こらぼでほすと 遠征1
なんてできるわけがない。
「おっおまえらな・・・・俺のほうは、キラでもシンでも、とりあえず、ラボに来るやつ
らがあるから、いいんだよ。」
うっかり、そんなことを言ったら、容赦なく、ティエリアがメガネの縁を持ち上げて、
じろりと睨んだ。
「つまり、キラを刹那の代わりにするということですか? ロックオン。」
「いや、そういうわけじゃないけど。」
「そんな代償行為を必要とするなら、実物を世話すればいい。」
「だから、それだと、おまえが。」
「俺は、それほど弱くない。だいたい、なぜ、俺が刹那の世話をしなければならないのか
が疑問です。同行者は、俺だけでいい。これは決定事項です。」
もし、それを覆すというなら、あなたを監禁するように手配しなければ安心できない、
とまで脅されて、ロックオンも黙った。
「刹那、ロックオンの世話を頼む。俺は、アレルヤのほうを担当する。くれぐれも大人し
く療養させるように最善を尽くせ。」
「了解した。」
なぜか、子猫たちが、その場を取り仕切って、勝手に決めてしまった。実のところ、テ
ィエリアは刹那のことを心配しているわけで、アレルヤも、それを知っているから、その
案に同意した。
たぶん、刹那は、まだ離れられないのだ。精神的に安定させるためには、今のところ、
ロックオンの存在が不可欠である。
緊急を要するわけでもないので、民間シャトルで移動することになります、と、シンと
レイが添乗員よろしく説明に来た。プラントに詳しくて、夏休みだから時間のある二人が
、その役目を仰せつかったらしい。
「それで、向こうでレイの家に泊まるから、準備とかいらないからさ。」
もちろん、それを捻じ込んできたのは、そのレイの保護者のほうで、当初はディアッカ
のところへ逗留させることになっていた。私にも、手伝わせろということらしい。お目当
てはティエリアだろうと思われる。
「迷惑じゃないのか? レイ。」
「ロックオン、それは逆です。おそらく、多少の迷惑を被るのは、アレルヤとティエリア
のほうだと思います。すいません、私の保護者が手伝わせろと煩くて・・・・」
「でも、治療方法を教えてくれたのは、ギルさんなんだからさ、レイ。」
「へぇー、レイの親父さんか。医者かなんかなのか? 」
何気なく、そう質問したら、とんでもない返答がきた。
「いえ、プラント最高評議会議長をやってます。」
「それって、プラントのトップなんじゃあ? 」
「はい、実質的には、そういうことになりますね。ああ、でも、大丈夫ですから、あの人
の本命はキラさんです。」
いや、それ、どんな意見なんだよ? と、思いつつ、とりあえず、そういう人が手配し
てくれているなら、問題はないんだろうということにしておいた。もう、いろいろと怖い
繋がりの関係者が判明しているから、いちいち驚いているのも面倒になっているロックオ
ンだ。
「また、物騒なもんでご帰還だな? ハイネ。」
「たまには、乗らないと腕が鈍るだろ? 」
さて、こちら地下のラボでは、ハイネが自分専用のオレンジのMSの発進準備をしてい
る。それに付き合っているのは、本日は虎の代わりに、ここに詰めていた鷹だ。
「議長から秘密通信でも入ったか? 現役フェイス。」
「違う。そっちじゃない、歌姫様から、だ。無茶なことされないように見張ってろってこ
とだよ。」
ただいま休職中だが、ハイネは、れっきとした軍人様で、それも議長直属部隊のお方だ
。この時期に、向こうへ帰るとなれば、何かしらの指示が出たと考えるのが普通だ。
「だいたい、俺には、あの変態に対して義理も忠誠もないんだよ。今回だって、治療以外
で、アレルヤの生体データを確保されないように、チェックするのが任務だ。キラのお気
に入りの子猫じゃないから、それほど、あの変態もちょっかいはかけないと思うけどな。
」
「せつニャンなあ。・・・おまえ、議長に会ったら、『あれは野良猫で、キラと親猫以外
には襲い掛かる』って説明しておけ。あの変態だと、確実にやられる。」
「やられたほうが平和でいいんじゃないか。」
「まあ、そうだけどさ。議長が代わったら、いろいろと面倒だろ? 」
あーまあーなー、と、苦笑しつつ、ハイネも同意する。今のところ、ギルバート・デュ
ランダルという一種独特のカリスマが、議長の座にいてくれるから、勢力分布として安定
している。変態であろうと、執政者として仕事をしてくれれば、やり易い。トップダウン
で指揮系統がはっきりしているからだ。議長に、話を通せば、それで、ほぼプラントとの
交渉は終わる。
「たぶん、虎さんが、あっちのドックにいると思うから、なんかあったら、あっちと連携
しろよ。」
「了解、あんたこそ、紫子猫ちゃんがいなくて寂しいからって、茶色の親猫にちょっかい
かけんなよ、鷹さん。」
「いやー、ママは身持ちが硬くてさ。ははははは。」
いつか、こいつ、絶対に刺されるよな? と、内心でツッコミつつ、ハイネもMSに乗
り込む。
・・・・まあ、当初はそういうのもあったんだけどね・・・・・
最初は、確かに、議長から指示があって、ここに来た。けど、その段階で歌姫様にはバ
レていて、「好きにしてください。」 と、笑顔で対応された。隠すものがないというこ
とではないが、通報して、それで、向こうから何かしらリアクションを起こした段階で、
報復攻撃を受けるということが、数度あれば、沈黙するしかない。それに、『吉祥富貴』
のスタッフは、別に、世界をひっくり返したいと思っているわけでもないし、何かしら戦
争へ雪崩れ込みたいということもない。ハイネにしてみれば、くだらないことに全力を注
ぎ込んで人生を楽しんでいるという感じだ。そもそも、監視対象のキラは、本気で何にも
考えていない。たまに、自分が可愛がっていた子猫を苛めたから、という理由で、あっち
こっちに報復したりしているが、それだって、些細なことだ。それらを見ていたら、バカ
らしくなって、本気で休職願を出してしまったので、本当に、ハイネはプラントのほうと
は縁は切れているのだ。
見送りがてらに、ちょっと外へ出てみたいなーと、ロックオンが零したら、翌日、八戒
と悟浄がやってきた。八戒の気功波で、一時的に免疫力を高めて、外出できるようにする
ことができるらしい。
「いきなり効くものではないので、今日と、出発前日に、気功波を当てます。それで、二
・三日なら外出しても問題はないはずです。」
免疫力の問題は、医者からも説明されていた。投薬治療を、そろそろ始めます、とも言
われているが、それだって、何週間かかかるので、見送りは無理かなあ、と、思っていた
。
「たまには気晴らししないとな。せつニャン、悟空が、あっちこっち案内するって、はり
きってたぞ。」
「ああ。」
「すいません、助かります。」
自分が、というより、刹那の気晴らしになれば、と、考えていたロックオンとしては、
作品名:こらぼでほすと 遠征1 作家名:篠義