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カメラトーク

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「栄口くん、あの、写真のことなんだけど……」
 かけられた声にちょうど今日持ってきた所なんだと返そうとした。
「必要なくなっちゃって……。」
 女子生徒には中学のときから付き合っている人がいたのだけれども、進学を期に別々の高校へ通うことになってしまった。それから数ヶ月音信不通が続いたものだから、てっきり女子生徒は振られてしまったと思っていたらしい。しかし、昨日突然連絡があり、相手はまだ自分と付き合っているつもりだったので、結局ヨリを戻すことになった。女子生徒は申し訳なさそうにそう語った。
 誰かと付き合ったり別れたりするというのは、そういうものなのか。照明器具のスイッチをオフにするように簡単に切り替えられるものなのか。そう思わなくとも、気張って水谷の写真を持ってきた栄口は肩透かしをくらった気分だった。
「栄口君も、誰か気になる子がいたら協力するよ」
「いや、オレはそういうのは」
 女子生徒がした、少し寂しげな表情に、栄口は思わず本音を話してしまう。
「自分のことで精一杯なんだ」


「栄口、バンソーコー持ってるー?」
「あー、あるある」
 オレちょっとトイレ行ってくるから、リュックの外ポケットにあるやつ勝手に使っていいよ。
 すれ違いにそう告げ、水谷は栄口の席のほうへと近づいて行った。
 ふと思い出す。外ポケットにはあの封筒が入れっぱなしだったことを。男子高校生のリュックの中にピンクの封筒は常備されているものではない。あれが水谷に見つかれば、あいつの性格のことだ、誰から貰ったの?何が入ってるの?と問い詰めてくるに違いなかった。しかもその中に水谷の写真が入っていると知られたら。
 冗談にしても笑えない、なにか余計な誤解をされるかもしれない。
 栄口は踵を返して自分の席へと戻ったが、時すでに遅し。水谷はバンソーコーの平たい箱を机の上に投げ出し、栄口のリュックの中で異彩を放つその淡いピンクをまじまじと見ていた。
「なぁなぁこのピンクの封筒なに?」
「さ、さぁ?わかんない」
「じゃあ中見てもいい?」
「ダメに決まってるだろ」
 ラブレター?
 からかうように発せられた水谷の言葉に、栄口は頭のほうに血が上るのを感じた。こいつはどうして予想したとおりの反応をしてくるのだろう。
 慌てて違うと反論しても、水谷はどっちにしろ人に見られたくないものが入ってるんだぁと一人顔をニヤつかせた。
 人の気も知らないで。
 栄口は紙箱からバンソーコーを1枚取り出し、水谷の目の前に突き出した。
「これやるからさっさと7組戻れ!」
 いつもとは違う強い口調の栄口に圧倒された水谷は何かぐちぐちつぶやきながら1組を去っていった。
作品名:カメラトーク 作家名:さはら