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なにより嫌う束縛をなによりも愛した

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豆鉄砲を喰らった鳩、まさにそんな顔をしている男は今、目の前で涙を流している己の嫁に戸惑った。
どうして泣いているのか、どうしたら泣き止んでくれるか、どうしたらいいのか分からなかった。

「波江さん…どうしたの?」

極力、優しい声音で彼女に問いかけてみるも、返ってくるのは声を抑えた嗚咽の吐息だけ。
彼女からは何も発せられていない。そして下を向いていて、自分すら見られていなかった。

波江に何があったかなんて、分からなくて。そしてそれがもどかしくて。
自分が彼女の夫であるはずなのに何も知らない事実がもどかしくて。

目の前で涙を流して、泣いている彼女をただ見つめることしか出来なかった。

「何か言ってくれないと、俺も分からないよ」

ゴクンッ、そんな音が鳴った。彼女が喉を鳴らした音だ。
嗚咽を交えて泣く彼女の姿を見るのはこれが初めてだった。

「ふ…っ」

肩を小刻みに揺らす姿を見て、弱い、と思った。
彼女はこんなに弱い人間だったんだ、と。

そんな弱くみえるものだから、怖くて、触れることが出来ない。

拳をグッと堪えて、彼女の顔を覗き込むだけにして。
覗き込んだ彼女の顔にはやはり、涙が流れていた。

「波江さん」

泣くだけの彼女を目の前にして、どうしたらいいか分からないなんて。
それだけで自分がもう抜け出せないほど彼女に依存しているか分かる。

「お願いだよ…泣かないで?」