【銀魂】九兵衛×東城1【女体有】
男としては美味しい状況だが玄関も開きっぱなしで朝っぱらからこんな体勢は
誰かに目撃されたらとんでもない誤解を招きかねない。
胸、という単語を聞いて訪問者は自分の胸元を見る。
がっしり巻いたはずのさらしがほどけて、今にも着物から胸が見えそうなのに気付き
慌てて両手で胸元を手繰り寄せて身を引いた。
そこでやっと銀時は自分の上に乗り上げていた人物が誰なのかを観察する事ができた。
「あ、東城‥‥?」
な、訳がないとすぐに気付く。奴は男だ、女じゃない。
目の前の女性は東城にそっくりだが彼よりは背が多少低く、体系も華奢だ。
肌質や雰囲気もやんわりとしているし、何より胸や腰のくびれを見ると男には見えない。
それにしてもそっくりである。服装も同じだし、声も似ている。糸目も瓜二つ。
「えーと、どちら様で」
「今東城って言ったじゃないですか!」
「え、本人?」
「そうです、訳あってこんな状態ですが‥‥」
東城は辺りを警戒するように見回してからゆっくりと玄関の扉を閉めた。
銀時は状況についてゆけずボリボリと天然パーマの頭を掻く。
いつもよりどこか変態性が薄らいで見える東城が細い瞳に涙を浮かべて言った。
「万事屋、金はいくらでも払います。元に戻して下さい!」
「いや元にっつってもどうやったら男が女になるわけ?
呪われた温泉にでも落ちたの?あ、もしかしてお湯でも被れば男に戻るんじゃね?」
「呪泉郷に行ってもないし、娘溺泉にも落ちてません!」
「随分とお詳しいようで」
「全巻持ってます。じゃなくて!!」
東城は銀時の胸倉を掴んでから、そのまま事のいきさつを全て話した。
マシンガントークの内容を半分も銀時は聞き取れなかったが、とりあえず大体は把握する。
しかし、いくら万事屋といえども人間の性別の変え方など知るわけもない。
とっととお帰り願おうと思ったが、ぐずぐずと泣く東城に良心が痛みそれもできなかった。
大の男がこうして泣いていたなら気持ち悪いが、今は女になってしまっているのだ。
どうにも調子がおかしくなる。
「情けない、幼い頃より若にお仕えしてきた私が、柳生四天王トップたるこの私が女になるなど!
こんな身体や筋肉では愛しい若をお守りする事もできません!」
「お前ができなくなるのはお守りじゃなくてストーキングだろ」
「いつものかっこよくてスレンダーでイケてる私に戻らねばなりません!!」
「いやー、絶対俺は今の方がマシだと思うよ?
いつもの変態な部分も女がそうなら燃えるというか、前のお前よりだいぶ見れるというか」
「こんな情けない姿、若にも誰にも見せられません!
誰にも知られる事なくさっさと男に戻りたいのです!協力してください万事屋!!」
涙をいっぱいに浮かべた美人が自分の足の上に跨ったまま懇願してくる。
(これは男これは男これは男)
銀時は必死に自分に言い聞かせた。これがあの変態東城なのだと思い出せ銀時!
元より東城はあの性格さえなければ美丈夫で、しとやかな見た目だった為、女になると相当美人だ。
世界の為にも九兵衛の為にも東城は女のままの方が良いのではないかと思ったが
いくら元変態といえども、美人に助けを求められたら銀時とて嫌な思いではない。
「‥‥分かったよ、分かりました。その代わり報酬ははずめよ!?」
「万事屋‥‥!恩にきります!」
嬉しそうに抱きつかれ、東城に抱きつかれた気色悪さと、それでも顔にあたる胸の感触に
なんとも微妙な心境のまま銀時は彼を突き放す事はできず硬直したのだった。
「おや、若?今日はお妙殿と一緒にお出かけするのでは?」
北大路は柳生家の門前に立っている九兵衛の姿に気付き、声をかけた。
北大路は先程いつもの日課である昼食後の鍛錬を終えた後なので
いつも通りの時間に鍛錬を終えていれば今の時刻は二時頃だろう。
昨日の東城と九兵衛の会話がのちに変更されていないのならば、彼は一時間前には出かけているはずだ。
「北大路、東城を見なかったか?」
「東城殿ですか?あいつならとうに若と出かけたのだとばかり」
「いや、僕は朝に奴の部屋の前で話したきり逢っていないが」
「はぁ、そういえばあいつ医者の検診も受けないで部屋を飛び出したようで。
几帳面のあいつが布団すらろくに片付けないで、侍女によれば朝食も食べなかったようですし‥‥。
余程若からお出かけの同行許可が出たのが嬉しかったのかと思ったのですが」
二人は顔を見合わせてから首を傾げた。
北大路が片手で眼鏡をくいっと直しながら、門前から動こうとしない九兵衛に言う。
「まあ何にせよ怪我人ですし、見かけたら引きとめておきます。
今日は東城を置いてもうお妙殿のもとへ行った方が良いでしょう」
「うむ、そうだな。もう妙ちゃんを一時間も待たせてしまっている」
九兵衛はその後、一人で志村家へと向かっていった。
それにしても珍しい事もあるものだ、東城が自分の後についてこないなど。
朝から少しテンションも可笑しかったようだが
それもてっきり自分と出かけるのを楽しみにしているのだとばかり思っていた。
自分のせいで怪我を負わせてしまった東城の行方も気になるが、まあ奴なら大丈夫だろう。
そうこう考えているうちに九兵衛は通いなれた志村の家へと到着していた。
「あら九ちゃん、何かあったの?遅かったじゃない」
「すまない妙ちゃん。ちょっと色々あって」
「腹減ったアルー!早く甘味処行くアル!」
神楽に急かされて三人は家を出て、最近できたばかりの甘味処へと向かった。
一方そこの頃、銀時と東城も歌舞伎町へと足を運んでいた。
銀時に「とりあえずその格好どうにかしてくんない?目に毒なんだけど」と言われて、女性用の服を買いに出ていたのだ。
せっかく女になったのだからもっと楽しめばいいのに、東城は普段とたいして変わらない服を選んだ。
「お宅さー、東城ってバレたくないんでしょ?それならゴスロリくらい着ないとバレるんじゃないの?」
「私は女装の趣味はありませんので。ゴスロリは着て楽しむのでなく見て楽しむものなのです!」
「その見た目でそういう事言うのやめてくんない?」
いつもと同じ色の着物を着ている東城だが、いつも着ている羽織は来ていない。女性物が無かったのだ。
女になった事によって尻も胸も大きくなって腰はくびれている東城が、胸元ではなく腰部分で帯をしているのは目に毒だ。
何故なら身体のラインがしっかりと見えてしまうからである。
銀時は彼が男であると知っているが、それを知らない通行人からしたらなかなかにいやらしい。
「女もの着るのが嫌にせよ、せめて袴だけでも履いたらどうなのよ」
「袴は好かないんです!大丈夫ですよ、これのおかげで完璧に別人!」
「ポニーテールにしただけで変装できるんなら世の中皆ルパンだわな」
自信満々に結ったポニーテールを示す東城を見て銀時はため息をついた。
(まぁ、性別からして違うわけだしバレねぇか)
もし、彼を知る人物と遭遇しても東城歩のドッペルゲンガーくらいにしか思わないだろう。
作品名:【銀魂】九兵衛×東城1【女体有】 作家名:えだまめ