こらぼでほすと 遠征1
そういう申し出は有難い。
「ますます、ママニャンだよな? ロックオン。」
「いや、いつもこんなもんですが? 」
苦労してるよなあー、若い身空で子供が三人だもんなあーと、悟浄が冗談を言ったら、
どかっと背後から蹴られていた。で、蹴った人は涼しい顔で、タバコに火を点けている。
「てめぇーらの宿泊先は、うちだからな。せいぜい働いてもらうぞ、ロックオン。」
キラのところへ、と、思っていたのだが、悟空が先に名乗りをあげてしまった。そうい
うことになると、必然的にキラも悟空のところへ泊まると言い出したから、ある意味、合
宿ちっくなことになってしまったのだ。
「ちょっと、三蔵、ここは禁煙です。」
「うるせぇーことぬかすな、八戒。・・・まあ、いいか。おい、刹那、悟空が台所にいる
から一緒に来い。」
それだけ言うと、踵を返す三蔵に、呆気に取られる四人だ。だが、すぐに、悟空が来て
いることに気付いた刹那は、嬉しそうに廊下へ飛び出していった。珍しく、三蔵が別荘ま
で出張ってきたのは、ロックオンたちマイスターの顔を拝みたかったからだ。
別に、これといって準備することもないと言われてしまうと、出発前日とはいえ、やる
ことはない。朝のうち、八戒が来て、気功波を刹那とロックオンに当てると、こちらも早
々に引き上げてしまった。
「なんか、物足りないな。」
明日から、しばらく顔を見ないのだが、一ヶ月か長くても二ヶ月のことだし、ロックオ
ンの免疫力さえ上がれば、会いにも行けるのだから、大して感慨もないはずだが、やっぱ
り、しばらく会えないと思うと寂しい。
「そう言われてもね・・・・ごめんね、ロックオン。僕だけなんて・・・・」
対してアレルヤのほうは、ちょっと複雑だ。ふたり一緒に治療を受けられるなら、大喜
びするところだが、自分だけ、と、言われると、手放しで喜べる気分でもない。
「あー、それは気にするな。・・・・その・・・医者からも言われてるんだ。」
遺伝子段階で、壊されているため、視力の回復は難しい、と、はっきりと言われている
ロックオンは、それについては、八割方諦めてはいる。
「それ、刹那は知らないの? 」
「まだ言ってない。それに、まだ治る見込みもあるらしいからな。」
口にはしていないが、ロックオンの右目が見えていないのは、マイスター組では公然の
秘密みたいになっている。当人が、はっきり言わないので、ティエリアですら言及はして
いないが、右側の補助は、年少組が率先してやっていることだ。
気功波を浴びたから、大人しくしていろ、と、年少組が、昼食は別荘の人間に作っても
らいに出向いている。だから、アレルヤとロックオンは、のんびりと居間で待機中だ。
「まあ、おまえだけでも治るなら、俺としては万々歳だ。ハレルヤだって、自分の担当す
るほうの目が見えたほうが何かと都合もいいだろうしな。」
「うん、それはそうなんだけど。」
「おまえさんの気持ちは嬉しいけどな。それで、距離置かれたりするほうが、俺は寂しい
よ。」
「僕は、そんなつもりじゃないんだ。ただ、僕だけっていうのが、なんだか申し訳なくて
・・・」
「だから、そういう風に考えるな。そうじゃなくて、治して戻ってきたら、俺のフォロー
を、目一杯してくれ。そろそろ真面目に働ける算段をつけないと、クビになりそうだ。」
かれこれ、二ヶ月半、うだうだと別荘で居候している。お披露目されてから一ヶ月も経
っているのだから、そろそろ働かないとまずいだろうと、ロックオンは思っている。
「そうだよね。わかってる、そっちはがんばるよ。」
アレルヤは気遣いすぎだ、と、内心で苦笑しつつ、ぽんと軽く肩を叩こうとしたら、す
るりと手が空を切った。あ、と、アレルヤが声を出してから、ロックオンの手を掴んで、
自分の肩に乗せている。
「そこが、ティエリアの言う『粗忽』なんだって、わかってる? ロックオン。」
「おまえまで小姑みたいなこと言いなさんな。」
「誰が、『小姑』なんですか? ロックオン。」
目の前に人影が現れたので、ふたりしてびくっと飛び上がった。なんせ、どっちも死角
が同じ側だから、こういう時は、ふたりとも気付かない。
「あ、いや・・・・えーっと、おまえ? 」
とりあえず穏便に済ませようと、キラの真似をして小首を傾げて誤魔化し笑いなんぞや
ってみる。
「ロックオン、あなたがキラの真似をしても不気味なだけだから、やめてください。・・
・・それよりも、俺の注意は、そういうふうに取られていたというのが、かなり残念なの
ですが? 」
「ティエリア、これは軽い冗談なんだよ? だから怒るところじゃないからっっ。」
「いや、わかってるよ。」
「わかっているなら、少しは大人しくしていてください。それから、ラボでの射撃練習な
んて却下だ。絶対に、その状態で撃ったら肩が抜ける。」
「なんで、おまえが知ってるんだ? 」
先刻、地下にいる鷹に、射撃練習をさせてほしいと申し込んだところだ。さすがに、い
きなりライフルは無理だから、反動の少ないものを用意してくれるように頼んだ。
「鷹から俺に連絡があった。許可を与えてよいのかという確認だ。」
「はあ? 」
「俺が、あなたの健康管理をしているのだから、連絡があるのは当たり前です。そういう
ことをするなら、普通の基礎体力をつけるジムマシーンでもやればどうなんです? ロッ
クオン。」
「それもやるつもりだが、ちょっと試しておきたかったんだよ。」
「まだ無理です。そういうことをやろうとするから監禁したいと言うんです。」
紫子猫は、ものすごく怒っていて、それから散々に説教された。物事には順序と言うも
のがある的な説教をされていると、食事が用意できたと、刹那が飛び込んできた。
「ティエリア、それは、俺の管轄だからやめろ。」
「今日までは、俺の管轄だ。俺は、この際、徹底的にやらせてもらう。」
まだ、何かございましたっけ? と、ロックオンが逃走しようとしたら、ぐいっと襟首
をつかまれた。
「おいおい、じじい。逃げるのか? 」
「こういう時は見逃せよ、ハレルヤ。」
「そうはいかないぜ。せっかくのメシを食いっぱぐれたら、そのほうが問題だからな。な
あ、女王さんよ、こいつにメシを食わせるほうが先じゃないのか? 」
「確かに、そうだな。ハレルヤ、つれて来い。」
ティエリアも食事が優先と踵を返して食堂へ向う。よっこらしょっと、荷物のように担
がれてロックオンは溜息をつく。なんていうか、日射病で倒れてから、さらに過保護さに
磨きがかかった感がある。そこまでしてもらうほど弱っていないと思うのだが、真剣に説
教するティエリアを見ていると、つい大人しく拝聴してしまうのだ。真面目に真剣に心配
しているのは、ロックオンにも、それなりには伝わっている。
「じじい、アレルヤのほうは、俺がフォローしておくから、おまえは大人しくしてろよな
。」
作品名:こらぼでほすと 遠征1 作家名:篠義