆっくりと視界を移動させ、壁にかかっている時計を見る。指を折って残りの時間を確認した、あと二時間。今日はなんだか一分一秒がいつもより長く感じる気がする。寝返りを打つ身体はけだるく、思いをはせるのは二時間後のこと。
 水谷はふらりと起き上がり、顔でも洗って気持ちを切り替えようと洗面所へと足を向かわせた。何かしていないとこの二時間がより一層長く感じる気がしたからだった。
 しまりのない自分の姿を映す鏡からぼんやりと視線を手のひらへ移すと、自分は歯磨き粉のチューブを手に絞り出していた。あははは、と乾いた笑いが思わず口から漏れたけれど、実際のところは全く笑えなかった。
 恋なんていう体のいい隠れ蓑の中に入っているこれは病気なんじゃないだろうか。
作品名:すべてをゆらして 作家名:さはら