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こらぼでほすと 再会3

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「いや、それはないです。」

「なんなら、虎さんとこの奥様にお出まし頂くって手もあるんだからさ。」

 バルトフェルトの奥様は、専業主婦なので、割と気楽にしている。さすがに、ホストクラブのヘルプはしてもらえないが、レクリエーションなんかの時は手伝いに参上してくれるし、オーナーと一緒で可愛い生き物が大好きという人だ。

「アイシャさん、暇ですかね? 」

「暇じゃないか? 虎さんの世話だけなら簡単なもんだろ? 土日なら、マリューおねーさまも手伝ってくれるだろうぜ? 」

 悟浄の言葉に、そういや、うちには、可愛い生き物が好きな女性が多いことを思い出した。たぶん、刹那の看病なら大喜びむしろ大歓迎されるはずだ。

「あんまり深刻に考えないこった。」

 真面目に悪い方向に考えてしまう自分の軌道修正をしてくれている悟浄に、八戒も苦笑して頷いた。あの子猫が、あまりにも安心感に餓えていて、それが気になっていたことも、お見通しなんだろう。

 
 その夜の『吉祥富貴』のお客様は、それほど多くはなかった。だが、ホストの数が、いつもより少ないので、バックヤードの人間もヘルプに借り出されていたりする。

「珍しいな、皆勤賞ものの八戒がいないとは。」

「すいませーん、ナタルおねーさま。それより、何をお飲みになりますか? 」

 御予約のナタルは、いつも指名は、シンとレイだが、このふたりでは到底、会話が成立しないので、キラや八戒といった話上手聞き上手が同席する。

「マティーニ、辛めで。」

「はい、了解です。」

 ヘルプのダコスタが、オーダーをトダカへと取り次ぐ。そうしていると、キラが、ぱふんとナタルの横に座る。

「お疲れ様です、ナタルさん。」

「キラ、久しぶりだな。」

「忙しいんですか? 疲れてるけど。」

「まあ、いろいろと。・・・・くくくくく・・・・しかし、キラに心配されるとは、私もダメだな。」

「いいんですよ。ここでは、愚痴でも八つ当たりでも、ナタルさんの気が紛れることが一番なんだから。」

「そうですよ、ナタルおねーさま。さあ、生命の水でも、召し上がってください。」

 キラが、話していると、逆手からカクテルが音もなく差し出される。さすが、王子様なレイだ。所作が美しい。

「レイもシンも好きなものを頼め。ただし、ノンアルコールだ。キラ、おまえもだ。」

「えーーーたまには、俺もお酒がいい。」

 ナタルは人間が硬いので、未成年には酒は勧めない。そろそろ未成年脱却なキラですら、ノンアルコールだ。シンが駄々をこねても、「ダメ」の一言で却下する。全員の飲み物が揃ったところで、軽く乾杯して飲み干した。

「ねーナタルさん。風邪の民間療法って、何かあるかな? 」

「ん? 風邪か? 確か、ねぎを首に巻くといいらしいな。後は、みかんを焼いて食べさせるとか、ショウガ湯も有効だ。」

「みかんを焼く? 」

「ああ、果物は基本的には身体を冷やすものなんだ。風邪の時は、温めるのが基本だから、真逆になる。だが、みかんのビタミンは風邪には有効なので、そういう方法ができたらしい。誰か、風邪か? 」

「うん、僕の子猫が。それで、八戒さんが看病に行ってるんです。」

・・・・・キラさん・・・それ、大いなる誤解の素です・・・・・・・

・・・・・キラさん・・それ、全部、刹那にやるつもりでしょう? 全部やらなくていいからっっ。お願い、ナタルさん、もう教えないでっっ・・・・・・

 レイとシンが内心で叫びつつ、顔は優雅に拝聴するふりをしているが、ちょっと頬が引き攣ってきた。

「子猫? キラ、悪いことは言わないから、里子に出せ。おまえに養育は無理だ。」

 それなりに付き合いのあるナタルも、キラの不器用さは知っているし、電波天然ぶりもイヤと言うほど身に染みている。そんなキラが、子猫を無事に育てられるわけがないと忠告した。

「おかーさん猫も一緒だから大丈夫。今ね、そのおかーさん猫が怪我して療養してるだけなので、僕が育ててるわけじゃないから。」

「野良猫なのか? 」

「えっと、野良というよりテロ・・・・」

「うわぁーーーーキラさぁーーーんっっ。」

 とんでもないことを言い出したキラの口を、慌てて、シンは両手でふさぐ。一応、ナタルは現役軍人様で、この間まで、そのテロリスト様の事件で奔走していたはずの人だ。頼むからその天然ぶりを見境なく発揮するのは、止めて欲しい。

「てろ? 」

「テッテロテロのベタベタの甘えん坊な子猫なんです。ナタルおねーさま。」

「レイ、その形容詞はおかしいぞ? それを言うなら、メロメロとかデレデレじゃないのか? 」

「あーそうです。メロメロなんです、キラさんがっっ。」

 新人のバイトでは、フォローも上手くない。ありゃありゃ、と、ダコスタが、慌てて、果物を運んでくる。そして、厨房のほうから、紅が、小さなスープを運んできた。

「ナタル様、お疲れなら、これをお試しください。漢方の入ったスープです。お口あたりは悪くないと思います。」

 同じバイトでも、それなりの経験値がある紅のほうは、すらりと会話の流れを変えた。そして、ナタルには見えないように、キラの頭にチョップする。シンたちの慌て具合から察するに、まずい発言が含まれていたとは気付いての処置だ。


 その様子をカウンターから見ていた三蔵は、大きな溜息をつく。あれだから、怖いのだ。そして、その横には、本日は、ご指名のない悟空もいて、爾燕の作ってくれた杏仁豆腐豪華くだもの入り大盛りなんてものを、ばくばくと食べている。

「おまえのダチは、そんなに酷いのか? 」

「まだ、よくわかんないんだ。」

「たぶん、刹那君の風邪は大したことはないと思うよ、三蔵さん。ただ、療養しているロックオン君に感染すると、そちらが酷くなるから、八戒君が看病に出向いたんです。」

 事情説明を受けたトダカが、カウンターの向こうから説明してくれる。なるほど、そういうことなら、サルのダチは問題はないだろう。

「おまえ、明日の夜から、向こうへ行って、イノブタの手伝いしてやれ。」

 エロガッパよりは役に立つとか付け足して、蕎麦焼酎のお湯割りを、ぐいっと煽る。心配なら見舞いに行ってくればいいだろう。

「え? いいのか? 明後日、法事が入ってたぞ。」

 寺の仕事が入っていれば、悟空は、そちらの手伝いもしている。法事となれば、法事客たちのお茶の準備から座敷の準備なんてものもやらなければならない。なんせ、三蔵の寺は、坊主と小坊主、つまり、三蔵と悟空しかいないからだ。

「うちのをお貸ししようか? 三蔵さん。」

 トダカも、悟空の見舞いには賛成らしい。

「うちのってどれだ? シンとレイは本職があるだろ? 」

 うちの、と言われたら、吉祥富貴のスタッフだと思ったのだが、トダカの関係者だったらしい。

「私の親衛隊があるんで、そこから、二、三人、手配しておこう。見目は考慮したほうがいいかい? 」

「「親衛隊? 」」
作品名:こらぼでほすと 再会3 作家名:篠義