夢で逢えたら
私はドイチュの誇り。
有能なる宰相の名を戴いた、不沈戦艦。
優美にして強大。
荘厳にして雄大。
ドイツ海軍を導いていく、ただひとつの存在。
その地位は揺るがない。その権威は陰らない。
目的のためには手段を選ばない。自分が踏み進んでいく道は、我が国を勝利に導く聖戦だ。
生まれた時から、そう教えられてきた。
それが、正しいのだと思っていた。
ある日、私の元に小さな潜水艦がやってきた。
私の名前を聞くやいなや。柔らかな銀髪をなびかせて、無邪気な笑顔を見せた。
「あえて、とてもうれしいです」
緊張で頬を真っ赤に染めて。握手を求めて伸ばした小さな手は、少しだけ震えていた。
それを、微笑ましいと思った。
彼は、自分のことをUボートと名乗った。
それは、幾重にも歴史を重ねる潜水艦たちと同じ名前だ。
彼らはこの小さな子供と同じように、銀の瞳と髪を持っているらしい。
みな最初は同じ記憶を持ち。それは自我が生まれるにつれて、自分の型式を理解するにつれて失われていく。そして、壊れればその記憶は次のUボートに引き継がれる。そしてまた少しずつ失っていく。その繰り返し。
人づてに聞いた話だ。実物に会うのは初めてだった。
何故そんな生き方をしているのかは分からない。量産艦であるからだろうか。そう、勝手に結論づけた。
私が私以外のものに関心を向けたのは。
それが最初だった。
それから彼は、私の執務室に入り浸るようになった。
書類を撒き散らされたこともある。
クレヨンで、絨毯に芸術作品を残してくれたこともある。
けれど、不思議と嫌な気は起こらなかった。
彼と過ごす時間は、あまりにも穏やかに過ぎていった。
それを幸せと呼ぶのなら、たぶんそうなのかもしれない。
そんなある日のことだ。
Uボートが、一枚の絵を差し出した。
疑問符を浮かべる私に、彼は「誓いの書です!」と答えた。
そして、嬉しそうに言葉を続けた。
「それは頼もしいな」
小さくても立派なドイチュ海軍だ。期待しているぞ。
そう言うと、彼は本当に嬉しそうな顔をした。
その時に彼に言った言葉は、確かに自分の本心だった。
ドイツ海軍として、士気の高い兵器は好ましい。
けれどその一方で、別の感情がよぎる。
少し眉を潜めると、Uボートが首を傾げるような仕草をした。
手招きをすると、近くまで寄ってくる。見上げた彼の髪を、やさしく撫でた。
(……ああ、そうか)
不思議そうな顔をする彼に、不安を隠すように微笑みかけた。
(……彼も、戦場に行くのだな…)
こんなにもまっしろな手を。いつか血に濡らすのだろうか。
そのいつかは、
きっとすぐだ。
その小さな身体を抱き締めた。
壊さないように、ぎゅっと抱き締めた。
温かかった。兵器の自分達にそんなものは可笑しいと言われるかもしれないが、それでも確かに温かった。
私が誰かを失いたくないと思ったのは。
それが最初だった。