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 水谷のベッドは決して狭くはなかったが、年頃の男二人がそういうことをするのに決して十分な大きさではなかった。水谷が腰を打ち付けるたび、抱え上げられた栄口の足が壁にぶつかり、わずかにかすれた音を立てた。
 薄暗い部屋の中、ずっと同じゲーム画面を映すテレビがぴかぴか光り、そのわずかな明かりが二人を照らす。
 栄口は顔を腕で隠し、その隙間から多角に壁へ映る水谷の影が動く様子と、ゲーム機の電源の蛍のような淡い緑の光を眺めていた。喘いでいる自分の顔を見られるのは嫌だったが、それ以上に動作に合わせ荒い息を吐く水谷の顔を見ることはもっとできなかった。
 「っ……」
 奥まで突き上げた水谷がそこでぴたりと動くのを止めた。さっきから栄口は腕で隠して全く表情を見せてくれないし、下から時折漏れてくる声は苦しげだったため、水谷は組み敷いた相手のことが心配になった。
 顔を覗き込むために身体を曲げると、その分挿入が深くなったのだろう、栄口の半開きの口から覗く赤い舌がびくりと痙攣した。その様子にたまらなく欲情を煽られてしまった水谷が適当に振り払うと腕はぐったりとシーツ上へ散らばった。
 開け放たれたその下、栄口はさめざめと泣いていた。
 (えっ、つーかマジ泣きぽいんですけど……)
 目尻を流れた涙が薄闇の中でうっすらと光って見えた。わずかに開けた目はうつろで、天井のどこかを見ている。
 「大丈夫」と言っていたけれど、自分のそれを当てがったときの栄口の顔は青ざめていた。水谷もできるだけの気遣いはしようと心に決めていたのだが、いざ中に入ってしまうとあまりの快感にすっかりそのことを忘れ、思うがままに栄口を攻めていたのだから泣かれても当然だった。
 「は……」
 口を開くのも億劫に栄口が息を吐くと中に入ったそれがきつく締め付けられ、遠のく意識とともに思わず腰が浮きそうになる。繋がった部分がじんじんと熱く、水谷が栄口にそうしたいと考える、遠慮の類まで容易く溶かしてしまう。
 意地悪げにゆっくりと熱を引き抜いたら、栄口の喉が切れ切れにせつない声を出す。
 (だめだー、さかえぐちかわいすぎる……)
 入れる前よりは大分緩くなったそこへ前触れもなく突き入れると、小さな叫び声をあげて栄口の目から新しい涙がどんどん溢れた。胸の内ではいくら「ごめん」と繰り返しても、一度動き出した自分を止めることはできなかった。視界にかかる髪が邪魔で、軽く頭を振ると下にいる相手の肌へぽたりと汗が落ちた。空調もつけていない室内はむっと暑く、テレビはゲームの一ステージの曲を何度も繰り返し流す。
 降りた前髪で印象が変わった水谷が自分を犯している様を、栄口は細く開くことしかできない瞳から眺めていた。
 (水谷ってこんな顔してたっけ)
 (……もっとへらへらしてたような気がする)
 水谷が奥へ奥へと侵食してくるそこに、今は痛みと痛みの間、なんとも形容しがたい感覚が自分を襲ってくる。そのわからない衝動に身を任せるのがすごく怖いのに、身体は湧き上がったそれを素直に受け止め、奥底から染み入るように段々と理性を壊してくる。
 (やだな、なんか水谷)
 (男の顔してる……)
 どうしてそう思ったのだろう。水谷が自分を犯しているという、それだけの理由ではない気がする。無我夢中で自分を貪り、快楽に顔を歪める水谷の顔は確かに『男の顔』だと思った。
 苦しげな息継ぎと打ち付けてくる腰の動きが早くなる。水谷の終わりが近いのだ。前後に激しく揺さぶられると、抱え上げられた足がそれに倣う。反復される動きに肩へ乗せた足は跳ね、栄口の胸元にまた水谷の汗がはたはたと散った。
 (あ、もう、ちょっと)
 深く深く攻められるたびに淡い光がチカチカ瞬きをし、瞼の裏で捕らえる間もなく消えてしまう。あと少し手を伸ばせばそれに届きそうな気がした。
 「う、あ」
 ひときわ奥まで押し込んだ水谷が小さな呻きとともに熱を出し、その感覚に栄口は思わず開いた足をぎゅっと閉じた。汗で湿る自分の鎖骨へぐったりと顔を埋め、荒い呼吸を繰り返す様子に栄口は水谷が達したことを知った。
作品名:すべてをゆらして 作家名:さはら