ケンカップルとサンドウィッチ! ~後日談~
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シクシク、シクシク。
往来の中、ひたすら涙をこぼす女性が一人。それを両脇で挟むように立つ男性たちと女性の正面に立つ少年が、もてあまし気味な様子で見ていた。
絡まれてる? もしくは、修羅場? と誤解を与えそうではあるが、そうではない。
「おい、狩沢。頼むから泣きやめ」
周囲の好奇の視線に居たたまれなくなった門田が、ボロボロと涙をこぼす狩沢に声をかけた。
「これが、涙? 私、泣いてるの・・・・・・?」
狩沢がポツリと呟いた。えらく神秘的な口振りだが、その声はしっかり涙で震えている。
「どうみても、泣いてると思いますけど・・・・・・」
正臣が戸惑いながら言えば、狩沢の隣に立つ遊馬崎が「いやあ、お約束のセリフっすよねえ」としたり顔で頷いた。
狩沢は涙を拭うと、大丈夫とでもいうように手をパタパタ振ってみせた。
「安心して、これは悔恨と歓喜の涙だから」
「いや、少しも安心できねぇだろ。そもそも、なぜ泣く」
門田が至極真っ当なことを言えば、狩沢が「だって!」と声を荒げる。その鬼気迫る勢いに、他の者たちは圧倒された。
「あと、少し、もう少しだけでも早ければ、紀田君の説明してくれたものがリアルで見れたんだよ!? 幼なじみで親友というポジションを最大限に生かした超ナチュラル「あーん」と間接キス! うはっww正帝ktkr!! しかも、そこにイザイザとシズちゃんが現れてケンカップル要素とサンドウィッチな展開もいかんなく発揮なんだよ!? こんな、こんな禿萌えな状況に出遅れて、見逃して・・・・・・。 あぁぁぁあ! あの時、会計の列がもう少し短ければ! 特典ポスカをどれにするか悩まなければぁぁあ・・・・・・!」
戦利品が入っているだろう青い袋や黒い袋を振り回し、その場にもんどりうたんばかりの狩沢が、引っ込めていた涙を再開させた。相当に悔しかったらしい。
一方、正臣は自分の説明能力に重大な欠陥があるのではないか、と自信喪失気味になっていた。確かに正臣は、騒ぎをききつけてやってきたらしい狩沢たちに状況の説明を試みたのだが・・・・・・。
「・・・・・・あの、俺の説明って、そんな風に聞こえてましたか?」
俺の説明がこんなに腐ってるわけがない。そう思った正臣は、門田や遊馬崎に虚ろな視線を送った。
「いや俺には、お前らが帰りしなに臨也と出会して、そこへ静雄も現れて一騒動、としか認識できなかったな」
「同じくっす」
「ですよね」
門田と遊馬崎の言葉にホッと胸を撫でおろす。
「だがしかーし!」
突然、狩沢の大声が響いた。「うるせえ!」と叱りつける門田の言葉など意に介さず、狩沢は続ける。
「神は私を見捨てなかった!」
狩沢が、ズビシッと効果音でもつけられそうなほど力強く正臣の背後を指さした。
正臣の背後。そこには、帝人と臨也と静雄がいた。しかし、騒がしかったり物が飛んだりすることはない。
「本当にシュールな光景っすねぇ」
遊馬崎の言葉に正臣と門田が首を縦に振り、無言の肯定を示す。狩沢は「801の神様、ありがとー!」と天に向かって手を合わせているが、正臣としてはもしそんな神がいるなら唸る鉄拳の一つでも喰らわせてやりたい。
正直あまり直視はしたくないが、正臣はチラリと背後を振り返り、そこで繰り広げられているものを見た。
作品名:ケンカップルとサンドウィッチ! ~後日談~ 作家名:梅子