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ふざけんなぁ!! 5

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最前列でポン刀を持ってるストライプ柄スーツを着た男が、しつこいコール音に根負けし、渋い顔でポケットから黒い携帯を取り出し耳に当てた。

「……ああ、今、あんたの指示通り、取り込み真っ最中ですが、何すか? あ……、はいその娘なら平和島の横に張り付いておりま……。はい、はい、判りました……」
短い電話を終えた彼は、速攻で配下に向かって振り返る。


「おい、あの平和島の横にいた来良学園の女の子は、絶対傷つけるなよ。臨也さんの手駒だからな!!」
(……はぁ?……)

……一瞬、耳を疑った。
聞き間違いだと思いたかった。

しかし、今度は別な男の携帯が鳴る、

「はい、判りました。………野郎ども、さっきの女子高生に絶対手を出すなよ。あれは臨也さんの手駒だ!!」
「……え、そりゃ勘弁してくださいよ……、ああ、……おいお前ら、来良の女の子に手はあげんじゃねーぞ。あれ、折原さんの大事な駒なんだとよ……」

その後も次から次へと携帯が鳴り響き、その都度連絡を受けた男が【手駒に絶対に手を出すな!!】を、連呼する。


静雄の額に、ぴきぴきと血管が浮き出てきた。
標識を持っていた腕も震え、金属のポール部分が指の形にベコベコに歪む。
人間、あまりにも腹が立つと笑っちまうっていうのは本当らしい。
今直ぐ、声を上げて笑い転げたかった。
自分自身の、あまりの馬鹿さ加減に死にたくなった。


「…………あー、そーだよなぁ。俺なんか好きになってくれる女なんか、そういねぇよなぁ……………」


好意の向け方が非常に難ある娘だったけれど、こんな化け物みたいな自分を好いてくれたのだからと。
彼なりの誠意を持って穏便に振ろうと、無い知恵も必死で絞った。
ここ数日、事ある毎に上司に相談し、真剣に悩みもした。
大切な帝人を悲しませたくなくて、彼女には絶対あの娘の事は言えねぇと頭を抱え、贄川がもし帝人に嫌がらせをし始めたらどうしよう、今後自分はどうしたらいいのだろうかと、頭がハゲそうなぐらいぐるぐる一生懸命考えた。

だが、それが全部臨也の嫌がらせだったなんて。
あいつはきっと何処かで、騙されている事に全く気がつかず、悩みまくる静雄を見て、大いに笑い転げていたのだろう

人の善意を、純粋な気持ちを、こんなにも踏み躙りやがって!!


「……ノミ蟲………、殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス、ブッ殺ス……!!」


怒りがもう止まらなかった。
箍が外れ理性もぶっちぎれ、我を忘れ激情の赴くままに、標識片手にチンピラ崩れ達をなぎ倒し続けた。

そして、全員をぶち殴って地に叩きのめし終わり、サイモンと静雄以外、誰も立っている者が居なくなった時。
寿司屋の入り口の引き戸が開いた。

「ああ、無事でよかった♪ 平和島さん♪♪」

贄川が漆黒の長い髪を振り乱し、満面の笑顔で駆け寄ってくる。
静雄の胸に飛びついてこようとしたその女を、彼は長い手のリーチを利用し、つむじの毛をわし掴みして遠ざけた。

人間は、頭のてっぺんの髪の毛を引っつかまれると、何故か身動きが取れなくなる。
贄川も、痛みで顔を歪ませながら棒立ちになり、縋るような目で静雄を仰ぎ見た。
臨也が差し向けてきた女なら、容赦なんかいらねぇ。

にぃっ……と、口の端を歪め、無理やり笑顔を作る。


「……うせろ。そんで二度と俺の前に姿を見せるな……」
言った瞬間、心に風穴が開き、清清しい気持ちになった。
「俺はお前みたいな女、反吐が出る程嫌いだ」

大きな瞳に涙を盛り上げ、激しい嗚咽を漏らし始めた少女に、もう何の感慨も湧かない。
うぜぇ奴をぽいっと地面に放り捨て、静雄はスラックスのポケットに両手を突っ込んだ。

「……あきらめない……、あきらめない……、私、絶対にあきらめないから………」

地に尻餅ついたまま、訳の判らない事を抜かしてわぁわぁ号泣する贄川を、怒りで殴り飛ばさないうちに。
「トムさん、午後の回収、いいんすか?」
「お、おう」
彼女を取り残し、足早に、次の取立て先へと向かった。



作品名:ふざけんなぁ!! 5 作家名:みかる