こらぼでほすと 再会3
カガリはロックオンの質問に答えて、それから、鷹に嫌味を言い、さらに、鷹がきっちり反撃しているので、口を挟む暇がない。喉が渇いたなーと思ったら、刹那がミネラルウォーターのペットボトルを渡してくれる。
「サンキュー、刹那。」
ごきごきと飲んで、机に置こうとしたら、刹那が、続きでごきごきと飲み干した。それを、激論していたカガリと鷹は、たまたま見てしまった。
「親子猫だな?」
「そうそう、いい感じだろ? キラがめちゃくちゃ気に入ってんだ。」
「こういうの好きだよな? キラは。なあ、腹が減らないか? 」
「そうだな。メシ食ってから整備するか。」
カガリと鷹のコンビも、マイペースだ。スケジュールとか考えなくて、思いつくままに行動している。
結局、早めの昼食の後で、カガリは、ゲームをテレビに繋いで説明を始めてしまった。整備が、どうとか言っていたのに、それは、もう過去のことらしい。
「対戦型だと、テニスとかでいいかな。ほら、コントローラーだ、刹那。」
コントローラーの使い方を説明して、とりあえず、実践するか、と、ゲームを始めてしまう。
「整備がどうとか言ってなかったか? フラガさん。」
「俺も、ムウでいいよ、せつニャンのママ。」
「あんたが、踵落としを決められる理由がわかるような気がする。」
止めるつもりはないのか、フラガのほうは、食後のコーヒーをのんびりと飲んでいる。つられるように、ロックオンも紅茶を飲んでいる。カガリが本気でやっているらしく、刹那も必死だ。それが、とても子供らしくていいな、と、ロックオンは頬が緩む。
「うちに就職なんだって? 」
「まあ、そういうことらしい。歌姫さんが、うちの組織と交渉したみたいだ。」
マイスターではいられないが、仕事ならあるだろうと、ロックオンは考えていたのだが、すでに、そういう取り決めがされていた。
「ママとしては、子猫が心配? 」
「・・・・うん・・・まあ、そんなとこだろうな。」
それなりの接点があればいいと思っている。ただ、組織が再開したら、それも難しいんじゃないかな、と、そこいら辺りが、ロックオンが気に病むところだ。午前中のリハビリで軽い疲れが出て来る時間だ。うとうととしかけて、ティーカップを落としそうになった。
「おっと、危険だな。横になるか? 」
それを、取り上げて、ムウが尋ねてくれる。そうするか、と、立ち上がったら、途端に、刹那がコントローラーを放り投げて、しがみついてくる。こんな状態の刹那だから、気になる。
「横になるだけだ。」
「・・・・・・・・」
「じゃあ、ここで、横になってるから、カガリとゲームしていろ。それなら、いいんだろ? 」
「・・・・・・・・」
こくこくと頷いたので、仕方なく居間のソファに横になる。対面のソファには、ムウが横になっている。
「牛になるぞ、フラガっっ。」
「あはははは・・・・なれるもんならなりたいなあ。」
げしっっと、カガリは、腹に一発コブシを見舞うと、屋敷の人間に、毛布を頼んで、ロックオンにだけかけてくれる。
「悪いな、カガリ。フラガさんはいいのか? 」
「あんなもんは雪上に転がしても死なない。・・・・刹那、これでいいんだろ? 」
ソファの背のほうから、ロックオンを睨んでいる刹那に、カガリも苦笑する。とても可愛い子猫なんだ、と、キラが言っていたが、確かに可愛い。よっぽど、親猫が消えたことが堪えたのか、離れたがらないのだとも言っていた。
「確かに、美人なんだよ。けど、もうちょっと若くて小さいのが、俺の好みなんだよなあ。ロックオンだと、マリューと被る。」
対面のソファで優雅に感想を呟いているムウに、「あれ、殴って来い。私が許す。」 と、刹那に命じている。そして、素直に、ぼくっっと一発、腹に蹴りを入れてから、刹那はゲームの前に戻った。
全てが一瞬で消えてしまう恐怖というものを、ロックオンもカガリもムウも知っている。たぶん、吉祥富貴のメンバーは、みな、知っているだろう。だから、刹那の様子を納得して優しく接してくれているのだ、と、ロックオンも気付いている。からかうような言動も、ゲームをやってくれるのも、そういう気持ちの現れだ。少しずつ、その恐怖を和らげさせてくれるつもりらしい。
「やっぱり、ここだ。」
居間へ飛び込んできたダコスタは、やれやれと肩を落とした。その背後から、バルトフェルトも顔を出して呆れたという顔をしている。怪我人と子猫は、まあ、いいとしよう。だが、昼寝している鷹と、ゲームに熱中している筋肉姫には、雷を落としたいところだ。
「行政府から、散々、呼び出しがかかってますよ、カガリ姫。」
ダコスタが、そう言って、ゲームをリセットした。白熱していたので、カガリと刹那が、あーーーーと、大声を張り上げた。その声で、びっくりして、鷹とロックオンも飛び起きる。
「なんだ、虎さんか。」
あーあーと、あくびをひとつして、鷹が伸びをする。
「なんだ、じゃないんだがな、鷹さん。カガリが行方不明だと、行政府から抗議の電話が入りまくっているんだが? 」
「あいつら、五月蝿すぎるっての。なあ、嬢ちゃん、そろそろ仕事したほうがいいらしいぞ? 」
「ちっっ、いいとこだったのに。刹那、またやろう。それまで練習しておけよ? キラは、私よりうまいからな。」
「ああ。」
いい気分転換だった、と、カガリは、さっさと部屋から出て行く。護衛の鷹も、「じゃあ、またな、せつニャンと、ママ。」 と、挨拶して続く。マイペースも、ここまでくると立派だ。
「驚かせてすまなかったな、ロックオン。あいつらにコンビを組ませるな、と、言ってるんだが、人手がなかったらしくてな。」
いきなり叩き起こしたことを謝っているバルトフェルトは紳士だ。頭がすっきりしていないロックオンは、うまく返事ができなくて、「いや、別に。」 と、返した。
「戻るんなら運んでやろうか? 」
「・・・・いや、片付けないと・・・・」
ゲーム機が、テレビと繋がったままだ。それを片付けてから、また歩いて戻ればいい。刹那が、まだゲームをするのなら、ここで一休みしていればいいし、と、説明したが、刹那は、ゲームは無視だ。すでに、ロックオンの横にいる。
「ゲームを片付けろ。まだ、やるんなら、俺は、もうちょっと寝る。」
ようやく、頭が働いてきて、視界にダコスタが入る。前回のバイトの時に顔を合わせているバックヤードのスタッフだ。
「やあ、久しぶり、ダコスタ。」
「お久しぶりです、ロックオン。今日、本当なら、八戒さんが来ることになってたんですが、予約が入ってしまったんで、俺が届けにきました。」
はい、と、差し出されたファイルは、八戒とアスランの料理レシピが収められたものだった。先日、アスランに頼んだものが、届いた。
「ああ、ありがとう。」
それを手にしようとしたら、距離感を間違えて、手が空を切った。やべぇ、と、刹那のほうに目を向けたら、きっちりと睨んでいた。
「おいおい、寝惚けてるのか? ロックオン。」
作品名:こらぼでほすと 再会3 作家名:篠義