カメラトーク
その一言を聞かなければ自分はこんなにがんばろうとはしなかっただろう。
現像した写真のうち、5枚は水谷が一人で写っている。
使い捨てカメラには何枚かの残りがあったが、そのまま現像してしまうこともできた。けれども女子生徒の望みを叶えるなら、やはり水谷一人で写っている写真の方がいいかなと栄口は気を利かせ、学校へカメラを持って行った。
「水谷ー?」
なーにー。
振り返りざまに浴びせられたフラッシュの光に水谷は思わず目を閉じた。
「う、わ!まじびびった!」
「フィルムあとちょっとなんだ、協力してくんない?」
「えっちなポーズとかすればいい?」
部室のベンチに変なふうに身体をくねらせた水谷に、しなくていいからと苦笑いで言い放つと、ちぇー、グラビアふみきを撮ってくれよと口を尖らせる、その少し残念そうな顔にまたフラッシュが当たった。
「……!」
「……。」
「ちょっと待ってよ!俺今すっげ変な顔してたって!」
「じゃあちゃんとしろよ、ちゃんと。」
すると水谷はおもむろに鞄の中から鏡を取り出し、もそもそと髪形を整え始めた。妙に真剣そうに鏡を見る水谷がファインダー越しに少し遠くに見える。栄口はそんなことしてもしなくても一緒じゃないかなぁ、と思わずカメラのシャッターを押した。
くるりとこちらを向き、待っててくれたっていいじゃんと恨めしそうに詰め寄る、水谷の少し怒った顔も撮った。
「栄口君、今日はいじわるですね!」
「まぁまぁ、ほら、笑って?」
そのあやふやな笑顔が写る写真を、姉に頼んで1枚貰ったピンクの封筒に入れた。
現像したら見せてねなんていう水谷の希望には残念ながら応えられない。