すべてをゆらして
そう告げた後の水谷の顔は告白されたとき以上に変だったなぁと一人で思い出して含み笑いをした。何ニヤニヤしてんの?と声がして、自転車を押しながら当の本人がだらしなく歩いてくる。
その問いに答えることなく、栄口は自分の方へすらりと伸びた水谷の影を踏んで近づく。
「どうぞ後ろに乗ってくださいよー」
「……なんか俺のチャリよりやばくないか?」
見るからに古そうな、そして実際古い自転車に二人乗りだなんてパンクさせるためにしてるようなものじゃないか? 栄口は提案したが、そうなったらまた歩こうよ。水谷がそうへらりと笑うと何だかつられて栄口も笑ってしまう。
漕ぎ出した自転車は速度を速め、オレンジ色に染まる街をぐんぐん進んでいく。
景色に気をとられていた栄口はちょっとした段差でバランスを崩し、前のめりに頭をぶつけた。
「わ、ごめん」
「えー? なにー?」
「バカ、前見ろ前!」
長い下り坂の先はもう水谷の家が近い。なぜか切れ切れにブレーキをかけるその表情は見て取れないけれど。
(たぶん俺と同じこと考えてんな)
栄口はそう思いながら水谷のうすい背中へ、そっと額をくっつけた。