短編にする程でもない断片色々
嫉妬
会議場で、サディクを見かけた。
菊と一緒だった。会話までは聞こえなかったけれど、いつもは大仰な民族衣装を着込むサディクは、会議となるとスーツを着てやってくる。いまだ虎視眈々とヨーロッパの連中に入り込もうとするあいつの事だから、そのスーツだって西洋へのアピールなんだろう。西洋の象徴だとして嫌うネクタイをしっかりとつけて仲間面している。それでも仮面だけは外すことのない男の、菊にむける締まりのない口元の気安さに腹が立つ。菊に馴れ馴れしいのも面白くないが、鼻の下の伸びきった、油断しきった顔にひどく腹が立つ。
つかつかと菊とサディクに歩み寄る。サディクがこちらを向いてげっと口を曲げる。おや、ヘラクレスさん、と微笑んだ菊の肩をそのまま抱いて、あのっ、ちょ、ギリシャさん!?ギリシャさーん、とおろおろする菊をそのまま連れ去った。サディクが背後で、おい、日本さんが困ってやがんだろうが、馬鹿!と喚いたが、それもきれいさっぱり無視した。
昔だったら、恐らく顔が腫れ上がるまで殴られたか食事を抜かれたことだろう。それなのに男は、お前は餓鬼か!と叫んだっきり追いかけてもこなかった。
「嫉妬させてすみません」
ふいに菊が呟き、驚いて菊を見ると菊が微笑んだ。
「うん。もうサディクと話さないで」
「そうではなくて“私が”です」
菊はふふっと微笑んだだけだった。
作品名:短編にする程でもない断片色々 作家名:山田