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【臨帝】なんでもない日【腐向】

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彼は聡明な頭脳を持ち、持てる知識を狡賢く利用する才能があった。類稀なる観察眼と鋭い直感を合わせた情報収集は隙がなく、蜘蛛の糸のように張り巡らされた彼の謀略の前にターゲットは全てを暴かれる羽目となる。そんな彼は自然と人の恨みを買い、時には命を脅かされる事件に巻き込まれることさえあった。馴染みの人間が一人、二人と離れていく度寂しさを漂わせる彼の背中を、自分だけは見つめ続けると誓ったけれど、やはり役不足だと思う。子を生み出すことすら出来ない貧相な体。彼を守ることなど出来ない無力な自分。それらを自覚すれば胸が苦しくて、たまらない。

「臨也さん。前から思ってたんですけど…」
「何?」
「僕なんて、つまんない男と付き合うより…お見合い受けて、結婚した方がいいと思います」
「……」

何度かこう告げた事はあるが何時だって臨也は聞く耳を持たず一笑に付され、話題はあっさりと片付けられた。
彼の傍に居たいという想いから今日までずっと一緒に居たけれど、こうして実害が及んでいる場面を目の当たりにすれば思わずに居られない。臨也の幸せを願えば離れた方が良いと。
喉に魚の小骨がひっかかったような痛みを覚えながら吐き出した言葉に、胸が詰まる。ズキズキと小さな痛みは喉を通り胸の奥を苛んでゆく。

「本気でそう、思ってるのかい?」
「……」

ギラリと冷たい光を宿した紅茶色の双眸が、黒いフレームのレンズ越しから帝人を射抜くように真っ直ぐ見つめてくる。
帝人は彼から注がれてくる鋭い眼差しに恐怖を感じゾクンと身を竦ませ、泣き出しそうなほど脅えていた。
いつも帝人に対してだけ優しく甘やかすばかりだった彼が本気で怒っているのだと、良く判ったから。
押し黙ってしまった帝人から視線を逸らした臨也はすっと眼鏡を外しスチールデスクの上に置くと、席を立った。

「その書類明日出してもいいから、今日はもう店じまいにしようね」
「え、あ、あの…」
「いいって。じゃ鍵閉めてくる」

臨也は帝人の横をするりと通り抜け玄関にロックをかけると、キッチンへ向った。そして一本のワインと二つのクリスタルガラス製のグラスを手に、戻ってくる。
事務所フロアの応接室兼リビングのテーブルにそれらを並べた臨也は、背後で脅えながら佇む帝人を振り返り「座りなよ」と告げた。
すると臨也は帝人が萎縮している事に気付いたのか、険しくなっていた表情を優しげなものに変え安心させるように笑む。長くしなやかな指先を合わせるとヒラヒラと上下させ、こっちにおいで?と優しげな声で帝人を手招いてくれた。
優美な微笑にほっと安堵の溜息を吐いた帝人は臨也に示唆されるまま、黒い革張りソファをゆったりと揺らしながら彼の隣に腰を下ろす。

「ちょっと早い時間だけど、飲みたくなっちゃった。飲もう?」

臨也は器用にナイフを捌きワインの栓を開けると、高級ブランドの銘を付けたボトルワインをグラスに注いだ。
そして薔薇色のロゼワインが注がれたグラスを持ち上げ、目線の高さまで持ち上げてみせる。
ワインを注ぐ淀みない流麗な動作と端整な横顔につい見惚れていたが、「どうしたの?」と洗いざらしの黒髪をさらりと揺らしながら小首を傾げられた事で我に返る。
帝人が慌てて手元に置かれたグラスを同様に持ち上げると、臨也は怜悧な美貌をふわりとやわらげ華やかに笑みながら、「乾杯」と呟き視線だけでスマートに乾杯を済ませた。

細い顎を持ち上げ繊細なクリスタルグラスに薄い唇を付けた臨也は、ゆっくりとグラスを傾けこくんと喉を鳴らしロゼワインを流し込む。
僅かな量のワインを残しグラスを卓上に置いた臨也は何かを逡巡するように視線を落とすが、伏し目がちの美貌は酒によるものかほのかな赤みが差し、危うげな色気を放つ。長く濃密な睫毛は瞬きを繰り返すたび、星を弾くように艶めいていた。

いつだってそうだ。真冬の凛然とした漆黒の夜空を連想させる美しい人は、いつだって帝人の心を捕らえて止まない。
ニッコリと笑んでみせれば穏やかな印象を与える好青年であるのに、本質はひどく残忍で。
人が自殺しようとする場面に立ち会ってもそれを止めることなく静観した挙句、葛藤する様を楽しむことさえ出来る残虐性を抱く。彼が持つ悪逆無道な面は毒となり、あらゆる人間に害をなす。
しかしその毒があるからこそ彼の持つ容姿の端麗さが引き立ち、蠱惑的な美しさを持たせているのだろう。
綺麗な薔薇には棘があるというけれど、まさしく彼のような存在を指すのだろうと思った。
酷く危うげであるからこそ、人を惹き付けて止まないのだ。
帝人もその一人で、出逢った時から彼に魅了され囚われている。
そうして呆然と臨也に見惚れ虜となっていた帝人に、臨也が声を掛けた。

「ねえ、帝人君。今日何の日か知ってる?」
「明日は勤労感謝の日ですけど、今日は平日ですよ」
「昨日の夜テレビでやってたんだけど、今日ね、いい夫婦の日なんだって」
「え、何で…ああ、1122、いいふうふですね!語呂合わせかあ…考えた人、上手いですね!」
「日本人ってこういうの好きだよねぇ。君もそう思わない?」
「そうですね!言われてみたら色々ありますね!えーと…」

色々な日付けを思い出してポンポンと呟けば語呂が合う日付を発見する楽しさを見い出して、ちょっとした言葉遊びに興じていた。夢中で日付を巡っていくうち、唐突に臨也が――こう告げた。

「俺たちもさ、そろそろ…いい夫婦に、ならない?」
「え…?」

チリチリとした熱ささえ感じるほどの真摯な視線を向けられて、帝人は胸がぎゅっと締めあげられたような心地がした。
切なさを孕んだ彼の眼差しと視線が交錯すれば全身に熱が宿り、じわり、じわりと体温が高まっていく。
そして、臨也の告げた言葉の意味を思えば――嬉しくて仕方が無かった。ずっと追いかけてきた人が自分を求めている。人生の伴侶として、傍に置くことを求めている。息が詰まりそうになる程の嬉しさは甘い痺れを帝人に植えつけていく。しかし今まで葛藤していたことを思えば、素直に頷けなかった。

「結婚なんて、出来るはず無いじゃないですか…!」
「この国にいる以上、厳密に言えば夫婦にはなれないけど…養子縁組して家族になることは出来るよ?」
「ですけど、でも…そんな急に…」
「ずっと言い出せなかったけど…前から思ってたことだから」
「どうして今まで、言わなかったんです?」
「俺さ、帝人君が初恋な訳。それは付き合う時言ったね?…柄にも無くさ、断られるかもって思えば言えなかったんだよ…」

不遜な態度を貫く帝王然とした臨也が殊勝な発言をしていることに驚き面食らっている帝人に対し、臨也は白皙の美貌を照れたように染めふいっと視線を逸らす。

「ちょっと、笑わないでよ?あーあ。ディナーご馳走しながら切り出そうと思ってたのに、カッコ悪いったらもう…帝人君が、あんな事言うから焦っちゃって、決められなかっただろ。全く…」

そうして恥じらいを誤魔化す様子が、気位の高い彼らしいと思うと同時に可愛く見えた。

「で、昨日テレビ見てさ。ちょうどいい切欠になるかもって」