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となりのかめさん

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時折ウッカリな面も見せるし、ガッカリ王子と名高い陽介だけれども、普段は何だかんだでしっかり者だ。オマケに格好付けたがりだ。だからこんな無防備でへにゃっとした頼りない姿は珍しい。
いつもこれでは困るが、日頃からもう少し気を抜いていたら、疲れた時は気兼ねせずこの肩に寄り掛かってくれたなら良いのに。と願う相棒の心知らず、安穏とした表情を晒して彼は眠る。ライトに照らされた鼻の影がくっきりと浮かび上がって綺麗だ。本当に、黙っていれば王子だなと呆れとも感心とも付かない心持ちでしげしげと眺めた。刹那、耳に届いた衣擦れの音で気付いた光景に目を疑う。

すすすすっと、臍に引っ張られているかのように持ち上げられる膝。踵は尻にくっ付きそうな位近くにあって、投げ出していた腕は胸の下へと収まる。――たちまち、元通り。
目覚める前と同じ姿勢で寝付いた陽介にギョッとした。

お前は形状記憶のシャツか何かか。

そんなくだらない突っ込みを胸中で入れてしまう程、那須は動揺していた。どう見ても楽ではない寝方を無意識下で選ぶ陽介。甲羅もないのに手足を引いて身構える亀の子。起こした甲斐もなく、コンパクトな寝相を貫く彼に那須は絶句して固まる。
気を取り直して布団を掛け直したのはその数分後で、クシュン、と件の陽介がくしゃみをしてからのことだった。また冷たい空気が入り込んで来ないよう、なるべくスペースを空けないようにと陽介の側に擦り寄って白い指を掴んだ。就寝中だというのに力が抜け切らないままの手を握って一人、首を傾げる。どうしてだ。
『ヨースケの寝相? んー、フツークマよ。横を向いてまっすぐ寝てることが多いクマ』
気になって同居人を問い質しても、裏付けになるような証言は得られなかった。そもそも、この姿勢で寝る度に痛みを覚えるのならそれは習慣ではない。気になって仕方がなかった。
後日、一度は解決したかに見えた連続誘拐殺人事件の真犯人が他にいると分かっても、その真相を追い求める日々が戻っても尚この些細な謎は那須の中から消えることなく、不意に思い出しては当人をじっと見詰めて「どうした、相棒?」と問われるのが常だった。


* * * * *


十月の末ともなると、夜はやっぱり冷える。
その上、寝巻きが薄手の浴衣である。ろくに湯に浸かれなかった身体には寒気を撥ね退ける程の温もりはなく、肌に残る僅かな熱も冷たい布団が奪っていく。加えて、この室内に漂うただならぬ気配だ。身も肝も冷やされて凍り付きそうな己を抱いて、那須は隣を見遣った。林間学校、修学旅行、そして本日の文化祭打ち上げin天城屋旅館と揃って隣で眠っているのは、言うまでもなく自分の相棒だ。女子の部屋、正確には柏木達の部屋に行くまでは眠れない、眠れないと騒いでいた陽介も先の一件で流石に観念したらしく、部屋に戻ってからは静かだった。昏倒するかのように寝入ってしまったクマ、完二に続こうと眠る努力をしている。
「陽介。起きてるか」
「……寝てる」
まだ努力段階ではあるが、答えた声は確かに眠気を帯びていた。
ここで「起きてるじゃないか」と水を差すのは野暮なのだろうが敢えて那須は突っ込んだ。のそのそと布団の境目まで近寄って行くと陽介が顰め面で振り返る。やっと眠れそうなんだ、寝かせてくれよ――…そう顔に書いてある。しかし、大人しく寝かせるつもりはなかった。陽介の視界に入らないところから差し入れた腕で掛け布団を引っぺがす。「ちょ……っ!?」外気に晒された身体が縮み上がる。堪らず非難の声を上げようとしたところに覆い被さって、那須は陽介を取り押さえた。状況証拠、確保。現行犯逮捕。

「おま、寒いっつー……」
「なんでお前はそうやって寝ようとするんだ?」

布団がこんもりと盛り上がっているのを見た時点で、那須は察しが付いていた。けれども本人は指摘されて初めて気が付いたらしい。
二度あることは何とやら、懲りずに背を丸めて手足を内側に畳み、身を守るようにして微睡んでいた陽介は、寝惚け眼をぱちぱちと瞬いた。鳩が豆鉄砲を食ったような、の良い見本である。自分のことだというのに心底驚いている陽介に嘆息して、那須は強張る背を撫ぜた。「この格好で寝ると痛めるんだろう?」殆ど同じ背丈でも腰で折ってしまえばその半分だ。容易く抱き竦められる。無理に脚を曲げた所為で肌蹴た浴衣の合わせから、白い腿が覗いていた。
「や、なんでって言われても……」

何とも艶かしい。……ではなくて、

「全っ然意識してなかった。寒かったからかな」
「こんな風に浴衣をぐちゃぐちゃにしていたら余計に寒いだろうが」
ぐらついた理性を保つ為、そこを見ないようにして捲れた浴衣を整えてやる。だが、こうして諌めると同時に那須が自身の煩悩を必死に戒めているとは知る由もない陽介は、そーなんだけどだのわかんねーだのと他人事のようにぼやくだけだった。
その間も互いの腹に挟まれた脚は動かず、背中の強張りは取れない。手を置いた肩は予想通り張り詰めていて、壁のように固い。思い出す。転校生に気安く声を掛けておきながら先に帰った同級生のことを。人懐こく見えて常に距離を測っている彼のことを。

「お前、人前で寝るのに慣れてないんだろう」

人間、眠っている時はどうしても隙が出来る。中々他人に心を許さず、自分を曝け出すのがヘタクソな陽介にとって、人前で意識を手放すというのは恐ろしいことなのかも知れない。
呟くと、ハッと息を呑む音がして陽介は黙した。その反応が図星だと教えている。まるで隠し事が見付かった子どもだ。問い詰めるつもりはなかったのだが、一層身を固くした陽介に苦笑する。
何だか気の毒なことをしてしまった。謝罪の代わりに乱れた髪を梳いていると、やがて陽介が口を開いた。
「……俺、結構昔から、一人で寝てて」
言い訳か、考察か。「ほら、俺一人っ子じゃん。小学校上がる前には部屋貰ってたからさ」それは那須も同じなのだが、ここは黙っておく。「なんかこの前、ホラー映画見た夜にクマが布団入って来たんだけど、すっげ、落ち着かなくて寝らんなかったんだよな」自分でも戸惑っているようで貼り付けた笑みが乾いている。わざわざ自分を誤魔化さなくてもいい。他の誰でもない、『俺』の前で。
「寝る時、一人じゃないと緊張する」
「……………………」
「……の、かも……」
「……そうか」
陽介が自分で出した結論を受け止めて、那須はその頭を抱き寄せた。こめかみの辺りに口付けると、丁度手の平の下にあった頬が火照り出すのが分かった。今が夜でなければきっと真っ赤に染まった顔を見られたことだろうと考えると惜しいものがある。ぎゃーっと喚く様も見ていて面白いのだが、クマや完二の安眠を妨げるわけにもいかず、しいっと唇の前に人差し指を立てた。
それとも、唇で塞いでほしい? と脅せば素直に口を噤む。聞き分けの良い相棒で助かる。ぐっと言葉を詰まらせた陽介の腕を取る。
「腕を下ろせ。脚も折り曲げないで下の方まで伸ばすこと」
「って、何すんだよ。那須……」
「寝る以外に何をしろって言うんだ。セックスか?」
「し、ねーよ!」
作品名:となりのかめさん 作家名:桝宮サナコ