こらぼでほすと 再会5
スクランブル発進のように、一直線に宇宙へと上っていくディスディニーとレジェンドを部屋
から見送り、悟浄が尋ねる。
「いや、起動させるだけでは問題があるんですよ、悟浄さん。たまには、エンジンを全開にして
やらないと限界値が落ちるんで。」
そもそも、ここのMSたちの維持費なんてものは、小国の国家予算並みだと、悟浄も聞いてい
る。
「そんなことは、オーナーが考えればいいことですよ、悟浄。とりあえず、バケツを五個ばかり
用意しないと・・・・」
居間には、色とりどりの特定の花が束で置かれている。明日のために、と、キラは、シンたち
と運んできた。飾るにしたって、ともかく、水につけておかなければならない。
「くくくくく・・・・なんか目に見えるみてぇーだな? ロクニャンの嫌がるとこがさ。」
「もう、呼び方を増やさないでくださいよ。」
「悟浄さん、それこそ、ロックオンは嫌がるんじゃないですか? 」
いいじゃないのーと、悟浄もバケツを用意するために、動き出す。ささやかだけど、ちょっと
したイベントなんてものは、こういう時には相応しいと、三人とも考えていたりする。
土曜の午後に、キラが悟空と刹那に提案したことに、ふたりは、「それはいい。」 と、同意
した。
「たぶん、日曜の午後には、部屋に戻れるんじゃないですかね。」
八戒に、いつ戻れるのか尋ねたら、そんな答えが返ってきた。それなら、これから、準備しよ
うと、キラの音頭で動き出す。
「刹那、どの色がいい? 」
「これ。」
五色の花を見せて、キラが尋ねる。刹那のほうは、ロックオンの髪の色から想像する色を選ん
だ。
「悟空は? 」
「赤は、なんか腹立つから、こっちだな。」
「じゃあ、それを十本ずつ除けて、後は、いろいろだね? 」
たくさんの花瓶を用意してもらって、不器用ながら、とりあえず、それらに花を飾った。これ
が、結構、時間がかかる。配色やバランスなんてものがあって、綺麗に見えない。
「はいはい、おこちゃまたち、おにいさんが手伝いましょうね。」
そのうち、花が草臥れてしまう、と、器用な悟浄とアスランも手伝って、どうにか、全ての花
瓶に花は納まった。それらを、居間だの台所だの療養している人の部屋だのに運び、あっちこっ
ちと飾りつけた。
「ケーキかなんか焼きますか? キラくん。」
たぶん、ロックオンは、あまり食べないだろうが、イベントにはケーキかな? と、八戒がキ
ラに提案したら、「それは用意してる。」 と、言われてしまった。
その夜、やっぱり、医療ルームで寝ることにした刹那は、ロックオンの横に転がった。
「ん? なんかいいことでもあったのか? 刹那。」
目敏い親猫は、刹那がご機嫌であることに気付いたらしい。言ってみろ、と、頬を引っ張られ
たが、だんまりを決め込んだ。
日曜の朝に、「午後から、部屋に戻ってもいいですよ。」 と、医者に言われて、やれやれと
ロックオンも、なんだか肩の力が抜けた。きっちり三日間だ。咳は残っているが、熱はすっかり
下がった。まあ、これなら動けるだろう。
朝からの点滴が終わって、ようやく地上へ戻る。やっぱり、足元はふらふらしているので、刹
那が支えてくれている。ゆっくりと、部屋に戻ったら、ものすごい光景が広がっていた。
・・・・はあ?・・・・・
ありとあらゆるところに、花が飾られていたからだ。それも一種類の花だ。オレンジ、ピンク
、イエロー、レッド、ブルー。五種類の色で一種類の花。なぜ、そういうことになっているのか
、ロックオンにはわからない。
「おい、刹那。」
「座れ。」
「ああ、そうだな。」
誘導されて、ソファに座らされた。それから、刹那は洗面所から何かを持ってきて、ロックオ
ンに差し出す。
「え? なに? 」
それが、オレンジの花束で、差し出しているということは、自分にくれるということだとはわ
かるが、意味がわからない。
「古い風習で、今日は、母親に花を贈る日だ。」
「それで? 」
「俺には、保護者はあんただけだし、キラが、来月より、今のほうがいいと言った。」
「うん。」
「これは、カーネーションというんだ。・・・・・いつもありがとう、おかーさん。」
「・・・・・・最後の言葉が、ちょっと微妙だがな。・・・・ありがとう。」
差し出された花束を手にして、ロックオンは笑い出した。そういや、そういう日があった、と
、思い出した。刹那は、そういうことには無知なので、キラの入れ知恵だとはわかる。だが、昨
晩の様子からして、刹那は刹那なりに、何かしら感謝する気持ちはあるのだとも思う。
「よかったな、友達ができて。」
「・・ああ・・・」
「でも、俺としては兄貴のつもりなんで、できれば、『おかーさん』はやめてくれ。」
「ああ。」
くしゃくしゃと刹那の頭を撫でて、オレンジの花束を見る。生きていたから、こんなおかしな
イベントを体験できる。拾ってもらって、よかった、と、心からロックオンも思った。
コンコン
扉がノックされて、キラが入ってくる。そこから、続々と、いつものメンバーの顔が揃った。
一番最後にハイネが大きな白い箱を手にしている。
「じゃあ、ごくーもね? 」
「おう。」
キラの言葉に、悟空も、洗面所に走る。どういうわけか、キラも一緒だ。戻ってきた悟空が手
にしているのは。ピンクのカーネーションの小さな花束だ。そして、キラのほうは、イエローと
レッドとブルーの小さな花束を持っている。
「とりあえず、僕から。はい、いつもありがとーおかーさん。」
「おまえに、『おかーさん』と呼ばれくないぞっっ。」
キラが赤い花束を差し出したのは、ロックオンだ。
「だって、刹那は、僕の子猫なんだし。子猫のおかーさんは、ロックオンさんだもん。だから。
」
「アスラン、この宇宙語を通訳してくれないか? 」
「刹那が、キラの大切な弟分なので、その保護者のロックオンに感謝の気持ちを贈りたい、とい
うことです。」
「わかったよ、もらってやる。」
なんか理不尽な気がするが、まあ、感謝の気持ちだというなら、貰ってやろうと手にした。そ
れから、キラは、刹那に、ブルーの花束を渡し、悟空と一緒に、八戒の前に立つ。
「「「せーのー、いつもありがとーおかーさん。」」」
「え? 」
三人して、八戒に差し出された花束に、絶句する。いや、確かに、普段から、「おかーさん」
とか言われているが、こんな面と向かって感謝されるようなことはない。
「アスラン? 僕にもお願いします。」
「これからも、お世話してください。ぐらいじゃないですか? 」
「まあね、八戒さんは、『吉祥富貴』のおかーさんではあるからさ。」
ハイネが、からからと笑いつつ、テーブルに運んできた白い箱を置く。キラから依頼されて特
注で注文した品物だ。朝から、これを運んできた。
箱を開くと、綺麗なカーネーションみたいにデコレートされたピンク色のケーキが現れる。八
作品名:こらぼでほすと 再会5 作家名:篠義