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すべてをゆらして

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(俺は)
 なにやってんだー! のリズムで水を飲んだ。
 慌てた栄口が駆け込んだ場所は台所だった。水を注ぐコップを持つ手が小刻みに揺れ、どうしてくれよう、とひとり自分に恨み言をつぶやいた。
 あんなことするつもりはなかった、ましてや自分から。
 また顔に血が上るのを感じて水を口に含んだけれど、あまりの勢いに驚いたのだろうか、水は気管に入って栄口はしばらくむせた。そうして、俺は本気で何をしているんだろうと我に返った。
 (こんなに自分がわからなくなったのははじめてだ)
 台所の床が靴下越しにも冷たく感じる。蛇口からひとしずく水滴が落ち、流しに音を立てた。動揺を抑えるためにさっき自分がした行為を必死に思い出さないようにしてみるけれど、部屋に残した水谷とこれからどう向き合っていくかを考えると、瞼を伏せた水谷の顔が浮かんでくるのだった。
 (どうしたらいいんだ)
 唇をなめたら微かにカスタードクリームの味がした。水谷が食べていたシュークリームのものだろうかと考えると、否応なしに感触が蘇ってまた恥ずかしくなった。
作品名:すべてをゆらして 作家名:さはら