Kissing cousins
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「いよぉ!儲かってっかぁ大佐殿!」
翌日、曇天予報をモノともせずにピーカンを引き連れて、予告通りの時間にやってきた司令官のご友人は大層な上機嫌っぷりだった。
ヒューズの挨拶代わりのジャブに一気に室内は沸いた。ちなみにその時司令室にいた面々はいつものメンツだけなのて、取りあえず今回の事の顛末はよく知っている。
「ひでぇッスよねー、オレらにもおこぼれあったっていーと思いません?」
「ただでさえ高給取りだってーのに」
「男に奢る金はない!ってにべもないんですよ」
基本的にこの上官をダシに笑える事が少ないので、皆こんな機会を逃すワケがない。
が、更に基本的な問題としてこの上官が言われっぱなしでいるはずもなく。
ここぞとばかりに冷やかしに回っている部下達をゆっくりと見回し、それはそれは艶やかな笑みを浮かべて一言。
「営倉か禁固か、どっちがいい?」
ピタ。
上官侮辱罪、の文字が頭に浮かぶ。
瞬間、全員が揃えたように口を閉じた。
「・・・で?」
静かになった部屋の中、伝家の宝刀を遠慮なく振り回して事態を無理矢理ぶった切ったあまりご機嫌麗しくない麗しの上官殿は、氷点下の笑顔を崩さないまま端的に問い掛けた。午前に既に探りを入れてるんだか何だか知らないが、何処ぞの御大からの嫌味な電話の相手をさせられた辺りから、周辺にはブリザードが吹いていたのだが。
が。もちろん、そんな程度の威嚇如き昔っから慣れっこな出張中の中佐には、まったく障害にもならないらしい。
「いきなりかよ。せっかちな男は嫌われるぜ~」
「わざわざセントラルから遠路はるばる東部の片田舎に御苦労ヒューズ中佐あとでいくらでも歓待してやるから早く手持ちのそのネタを出せ」
「んー、もーちょっと可愛くおねだりできたら披露してやらんこともない」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
片方は笑顔で、片方は無表情で。
机を挟んで向かい合う2人の背後に何か得体の知れない何かが見える。
「ほんっとにアンタら仲良いですね・・・」
「良くない」
「オレが良くしてやってんだって。人徳人徳」
・・・・・・。
それについてはコメントは差し控えさせていただきます。
なんだよ付き合い悪いなーとかぼやいている、うちの上司の相方(との表現しか出てこなかった)は、さすがにそろそろ飽きたのか、上司の机の端に遠慮なく凭れかかって、さてどこから行くかなーと呟いた。
「オレ、丁度ヒマだったからその尋問聞いてたんだよな」
オチがまさかそーくるとは思ってなかったから思わず茶ぁ噴きそうになったけど、と続いた台詞に、ああやっぱどれだけふざけあってても友達なんだなー、いいなー、と勝手に周りがしんみりしようとした矢先。
「もー内心バカウケ」
そっちかよ。
この2人に関わると、素直にちょっといい話にはならないようだった。
まぁその方がらしいけれども。
全員が心の中でつっこんだ事はのも露知らず、呑気な会話は続く。
「オレら部屋の外にいたのも、その後かぶりつきになったからな」
「…調書を取ったのは誰だ」
「フォッカー大尉。あいつも笑いそうで誤魔化すのに苦労してたな。せっかくなんで早く教えてやりたかったけど、お前電話出ねーんだもんな」
で、しょーがないから中尉に。
一連の流れを軽く流し、ヒューズはおーありがとーとホークアイの入れてくれたコーヒーを一口すする。
「人気者はつれーなぁ?」
ニシシ、と実に楽しげに笑えば、反比例して上官殿の機嫌は下降していく。
あーもーそれ以上は後が面倒なんでやめといて欲しいなぁ、との感想は、端で見ている部下一同の心情ではあったが。
不景気そうに眉を寄せて表情を取り繕いもしない現在の上官殿は、それでも一瞬何かが引っ掛かったような顔をした。
「ヒューズ」
「あー?」
「…そいつが馬鹿な事を言い出したのは?」
「昨日の午前だな」
「――――監査申請、また随分と早くに通ったものだな?」
・・・あ。
「そういえばそうですね。当日申請しても許可が下りるまでそんなに早く出来るとは」
「前もって準備してたんですかねー」
「拘束期間中、誰も接触しなかったんですかい?」
頭以下、口々に続く質問には、まーまーと一旦引かせておいて、ヒューズは人の悪そうな笑みを浮かべたまま、ほい、と彼の手元に小さな紙切れを落とした。
「雁首揃っててくれてちょうど良かったわ。皆もこのリストのメンツ覚えてくんねーか」
「これは?」
走り書きされた数人の名。全員が覗き込んだのを確認して、
「ロイ」
パキン、と乾いた音と同時に、床に着くまでに紙は灰になり跡形もなくなった。
作品名:Kissing cousins 作家名:みとなんこ@紺