こらぼでほすと 再会4
で、まあ、この扶養者、あんなヤクザな保護者なのに、甲斐甲斐しく世話している当たり、ロックオンとは別の意味で無償の愛に溢れている。うちの店で、一番まともなのは、悟空ではないかと、悟浄は思う。
「とりあえず、あれ、ひっぺがしてメシ食わせて休ませろ。」
移動が発覚してから、刹那は、そこに座ったままだ。薬で眠り込んでいるので、ロックオンのほうは気付いていないが、目を覚ましたら、それこそ、いろいろと世話をしたがるに違いない。
「わかった。」
悟空も、そこいらあたりは、わかっているのか、刹那の前で屈みこんで、ひょいっと刹那を持ち上げた。とりあえず、運搬。それから、メシ。ということらしい。
んじゃ、と、悟空が、とっとと出て行ったので、やれやれ、と、八戒も安堵の息を漏らした。どうも、あれを追い払うのができないので、悟浄が、代わりにやってくれている。
広い風呂で、水泳大会だぁーとか悟空と騒いで、さらに、ゲームだなんだと朝から晩まで構われ続けた刹那は、定刻通りに、こてんと、悟空の部屋で寝た。ついでに、付きあっていた悟空も、一緒に沈没した。様子を覗きに来た悟浄が、「同レベルかい。」 と、苦笑して電気を消す。
げしっっ
夜中に、背中に痛みを感じて、刹那が飛び起きると、悟空が、逆転して寝ている。どうも、寝相に問題があるらしい。まだ、うごうごと動いているから、その動きの途中で、自分の背中を蹴ったのだと、刹那は理解した。
一度、目が覚めてしまうと、眠れない。やっぱり、気になるので、スタスタと、地下のラボへのエレベーターへと足を向けた。場所はわかっているから、様子だけ見てみようと思ってのことだ。どうも、離れていると不安になる。
医療ルームは、煌々と明かりが付いていて、医者が仮眠していた。それを通り抜けて、奥の部屋へ進む。こちらは、ちょっと照明が落としてあって、薄暗い。近寄ったら、「どうした? 」 と、声をかけられた。
「肺炎か? 」
「バーカ、そこまで弱ってない。熱が下がったから、もう楽だ。」
確かに、朝のように頬が赤くないし、呼吸も普通だ。それを見ると、途端に眠くなってくる。
「ここで寝る。」
「はいはい、さっさと寝ろ。」
医療用なので、狭いことは狭いが、詰めればどうにかなる。もぞもぞと横に入ってきた刹那の頭を撫でて、ロックオンは笑っているらしく、身体が震えている。
「ロックオンが心配させるからだ。」
「そうか、俺が悪いのか。」
「全部悪い。」
「はいはい、それでいいよ。眠いんだろ? 話は明日な。」
元々、風邪をひいたのは刹那で、感染させたのも、刹那だ。けど、それについて文句を言うことはない。たぶん、刹那が謝らないけど、気にしていることもわかっていて、やっぱり、それについても知らないフリをしてくれる。
これが、他人に対してだったら、ちゃんと謝るように言われるだろうが、ロックオンは、自分のことに関しては、あまり強く咎めたりしない。八歳年下の刹那が言うことには、目くじらをたてるつもりはないらしい。
「ロックオン。」
「ん? 」
「俺。」
「うん、もういいよ。気にしなさんな。」
これで通じているのだから、以心伝心の類ではないだろうか、と、刹那は、ちょっと笑った。「全部悪いのは俺」 と、刹那は、そういう意味で言った。半分寝惚けているはずのロックオンが゛それを的確に理解しているのが、ちょっと嬉しい。
いつのまにかね、と、ドクターは交代に来た悟浄に、奥の部屋を親指で示した。手前の部屋と奥の部屋は、真ん中に一部ガラスの仕切りがあって患者の容態が確認できるようになっている。そこから、悟浄が覗くと、ちゃんと子猫は、親猫の横に丸くなっていたのだ。何時間か前に、悟空の横に転がっていたはずが、やっぱり移動してきたらしい。
「いいんですか? ドクター。」
「熱は下がっているから、いいんじゃないですか? 」
この調子なら、明日は帰れそうだ、と、ドクターのほうも本格的に休むために、屋敷へ戻って行った。親子猫の様子を、もう一度、見て、悟浄も苦笑する。
僧侶というのは、朝と夜に仏様に、お経を上げるお勤めがある。しかし、ここの僧侶、バイトから帰宅して、それから、家の細々とした用事を片付け風呂に入った後、つまり、午前三時頃に、朝のお勤めをして就寝するという、たぶん、仏様的には非常に罰当たりな行いを続けている。
ガヤガヤと外が騒がしいな、と、朝のお勤めから六時間後当たりに、三蔵は目を覚ます。午後から、法事が入っているので、それまでに、本堂横の脇部屋の片付けをしておかなければ、と、起き上がる。
なぜ、今日に限って、外が騒がしいんだ? と、起き抜けに、タバコに火を点けて、障子を開いた。そこは、自分の寺の境内で、いつもなら、人っ子ひとりいないはずの空間だが、わらわらと人が動いていた。障子が開く音で、一斉に、その視線が自分に向いた。
・・・へ?・・・・
なぜ、十人近い男達が、自分の寺の境内を掃除しているのだろう? という疑問が頭に湧いた。そして、その中から顔見知りの男が近付いてきた。
「ああ、そうか。あんたが来るんだったな。」
「申し訳ない。二、三人に絞れなくてね。・・・・とりあえず、庭掃除をさせているんだが、本堂と脇部屋のほうも開けてもらえないか? 」
トダカが、自分の親衛隊を連れて、法事のヘルプに来ると言っていたが、それよりも、かなり大人数だ。 とりあえず、本堂と脇部屋のほうの鍵をあけるために、移動した。トダカも、渡り廊下に上って、一緒についてくる。
「台所も使わせてもらえるかな? 」
「ああ、かまわねぇー。うちにあるものは、使ってくれていい。それと、昼と晩のメシは、俺が持つ。」
手伝ってくれるなら、それぐらいのお礼はするべきだ。それぐらいの心配りは、腐れ坊主にもある。
「そちらも心配してくれなくてもいい。勝手に材料は用意してしまったみたいだから。それより法事のほうは何時から? 」
「二時だ。大人数じゃないから脇部屋に休憩室しつらえて、お茶とお菓子ぐらい置いてくれればいい。」
「今のは聞いたか? アマギ。」
廊下をトダカと三蔵は並んで歩いていたが、三蔵にではなくて、他の者に声をかけるので立ち止まった。ちゃんと、トダカの背後には、三人の男が従っている。
「はい、用意させます。」
そして、どう見ても軍人さん? というような風貌の男が、他の者に指示を出している。
「これが、親衛隊か? トダカさん。」
「そうだよ、三蔵さん。元の職場の部下なんだが、いろいろとあって、ずっと私のことを護りたいんだそうだ。奇特なことだ。・・・・まあ、私も、かつては『ウヅミ親衛隊』に入っていたので気持ちはわかるんでね。」
え? と、三蔵はタバコを取り落としそうになる。それは、キラの双子の片割れの父親の名前だ。すでに、鬼籍に入ったけど。
「申し訳ありません、玄奘三蔵様。」
そのアマギが、つつっと前に出てきて、90度のお辞儀をする。
「少々お尋ねしたいことが。」
「なんだ? バイト代か? 」
作品名:こらぼでほすと 再会4 作家名:篠義