こらぼでほすと 再会4
ああ、と、飛び出していく子猫は、素直だ。命じれば、やってくれる。そして、ふうふうと荒い息の怪我人に、「無理しない。」 と、叱る。
「午前中にドクターが往診に来ますが、それまで、とりあえず、身体を冷やしますよ。・・・・それと、無理しないで寝ててください。いいですね? ロックオン。」
「いや、まあ、喋るくらいは・・・・」
「ロックオン、逆らうなっって。」
老婆心から、悟浄は叫んでいる。あんまり、反論すると、容赦ない言葉の攻撃が待っている。そして、慌てて、新しい保冷剤とタオルを八戒に手渡した。昨日のものは、すっかり溶けきっていたので、新しいものに交換する。
割と早めに往診してくれた医者は、この週末は、こちらに常駐します、と、怪我人の容態が捗々しくないので、そう決めた。とりあえず、チューブパックのゼリーを口にさせたが、それも飲みきれなくて、げほげほ咳き込んでいるぐらいに、具合が悪いからだ。
点滴されて、ようやく熱がマシになったのか、うとうととしている親猫の横には、きっちりと子猫が座っている。取り残されたら、とても困るという態度なので、八戒も悟浄も、傍から引き離せない。
「刹那ぁー。」
午後になる前に、キラとアスランが、交代にやってきた。とはいうものの、これは交代するわけにはいかないと、八戒たちも思う。なんせ、交代したら、刹那とキラの世話をしつつ、ロックオンの看護ということになって、それをアスランが、ひとりで請け負うことになるからだ。
「別に、難しくはないですよ・・・・お疲れでしょう? 」
アスランのほうは、慣れているから大丈夫です、と、申し出てくれているが、
「やめろー。」 の言葉に、三人が振り向くと、キラが、どこからか調達してきたらしきネギを、刹那の首に巻きつけていた。
「風邪の時は、ネギを首に巻くといいんだって。」
「俺は治った。それなら、ロックオンだ。」
自分の首に巻きつけられたネギを外して、ベッドに向かおうとしている刹那を、慌てて、悟浄が止める。
「重病人に、んなことしてやるなっっ。」
それは、軽い風邪に対する民間療法というもので、あそこまで、へろへろの病人に効果はない。というか、大人しく寝かせてやってくれ、という状態だ。刹那の声に反応して、親猫が起き上がっているのが、涙ぐましいほどの親子愛だ。
「なんでもないから、寝ててください、ロックオン。」
八戒が、そう声をかけたが、親猫は大明神をみつけて、手を挙げた。
「よおう、キラ。」
「感染しちゃったんだね? ロックオンさん。」
はい、寝て寝て、と、キラが近寄って、ロックオンを横にする。
「悪いけど、刹那の遊び相手をしてやってくれないか? 後、トレーニングもさせといてくれ。」
「うん、わかった。刹那のほうは、任せておいて。」
「頼むな。」
えふえふと咳をしている刹那に、「やっぱりネギは刹那だよ? 」 と、悟浄の手からネギを奪うと、刹那の首に巻きつける。
「風邪は寝ないと治らないからね、刹那。ロックオンさんは、寝かせてあげよう。」
「うん。」
「じゃあ、僕たちは、居間でゲームして、それから、午後から散歩でもしてみる? 」
「うん。」
「大丈夫だよ。八戒さんとアスランがいれば、看護も完璧だから。僕たちは邪魔しないほうがいい。」
「う、うん。」
俺が入ってないんですけど? キラ、と、悟浄がツッコんでいるが、それは、さらっと無視だ。そして、刹那のほうも、キラの言うことには、割と素直に従うのが、不思議といえば不思議だ。まあ、それでも、子猫の世話をしてくれれば、八戒たちも楽と言えば楽なので、それについてはスルーだ。たぶん、独特の天然電波が、刹那に何かしら影響しているのだろう、ということにしておく。
「みかんをね、焼いて食べるといいらしいんだ。庭で焼き芋みたいに焼いてみようか? 」
「うん。」
「え? キラ、みかんは、今頃、ないだろう? 」
この季節に、みかんなんてものはない。だが、天下無敵の大明神様には、不可能を可能にするどころか、奇跡すら簡単に引き起こす歌姫様がついている。
「ラクスにメールしたら、午後には届けるってさ。」
たぶん、それは、一個当たりの単価が、恐ろしく高い代物だろう。それを焼くという所業が、理解不能だ。
「アスラン。」
「わかってます、こっちの世話は、俺が。」
二人にしておいたら、何をやられるかわかったものではない。監視役兼ストッパーは、アスランの役目だ。そちらのほうをお願いします、と、八戒が頼むので、アスランはも了承した。
夕方に、店に出勤しなければならないキラとアスランは、戻って行った。仕事はサボる、とか、キラがほざいたので、全員から雷を落とされて、渋々ではあったけれど。それと、入れ替わるように、やってきたのは悟空だ。こちらは、保護者から許可付きで、バイトは休みである。
「助かりますよ、悟空。」
悟空の視線の先には、壁に背を預けて体育座りしている刹那の姿がある。なんだか、みにょーん、と、寂しそうに鳴いている雰囲気だ。
「あれ、でも、刹那、元気そうじゃんか。」
「いや、おまえがせつニャンのお守りしてくれ。そうでないと、ママニャンがゆっくりできないんだ。」
「・・・・悟浄・・・・変な呼び方を開発するのは、やめませんか? 」
どんどんおかしな呼び名が増えていく。刹那のことを、そのまんま呼んでいるのは、年少組だけで、さらに、大人組は、ロックオンさえ、「ママ」とか「ママニャン」とか「ロックおかん」 とか、それは、おかしいだろう、という呼び方になっている。新しい仲間の歓迎セレモニーみたいなもんだ、と、悟浄が言い訳しているが、まあ、そういうところだ。
「まあ、いいけどさ。俺、二泊三日でいるからな。」
日曜日の夕方まで、イノブタの手伝いをしてこい、と、保護者に送り出された。いつもなら、飲んだくれていないか心配するところだが、土曜日は朝から、トダカたちが法事の助っ人に来てくれることになっているから、そういう意味でも安心だ。
結局、機材とか薬品なんかの加減で、ロックオンは、ラボのほうの医療ルームへ移した。ただいま、そちらで、医者がかかりっきりで治療中だ。刹那を海中散歩と称して、キラがフリーダムで連れ出していたので、移動も簡単にできた。ただし、今は、医療ルームの壁にへばりついて、親猫の容態を睨んでいる。
「わかる気はするぞ。俺だって、三蔵がへばったら、やっぱり看病するからなあ。」
「いや、あれは、基本的に二日酔いか、喧嘩によるもので、病気じゃないですよ? 悟空。」
なぜ、高僧様なのに、喧嘩っ早いのか、精神修養した結果は、どうしたのだ? というツッコミはさておいて、一応、人間なので、多人数と喧嘩をすれば、それなりに怪我はするし、飲み過ぎれば二日酔いにもなる。八戒が気功で治したりする場合もあるが、二日酔いなら放置するので、その看病は、扶養者のお仕事だ。
「そりゃ、さんぞーは、そうだけどさ。やっぱり具合が悪そうだと、気になる。」
作品名:こらぼでほすと 再会4 作家名:篠義