こらぼでほすと 再会6
その一連の素早さに驚きつつ、ロックオンは尋ねた。いくら双子でも、髪の色も目の色も、ましてや、性別が違うというのに、無理があるだろう。
「いや、カツラとカラーコンタクトで完璧だ。キラのほうが、華奢だし、おしとやかに見えて好評なんだ。」
「まあ、今だけですよ。 カガリさん。キラくんだって、成長すれば、男らしい体型になりますからね。」
八戒は、歌姫から先に、このことを聞いていた。だから、わざと、アスランのことには触れなかったのだ。ハイネと悟浄にも打ち明けて協力を仰いだ。たまには、いいでしょう、とも思ったからだ。そうしないと、キラの姉は、ゆっくりすることは不可能だ。実は、たまに、キラが身代わりになっていることがある。ただ、出席すればいいだけのレセプションとか、来賓としての招待だとか、そういうものだ。キラは、嫌がりはするが、諦めて任務は遂行してくる。カガリが、休息できるとわかっているからだ。
「ああ、刹那。寂しくないからな。私がキラの代わりをしてやるから。さて、ゲームしようか? えーっと、ティエリアだったか、おまえもやるか? 」
イヤとティエリアは首を横に振ったのに、「遠慮はよくないぞ。」 と、強引に連れ出してしまった。残る大人組は、呆気にとられてから、笑い出した。天然電波も、いろんな意味で騒ぎの素だが、その姉も、騒々しさでは引けはとらないらしい。
「よおー三蔵。」
「ああ? 何の用だ? 爾燕、紅。」
この家は、勝手知ったるものは出入りが自由だ。玄関の呼び鈴なんて押しても反応するような生き物ではないからだ。
一週間の休みということで、三蔵も悟空も本業だけの生活だと、割と時間の余裕がある。葬式か法事でもなければ、坊主なんてものは、暇だ。パチンコに行くか、家で飲んだくれているぐらいが関の山というところで、そんな腐れ坊主のところへ、珍しい来客があった。バイトで、顔を合わせているが、家にまで押しかけられるのは、滅多にない。
「弟の嫁が、あんたの養子の心配をしててな。ついでに、その手紙のことでも相談があったんだ。」
卓袱台の上には、白い大きな封筒に、スミレ色で『吉祥富貴』の文字が刻印されている。
「あーこれか。別に、キャラメルの箱か板チョコでいいだろう。」
「そういうもんなのか? 」
封筒の中身は、招待状という名の歌姫からの召還命令だ。日曜日に、別荘で、キラの誕生日を祝うから、必ず出て来いということが、綺麗な言葉で綴られている。毎年、店のほうで、それを盛大に催すので、いつもなら、爾燕は、キラの好きなデザートを作ってやることで、代わりにしている。だが、自分も呼ばれるとなると、別に準備すべきかどうか悩んだ。
「おまえら、キラに贈り物なんかしてみろ、それこそ、暗黒妖怪の餌食だぞ。だいたい、あいつは、物なんか貰ってもしょうがないだろう。暗黒妖怪と筋肉脳姫が、せっせと貢いでるんだからな。」
高僧様のおっしゃる通り、キラには、怖ろしく甘いダーリンと弟バカの姉とキラらぶな友人がいる。これらが、文字通りとっかえひっかえ貢いでいるのだ。さすがに、それで欲しいものが、まだあるとは思えない。
「じゃあ、花とかでいいか?」
「紅、もったいないからやめとけ。なんにもいらねぇーよ。」
それぐらいなら、うちの寺に寄進しろ、と、冗談とは思えない言葉を吐き出して、三蔵は起き上がる。スタスタと台所まで行くと、冷えた缶ビールを手に戻ってきて、ぷしゅっとプルトップを跳ね上げている。ここは、セルフサービスの家なので、欲しければ各自で取ってこないといけない。やれやれ、と、爾燕は、立ち上がって、自分と紅の分を取ってきて、やっぱり、ぷしゅっとか開けて飲んでいる。
「弟嫁のイノブタが、なんだって? 」
「ああ、メシを作ってくれとさ。」
「余計なことを。」
「悟空は育ち盛りだからな。」
申し訳ないんですが・・・・と、連絡してきた八戒に、爾燕は、ふたつ返事で引き受けた。まあ、そりゃそうだろうとは思ったからだ。ついでに、紅にも食べさせてやろうと、一緒に連れてきた。
リハビリ組の年長者は、なんか俺だけ遅れてないか? とか、芝生の上で立ち止まる。かなり重傷だったらしいアレルヤとティエリアは、すでに、普通に行動していたりするのだ。
「日陰。」
で、しつこいくらいに刹那がひっついているのも気になるところだ。必ず、右側の腕を持っているのだ。
「ロックオン、水分補給したほうがいい。」
日陰に座ったら、今度はティエリアが、ペットボトルを差し出す。
「おまえら、回復が早くねぇーか? 」
今だに、小一時間の散歩で、疲れたとか言っている自分とは大違いだと、ロックオンが愚痴ると、アレルヤが、あはははは、と手を振る。
「だって、僕は超人機関の出身だから。普通の人よりは、いろいろと早いんですよ。」
そういやそうだった、と、ロックオンも納得する。ナノサイズで、いろいろと加工されているアレルヤは、普通ではない。片や、ティエリアも、やっぱりいろいろと普通ではない。
そんな休憩中の四人の許へ、目のしたに隈のあるアスランが、ヨロヨロ近寄ってきた。なんだか疲れているのが、よくわかる。
「どうかしたのか? アスラン。」
「いや、いろいろと仕事が重なって・・・・・ようやく終わったところなんです。これ、みなさんに一通ずつです。」
四通の封筒を、それぞれに配る。中身は、招待状だ。
「キラの誕生日? 」
「ええ、いつもは、店で派手にパーティーをするんですが、今年はちょうど、日曜日だったので、別荘へ上得意のお客様もお呼びして一日騒ぐんですよ。みなさんも、無理のない程度で参加してください。」
それだけ言うと、また、戻って行く。ようやく眠れます、とか苦笑してたので、同情してしまう。
「キラ・ヤマトの誕生日か。」
ふーんとつまらなさそうに、ティエリアは封筒を刹那に投げつける。「捨てとけ」 ということらしい。
「ねぇ、ロックオン。何かプレゼントする? 」
対して、気配りなアレルヤは、常識的なことを言う。
「んーーーつっても、俺らは買いにいけないしなあ。」
「ああ、ごめんなさい。プレゼントは禁止だって、ここに書いてある。」
でも、ものすごく理不尽だったけど、カーネーションを貰ったロックオンとしては、何か返したいとは思う。
「なあ、刹那。悟浄さんに頼んで、花束でも手配して貰えよ。」
「必要ない。」
「確かに、キラ・ヤマトには必要ない。」
刹那の返事に被るように、ティエリアも返事して、ロックオンの右横に座りこむ。バレているらしい、と、ロックオンも気付いている。右側の視界が狭いから、子猫二匹で、そこをカバーしてくれているらしい。
「何にもしないのも寂しいけどなあ。」
「でも、キラは持ってる。」
刹那の言葉に、それはそうだな、とか相槌は打つ。キラは、たくさんのものを持っている。けど、気持ちを現したいとは考えるわけで、うーんと空を見上げた。
「なら、言葉でいいじゃない? ロックオン。」
作品名:こらぼでほすと 再会6 作家名:篠義