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だいすきだいすき!

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十年後もだいすき!





何だって、君が笑ってくれたものなら、一つも残らず覚えているよ。



「ただいまー」
幼稚園のお兄さんといわれ続けて早何年。すっかりおじさんと呼ばれるとしになりました、まる。
帝人は疲労困憊の体を引きずるようにしてマンションの鍵を開けると、そのままその場にへたり込んで大きく息を吐いた。体力の無さを年々実感する、歳をとったものだ、いやマジで。特に今日みたいに、園内マラソン大会なんかあった日には。
園児達がコースを外れないように、各所に立って見張る係りならよかったけれど、帝人はあいにく園児達の先頭を走って誘導する係りになってしまって、なけなしの体力を使い切った。
このままサナギになって温かくなるまで眠りたい、なんてぐだぐだ思っていると、奥からひょいと顔を出した臨也が、玄関に崩れ落ちている帝人を見て、慌てたように駆け寄ってきた。
「お帰り帝人君、お姫様抱っこで運んでいいなら……」
「起きます!」
「……ケチー」
がばりと勢いよく起き上がり、靴を脱いで室内に上がった帝人に、残念そうな息を吐き、臨也はデニム生地のエプロンを外す。
「夕飯できてるよ、どうせ今日は疲れて料理どころじゃないでしょ」
「臨也君、あの、何度も何度も言うんですけど、勝手に僕の家にあがりこむのはやめませんか?」
「合鍵をくれた帝人君の負け」
ほらほら、とぐいぐい引っ張られて、コートを剥ぎ取られ、さらに正面からぎゅーっと抱きつかれて、帝人は大きくため息をつく。今年で高校生になるのに、この子は一体いつまで帝人君帝人君と懐き続けるつもりなのだろうか。普通幼稚園の先生なんて、小学校高学年で忘れ去られるものだろうに。すりすりと帝人の鎖骨に鼻を摺り寄せた臨也が、大きく息を吸い込む。
「帝人君汗のにおい」
「嗅ぐな!っていうか当たり前じゃないですか、今日はマラソン大会ですよ?もうこのまま永遠の眠りにつきたいくらいです」
「ご飯食べないの?」
「……食べます、臨也君の料理は悔しいけど美味しいから」
中学三年生になってすぐのころだ、進路の相談に乗ってほしいんだけど、と訪ねてきた臨也が、相談が遅くまで続いたお詫びに、と夕飯を作ってくれた中華丼が絶品だった。
先生と呼ばれる職業において、生徒に頼られることほど嬉しいことはない。また相談に来てもいい?と聞かれたとき、もちろんいいですよ、と答えた帝人が悪かったのかもしれない。
次の日から臨也は、それこそ毎日毎日帝人の帰りを待っていた。忠犬よろしく暑い日も寒い日も、雨が降っても毎日だ。学校が上手くいっていないのかとか、家に帰りたくないのかとか、いろいろと邪推もしたけれどどれも違うようで、臨也はただ笑いながら帝人の帰りを待っている。台風が来た日にずぶぬれのまま外で待っていたのが決定打。
「臨也君、君には負けました」
と合鍵を手渡したのが夏の終わりの日のことだ。
以来、臨也は家の中で待っている。時々夕飯を作って、そしてまた時々帝人君のご飯が食べたいと駄々をこねて。
「さあ、俺の手作りをありがたく食べればいいよ」
「頂きます。可愛くなくなっちゃったなあ、もう」
臨也は高校生になって、すらりと大人びた印象になった。もともと小さい頃から人目を引く可愛らしさだったが、小学校高学年ごろから可愛いというよりはカッコイイ印象になり、学ランがまた似合ってますますクールに見える。黙って笑っていればもてるだろうなあ、と帝人はしみじみと思うのだった。……性格はまあ、相変わらずだけれども。
相変わらず絶品の親子丼を租借しつつ、帝人がしみじみと昔を思い返していると、機嫌のよさそうな臨也が頬杖をついて帝人の食事を見詰めてくる。あんまり見られると食べ辛いのだが、「俺の作った料理が帝人君においしそうに食べられるって最高だよね!」とかいわれて、なんか面倒になってそのまま放置することにしたのだ。
しかし、それにしても今日は機嫌がいい。
ちゃっちゃと食事を終えて食器を片付けた後、帝人はにこにこの臨也に問いかけることにした。
「…何か、ありました?」
「うん?」
「にこにこしてますよ、当社比五割り増し」
「あったりー!さすが俺の嫁、目ざといよね!」
「はいはい、それで何があったんですか?」
本当に性格がもう少しまともならよかったのに、とつくづく残念に思いながらもたずねると、臨也はいそいそと胸ポケットから何かを取り出した。
「じゃーん、これ、なーんだ」
差し出されたのは、しおりのようだ。手作りでラミネートがかけてあり、押し花にされた四葉のクローバーが……
「って、ああああ!?それ、どこでっ!?」
「だめだよ帝人君、こんな大事なの料理本に挟んで放置しちゃ。俺がうっかり見つけて喜びの余り憤死するところだったよ!」
「うわあああ!ちょっと、まって、それ返して……!」
顔が見る見るうちに赤く染まり、帝人は必死でその栞を取り返そうとするのだけれど、悔しいことに背は既に臨也のほうが高い。背伸びをしても簡単には奪い取れない。十五歳も年下の少年相手に、こんな必死になるなんてみっともない、ああ本当に情けない!
「俺が帝人君にあげたクローバーだ」
本当に嬉しそうに微笑んだ臨也が、飛び上がってしおりを奪い取ろうとした帝人のすきをついて、その体をもう一度抱きしめる。密着した体のつくりからして、帝人と臨也には差がありすぎる気がして、帝人は益々自分が情けなく感じた。
「臨也君、離して、」
「やだ。ねえ、帝人君覚えてるよね?俺が君にあげたクローバーでしょう、これ。そうでなきゃそんな恥ずかしがるはずないもんね?」
「……っ、臨也君意地悪です!」
「嬉しいなあ、嬉しいなあ嬉しいなあ嬉しいなあ!こんな大事にとっておいてくれたの?押し花にして栞にして、ずっと大事にしててくれたの?」
「だ、って、それは」
真正面で微笑まれると弱い。小さい頃から知っているその笑顔が、最近特に、昔とは違う感情を、温度を、色気さえも含む気がして、どんどんかわっていく臨也に少しあせったりする。帝人は昔から何も変われない自分と、駆け足で大人になっていく臨也の速度差に、とりのこされたような寂しさを感じていた。
だって今、こうして帝人を拘束する手のひらも、帝人のそれよりずっと大きな気がして。
「……臨也君があんなふうに大泣きしたことなんて、滅多になかったじゃないですか」
あきらめるように息を吐いた帝人の頬に、自分の頬を摺り寄せて臨也が笑う。
「そうだねえ!君に一刻も早くプレゼントしたくて走って転んで、鉢植えのギフトを割っちゃったんだよね」
綺麗にラッピングされた四葉のクローバーギフトだった。小さな陶器の鉢に入っていて、大きなクローバーが二つ入りの。
小さな足でとてとてと、一生懸命走ってきた臨也が目の前で転んで、鉢にはひびが入り、四葉も片方は葉っぱが一つ取れてしまったのだ。帝人君に喜んでもらいたかったのに、と大泣きした臨也に、不覚にも喜んでしまったことさえ鮮明に覚えている。
転んで擦り切れた膝小僧を痛がるより先に、帝人君に喜んでもらいたかった、と臨也が言った事が、あの時帝人は本当に嬉しくて、臨也をとても愛おしく思ったのだ。
「結局、だめになる前に幼稚園の庭に植えて、帝人君に慰められて、散々な思い出だったけど」
作品名:だいすきだいすき! 作家名:夏野