こらぼでほすと 遠征1
こそっと、ハレルヤが、そう声をかけてくる。アレルヤの気患いについては、ハレルヤ
が、どうにかしておくということらしい。
「頼むな。あと、ティエリアのほうもな。」
「それは、アレルヤがどうにかすんだろ? 」
ま、いろいろと考えることはあるし、やっておきたいこともある。利き目が使えないな
ら、利き目じゃないほうで、どうにかすればいい。使えない程度を確認したくて、射撃練
習を申し込んだのだが、どうやら、それはできないらしい。
「あまり、左目を酷使すると視力が落ちる。それも考えてください。」
先を歩いていたティエリアが立ち止まって待っていて横に並んだ。「万死に値する」
と罵られないだけマシなのかもしれない。
「わかってるよ。おまえも無理すんなよ、ティエリア。本当に、一人でいいのか? 」
「一人ではありません。レイとシンが同行することになっている。あなたこそ、無理しな
いようにしてください。」
ちゃんと、報告は刹那から受け取りますからね、と、ティエリアは笑って、ちょっと横
目で睨んでいる。どうやら、遠いプラントから説教の通信は送ってくる気満々らしい。
「楽しそうだな? ティエリア。」
「ええ、楽しいです。完璧な人間だと思っていたあなたの意外な一面があることが判明す
る度に、人間の奥深さを感じられる。」
「俺は、元々完璧じゃないんだよ。おまえが誤解してたんだろ? だいたい、この世の中
に完璧な人間なんていねぇーっての。」
「俺にとっては、あなたが人間としての一番良い見本だった、と、言い替えてもいい。」
「おまえも人間なんだから、その言い方はよせ。」
「確かに語弊はありそうだ。あなたが、俺や刹那のことを話を聞かないと嘆いていたこと
を、今は、俺もあなたに感じています。意思疎通というのは難しいものだ。」
「いや、おまえらが過保護すぎなだけだ。」
ほら、話が通じない、と、ティエリアは盛大に笑っているし、担いでいるハレルヤも、
げらげらと笑っている。
「これから地上は、どんどん気温が上がります。それを考慮して動いてください。あなた
の故郷のような寒暖差のない気候ではないんですよ? ロックオン。」
熱帯とまではいかないものの、湿度の高い温帯気候というものは、これから一番厄介な
季節になる。普段、涼しいところに住んでいたものにとって、これはなかなか試練の時期
になるから、ティエリアは心配しているのだ。ちなみに刹那は、ここに隠れ家があったか
ら、ある程度、この気候に慣れているので、問題はない。
「そういや、そんなこと言ってたな、悟浄さんが。」
「俺も八戒さんから聞きました。一番堪えるのは、あなただから、俺は注意している。」
「まあ、確かに。」
「理解していただけたなら、結構です。」
この後、食事中も、ティエリアは、外出時には必ず、飲料水を持て、とか、ジムマシー
ンは一日二時間まで、とか、おまえ、どこのおかんだ? というような注意を延々と続け
たのには、さすがのロックオンも閉口した。
普段、クーラーをつけないで生活していると、それはそれで、どうにかなるものだ。特
に、仕事着が着物なんてことになっている三蔵と暑さなんか気にしない悟空なんかだと、
風呂上がりに扇風機ぐらいで生きている。
しかし、今回、お泊まりする人間たちは、ほぼクーラーの中で生活しているものばかり
で、常温なんかに耐えられるはずがない。
「三蔵のところって、クーラーはありましたっけ? 」
「さあ? どうなんだろうな。」
そして、クーラーがあろうとなかろうと、あまり問題がない八戒と悟浄も、三蔵のとこ
ろでつけた記憶がないから首を傾げた。とりあえず、確認しておきましようか、と、別荘
からの帰りに、そちらへ立ち寄った。
「クーラー? ああ、客間と脇部屋にはつけてあるが? 」
お泊まりだから、と、悟空は、ご機嫌で客用の布団を干していた。それは良いのだが、
肝心の空調なんか、誰も気付いていなかった。それが、どうした? と、尋ね返している
三蔵に、その手の気配りなんてものを期待してはいけない。
「ロックオンは、欧州でも北のほうの方なんで、高温多湿には慣れてないんですよ? 三
蔵。避難場所を確保しておかないと、熱中症になります。」
「慣れりゃいいことじゃねぇーか。だいたい、クーラーなんて不健全なんだよ。」
「まあ、あんた、そろそろ妖怪化してるから、体温調節できるもんな。」
悟浄が、けけけけっと笑いつつ、勝手にビールなんか飲んでいる。この気候で長年暮ら
していると、身体が慣れてしまうから、問題はないというのは、わかるのだが、慣れてい
ない人間には、おそろしく疲れる気候だと思う。基本的にコーディネーターで宇宙空間な
んかの極悪環境でも対応可能なはずのキラたちでさえ、夏は苦手だと言っているのが、そ
のいい証拠だ。
「ごめんください、三蔵さん。」
そこへ、ひょっこりと現れたのが、アスランだ。外から、きゃあーという声が聞こえて
いるから、キラは悟空のところへ顔を出したらしい。
「よおう、おまえもクーラーの確認か? アスラン。」
「ええ、もしないのなら、冷風機の準備でもさせてもらおうかと思ったんです。」
お泊まりは、別に構わないのだが、キラは暑さで寝られないだろうな、と、アスランは
、その辺りを心配したらしい。
「それなら、いっそのこと、夜だけキラんとこへ、皆で泊まったほうが早くないか? 」
「俺も、そう言ったんですが・・・・キラが、夜中に本堂で肝試しをするとか言うもので
。」
「本堂か、まあ、出そうだけどなあ、ここんちのは。でも、ここんとこ、ずっと熱帯夜だ
からなあ。キラは寝られないぞ? 」
ロックオンも、そうだが、おそらくは、キラと刹那も寝られないだろう。暑苦しい温度
なんてものとは無縁なのだから、身体が慣れていない。
「三蔵、脇部屋と客間のクーラーって潰れてないんでしょうね? 」
「さあ? 使ってないから、わからねぇーぞ。おい、カッパ、ちょっと調べろ。」
「人使いの荒い坊主だな。」
そうは言うものの、悟浄は立ち上がる。使えないとなれば、宿泊場所を変更したほうが
無難だ。本堂の横にある脇部屋は、本堂を挟んで左右に二つある。基本的には、ここで、
衣装を着替えたり、訪れた客たちの待合室となるので、そこだけは、クーラーを設置して
ある。本堂には、大型の扇風機はあるが、空調設備はない。なんせ、広すぎて、そこを冷
やすなんてことは不可能だからだ。
使っていないクーラーというのは、事実だったらしく、動くことは動くが、がんがん埃
を吐き出している。おいおい、と、電源を切ってフィルターを外した。手伝いましょうか
? と、アスランが顔を出したので、もうひとつの脇部屋のほうのフィルターを洗っても
らい、ちゃんと温度が下がるのか確認した。客間のほうも、同様だったが、とりあえず可
動はすることは判明した。
作品名:こらぼでほすと 遠征1 作家名:篠義