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ケンカップルとサンドウィッチ! ~後日談~

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 バイトのお姉さんのニコニコスマイルと「ありがとうございましたー」という愛らしい作り声に愛想良く微笑んで店を後にした正臣は、帝人の隣に立つと、お姉さんに向けたものとは一転、渋い顔をしてみせた。
 忠告をしたのに、当人から返ってきたのが随分と消極的なセリフだったのだから、無理もないだろう。
「なんだよ、さっきのやる気のなさそうな返事は」
 人が心配してるっていうのに、と口を尖らせれば、帝人からは「ごめんね」とあっさり殊勝な言葉が。
「でも、僕思うんだよね」
 帝人が少し困ったように眉を寄せた。
「僕が、あの2人を避けることはできるかもしれないけどさ・・・・・・」
「けど、なんだよ?」
 言葉を濁す帝人を訝し気に見ながら先を促すと、帝人がそれまで握っていたカバンの紐から手を離して、人差し指をスッと前にやった。
 正臣がつられて指し示す先を見る。
 その先には――――。
「ゲッ・・・・・・」
 正臣が、牽き潰された蛙のような声をあげた。
 人の行き交う街中、さして目立つ格好でもないが、かといって一度視界にいれてしまえば見間違うはずもないほどの存在感をもつ男が立っている。
「あ、帝人君いたー。あと、紀田君も」
 その男――臨也は、ヒラヒラと手を振って見せながら、その通りの良い声で帝人と、ついでのように正臣の名を呼んだ。
「向こうが会いに来る場合、不可抗力だと思わない?」
「・・・・・・」
「しかも、逃げるにしたって、僕は体育得意じゃないんだよ。それに比べて、あの人たちは殆どチートの域でしょう?」
「・・・・・・・・・・・・」
 正臣が何も言わず、お前、本当に大変だな、という意味をこめた視線を帝人に送った。視線の意味にに気づいたのか、フッと生温い笑みを帝人が浮かべて、首をゆっくり横に振る。もう、慣れたから、ということらしい。
「なーに、目と目だけで通じ合っちゃってんの?」
 そうこうしている間に、臨也があっという間に2人の少年の前に立った。
 人を少し小バカにしたような笑みを浮かべたまま、しかしいかにも面白くないですという雰囲気を醸し出す奇妙に器用な臨也に、帝人は苦笑を浮かべた。
「いえ、別になんでもありませんよ。こんにちは、臨也さん」
 帝人が肘で正臣の腕をつつくので、仕方なく正臣も「ちわ」と会釈を一つ。
「はい、こんにちは。――さて、帝人君!」
 声音こそ柔らかいが何となく上から目線の挨拶から一転、ビシッと効果音がつきそうな程に勢いよく、臨也の人差し指が帝人の鼻っ面に向けられた。
「は、はい!?」
 帝人が突然のことに目を白黒させる。
 しかし臨也は、そんな帝人の状況もおかまいなしに言葉を続けた。
「紀田君だけズルいよ!!」
「「・・・・・・は?」」
 帝人と正臣が揃って声をあげる。突然何を言い出すのだろう、この大人は・・・・・・。
「えっと、何がズルいんですか?」
 帝人が困惑しながら尋ねる。
「俺も、紀田君みたいに食べたい」
「へ? 何を・・・・・・?」
「さっき、紀田君に食べさせてたじゃない」
「さっき?」
「――ああ、もしかしてポテトのことっすか?」
 ますます困惑する帝人とは反対に、正臣が合点がいったと声をあげれば臨也は「そう!」と言って指をパチンと鳴らした。
「俺も、帝人君のポテト食べたい」
 臨也の指パッチンにに胡散臭さとウザさを感じながら、正臣は、はたと気づく。
「なんで、そんなこと知ってるんすか?」
 あの場に臨也がいなかったはずだ。ということは、どこかで見ていたのだろう。
 正臣は、ギッと臨也を睨み上げた。
「ストーカー行為は犯罪っすよ、臨也さん」
「ストーカー? やだなぁ、人聞きが悪い。そんなことしてないよ」
「じゃあ、何してたんすか?」
「観察してただけ」
「だから、そういうのを――!」
 ストーカー行為というのだ。
 悪びれた様子など微塵もうかがわせない臨也に、正臣が声を荒げた。
「ま、まぁまぁ、正臣落ち着いて」
 卓袱台があれば豪快にひっくり返しそうな勢いの正臣を宥めながら、帝人が呆れのこもった視線を臨也に送った。
「臨也さんも、そういうの止めてください。見られてると思うと、あんまり気持ちのいいものじゃないですし」
「うんうん。ごめんねー? 反省してるよ?」
「何で語尾が上がってるんですか・・・・・・」
 帝人がガクッと肩を落とした。そして。
「もう、仕方ないですね」
「わ、さすが帝人君。許してくれるんだ?」
「帝人っ! あんないい加減な謝罪で・・・・・・」
「紀田君、うるさい。帝人君が良いっていってるんだから、良いんだよ」
「いえ、良いとは言ってませんよ」
 帝人がすぐさま訂正を入れるが、臨也は「まぁ、似たようなもんでしょ」と嘯く。正臣が苛立ちをつのらせているのを悟ったのか、帝人が話を変えようと声をあげた。
「それにしても、臨也さんそんなにポテトが食べたいんですか? 僕のはもう食べちゃってないですけど、人の食べかけよりは新しいものの方が良いと思いますよ。あ、でも今日のポテトすごくしょっぱかったんで、注意してくださいね」
「「は?」」
 正臣としては大変不本意ではあるが、臨也と声が被った。帝人をマジマジと眺めれば、帝人は2人がどうして素っ頓狂な声をあげたのか理由が分からないとでも言うように、不思議そうな顔をしている。
「え? あ、あの、僕、何か違うこと言いましたか?」
 本気で分かっていない様子で臨也と正臣の顔を交互に見るの幼馴染を眺めた正臣は、臨也さんが求めているのはポテトじゃないと思うぞ、と脳内でツッコミをした。正臣みたいに食べたい、ようするに先程、帝人が正臣の口にポテトを入れた行為(いわゆる「あーん」というやつだ。)と同じことをしろといっているのだ。
 帝人に説明してやることは簡単だ。しかし、わざわざ臨也の言葉を代弁してやる義理などノミ虫ほどの大きさもない。なので正臣は、黙って傍観に徹することにした。チラリと臨也の方をうかがえば、その塩辛いポテトを食べたわけでもないのに、ずいぶんしょっぱい表情をしている。内心、ザマァwwwだ。
「あの、臨也さん?」
 何も言葉を発しない臨也を不審に思ったのか、帝人が少し困ったような表情で臨也に問えば、臨也はムーッとした声をあげた。
「俺、ジャンクフード嫌いなんだよね。だから、いらない」
「そうなんですか」
「うん。だからね」
 臨也が正臣を押し退けてその後ろにいた帝人の腕をグイッと引っ張った。
 正臣が、何か前にも似たようなことがあったな、と激しいデジャブを感じている間に、バランスを崩して「うわっ」と声をあげた帝人は臨也の腕の中へ。
 臨也は先程までとは打って変わって機嫌の良い声で帝人に声をかけた。
「俺が美味しいものを食べに連れていってあげる。それで、「あーん」してもらおう。あと、間接キスもしてたよねぇ? 俺もしたい。その先も勿論したいけど。――あ、何が食べたい? 和洋中その他なんでもリクエスト聞くよ」
「ちょっ! アンタ何勝手に――!」
 ウチの子になにすんだ! という心境で、正臣が今まさに元ヤンの本領を発揮せんと地面を強く踏みしめた瞬間――――。