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西浦和の西の西

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 それから後、水谷の言う「行かない?」は裏に意味を持つようになった。正しくは「しない?」だ。栄口は時々思う、どうして否定で尋ねてくるのかと。「行こう」「しよう」となぜ言わないのか。それは多分、自分たちがあまり良くないことをしているという自覚が水谷にあるからなのかもしれない。
 (栄口の立ってる?)
 (あ、う、うん)
 (栄口立ってるの見たらなんかオレもむらむらしてきた)
 あの時の自分はやはり魔が指してしまったんだろう。ワイシャツの半袖が長袖に変わるころ、栄口はふと思った。水谷がその手でどんなにいやらしいことをしてこようとも栄口は厭わなかった。身体の芯に熱が届かないことがもどかしく、より高い熱に打たれることを望み、自ら足を開こうとも羞恥心はなかった。
 そもそも栄口は一人でするのがあまり好きではない。ただの処理だとわかっていても無闇に気持ちがいいのが良くない。終わったあとのあの罪悪感に苛まれるくらいなら、男に犯されたほうがマシな気がする自分はピントのずれた潔癖症なのだろう。
 だからあれはセックスというよりは二人マスターベーションなのだ。それをする場所に、「あの場所」はなった。情欲にかられ、水谷のことを利用しているのかもしれないという気持ちもあったが、たいてい誘ってくるのは水谷だったし、自分が受身ということもあってそう大した罪悪感はわいてこなかった。
 (オレは案外、すごくいい加減で淫乱なのかもしれない)
 「淫乱」という言葉の卑猥さに凝固する自分がいて、何をいまさらと栄口は鼻で笑った。実際自分はそうなのだ。例えば、汗でまとわりつく鬱陶しいワイシャツを脱いだらどんなにすがすがしいだろうとか、いつも立って後ろからされているから別の格好でもしたいと思う。
 一人でするときはまるで終わらせなければいけない宿題を片付けるかのように嫌々だったが、水谷と二人だと自分の性に貪欲になれた。水谷に自分の咎を押し付けているのだから当たり前なのかもしれない。
 しかしそういった栄口の要望は「あの場所」で水谷としている以上叶えられない。常に誰か第三者が来るかもしれないからおちおち服は脱げないし、石碑は狭く地面には草が生い茂っているから立ってするしかないのだった。ならばどこか他の、それこそお互いの家や、そういった施設を利用するとか手段は色々ある。けれどここ以外で自分と水谷がすることをどうしてもイメージできなかった。「あの場所」に行くと水谷に対して性欲がわくという条件付けがされているのかもしれない。誰によってそれがなされたかというとやはり自分なのだった。
 ここ最近ふと考えることがある。どうしてあの時水谷は自分に「しない?」と言い出したのか。それまで栄口は水谷のことを仲の良い大切な友達だと思っていて、多分それは相手も同じだったと思うのに、その友達になんでまた。近くにいたから? それは間違いだ、水谷だっていくらお腹が空いていたってパンのかわりに本来食すべきではない石などを口に入れる奴ではないだろう。なんにせよ何度もそれを繰り返した今では遅すぎる疑問だったから栄口は深く考えないことにした。年頃によくあることだと思い込むことにした。
 栄口は水谷のことを確かに「大切な友達」だと思っていたのだ。だがもうその位置に水谷はいない。あんなことをしている手前、「友達」というのもどうかと思ったが、あれをするような間柄の「恋人」でもなかった。だから栄口の中の水谷はまだ「友達」なのだ。もっと詳しく例えるなら「良くない友達」なのだろう。
作品名:西浦和の西の西 作家名:さはら