カメラトーク
バレたらもう、目も合わせてくれないかもしれない。口もきいてくれないかもしれない。
それでも知りたかった。
日誌を届けに行った栄口はしばらく戻ってこないだろう。その間に中身を確かめるだけ。
水谷は誰もいない部室で栄口のリュックに近づき、外ポケットのジッパーに手をかけた。部室の中に開く音がやけに響き、自分は今嫌われてもおかしくないことをしているんだな、と実感する。
水谷は栄口のことを何でも話せる友達だと思っていた。少なくとも自分は栄口に対して隠し事はしていないつもりだったのに、一方的に栄口に秘密を作られてしまった。面白くないというよりは、こんなにも自分は信用がないのだろうかという卑屈な気持ちでつい魔が差した。
そのピンクの封筒は昼と同じようにそこにしまわれていた。
(ラブレターならラブレターでいいじゃないか。くれた子はどんな子だとか、返事はどうするだとか、俺に話してくれよ。協力するし、一緒に悩みたいよ。)
封筒には封がされておらず、ぺらりとめくった中には封筒の大きさより幾分小さい厚紙だけ入っていた。
(写真?)
心の準備をする前に返し見たその写真には、ずいぶんのん気に笑う自分が写っていた。
いつかの帰り道、どういう話の流れからそうなったのかは覚えていないけど、こんな質問をされたことがあった。
「水谷ってさー、どういう子がタイプなの?」
「かわいい子!」
水谷がそう即答すると、やれやれと肩を落とし、水谷の可愛いって微妙なんだよなぁと栄口はつぶやいた。
「お前犬猫とか最近食べ物にもかわいいっていうじゃん」
「それとこれとは別」
「だからその基準がよくわかんないんだって」
そう言われたものだから少しムキになり、水谷は思いつく限りのたとえを出して栄口に説明したが、説明すればするほど頭の中がこんがらがる。えっと、だから、おかしいな、を繰り返す水谷に栄口は笑ってしまった。
「そういう栄口はどんなのがいいんだよ」
「オレはそういうの無いよ」
「えー!ずるい!俺も言ったんだから栄口のも教えてよ」
ごねる水谷に栄口は困った表情を浮かべ、しばらく考えたあと口を開いた。
「俺のことを好きになってくれる子だったら」
誰でも、と言い放った栄口の危うい笑顔を、街灯の落とす青い光がやけに優しく照らす。
(栄口、それは幸せにはなれないと思う)
口には出さなかったけど、水谷は確かにそのときそう思ったのだった。