こらぼでほすと 遠征2
にとって暗闇なんてものは問題ではない。それから、八戒がロックオンに、ビニール袋を
ひとつ手渡した。
「三蔵と僕が、本堂で威かしますから、そこから出て来たところで、これを投げてくださ
い。」
手渡されたのは、氷水が詰め込まれたビニール袋で、その内側に二重のビニール袋があ
って、そこにはヌチャヌチャしたものが入っている。
「これ、なんですか? 」
「ゼラチンと水の混ぜたものです。冷たいと固まってますが、常温になったら融けますの
で、かなりびっくりすると思いますよ。くくくくくく・・・・・」
ああ、なるほど、さっきのこんにゃくの代用かい、と、ロックオンも納得した。ただ歩
くだけではなくて、脅すつもりで準備していたのだ。本堂の出入り口付近に隠れたロック
オンは、地下から聞こえたキラの「にっぎゃああああああああ」 と、いう叫び声に声を
殺して笑う。どうやら、悟浄が成功した様子だ。ドタバタと足音がして、キラが飛び出て
きた様子だ。また、本堂で、「いやぁぁぁぁぁぁ、あすぅらぁーーーーーんっっ」 とか
叫んでいるので、こちらも何か成功しているのだろう。
だが、ロックオンの前に出て来る前に、脇部屋から飛び出してきたアスランに保護され
てしまった。刹那は、どんな反応だろうと、思っていたが、物音がしない。本堂も、ビタ
ッッとか音はしているのだが、やっぱり無言だ。ヒタヒタと足音が近づいて来たので、人
影を確認してゼラチンを投げたが、当たらない。
・・・・そういや利き目がダメだもんなー・・・・・
どうも距離感に問題があるので、当たらないままに足音が近づいて来た。
「ロックオン、それはなんだ? 」
「なんで、そんな冷静かね? おまえさんは。」
「殺気じゃないから問題はない。」
はい、これ、と、くにょりとしたものを刹那の手に乗せたら、「へぇー」 と、興味な
さそうに、ぽいっと庭に捨てられてしまった。
「おもしろくなかったか? 」
「普通。キラの叫び声が一番びっくりした。」
「はい、そこ。まだ、一人、強力なのが残ってますからね。準備してください。刹那君、
あなたも悟空を驚かしてください。それ、投げて命中させてくださいね。」
背後から、八戒がやってきて、刹那の頭を、ぐりぐりと撫でて笑っている。これで驚け
ないのは、それ以上に本気の殺意の中で生きてきたからだ。それを、ここにいるものは知
っている。それを、可哀想だと同情することはない。ここにいるものは、それを、みな、
経験してきたからだ。
「けど、キラって普通だよな? 八戒さん。」
怖がり方が、とてもノーマルなキラに、ロックオンは苦笑する。
「キラくんは、縋りつける相手ができたから、怖いと言えるんですよ。彼の経験も、半端
ではないですからね。なんせ、『白い悪魔』ですから。」
「ああ、そうでしたね。じゃあ、とりあえず、真打ちを駆逐しようぜ? 刹那。」
「ああ。」
その後、真打ちの悟空は、凄まじかった。ブツを奪って、悟浄の背中に、それを放り込
み、それから本堂では、三蔵と本気で、ゼリーを投げ合って、最後に刹那にも、ゼリーを
お見舞いした。
終わって、明かりをつけたら、本堂がとんでもないことになっていたが、朝から掃除を
するということで、みな、順番で風呂に入ることになった。
僕らは帰ります、と、悟浄と八戒が風呂だけ入ると、そのまま帰った。皆、ご近所に住
んでいるから、別に泊まる必要もないのだが、キラとアスランは、客間へ泊まる。せっか
くだから、三人で寝ないか、と、悟空が誘ったからだ。客間に、四人分の布団を敷いて、
そこで、さらに、枕投げとか始まっているが、アスランがなんとかするだろうと、三蔵と
ロックオンはスルーの方向だ。
脇部屋のひとつは、クーラーを止めて、家に近いほうの脇部屋で、ロックオンは休むこ
とになった。だが、布団というのが、慣れない代物だ。
「俺と代わるか? 」
三蔵はベッドだ。
「いや、床と近いから、なんか変な感じがするってだけだから。」
サバイバル経験ということなら、ロックオンも、引けはとらない。わーわーと騒がしい
家のほうを眺めて、ふたりして苦笑した。
「ちょっと飲もう。」
返事なんか聞かなくて、三蔵は、山盛りの氷が入ったグラスと、洋酒のビンを運んでき
た。本堂の前の階段に、ふたりして座り込む。そろそろ深夜枠の時間になってくると、涼
しい風が吹いている。夜間バイトなんてしてる面々にとってはまだ就寝時間には早い。刹
那だって、付き合いで早く眠っていたが、たまの夜更かしも楽しいだろう。
「久しぶりに、独り寝できるぜ。」
刹那が、組織からすっ飛んできてからというもの、ぴったりとくっついているので、独
りで寝ることがなかった。精神的に不安定になっているのだと分かったから、甘やかして
いたのだが、そろそろ落ち着いて欲しいとは願っている。
「・・・・独り寝したきゃ、生き急がなきゃいいじゃねぇーか。」
ぼそっと、呟かれた言葉に、はっと横を向いた。三蔵も、家のほうを向いているので、
横顔だ。
「そうもいかないんでね。」
たぶん、組織は、計画を遂行しているはずだ。もし、自分がマイスターから下ろされる
ことになっても、その計画の一端には参加したい。それには、以前と同じだけの体力が必
要だし、何より、他のマイスターたちの負担になるようなことは避けたい。
「泣いてくれる誰かがいるのならな。てめぇーの生命は、もう、てめぇーだけのもんじゃ
ねーんだよ。生き残る前提でいなきゃ、その泣いてるのも巻き添えになる。それは理解し
たほうがいいぜ? ロックオン。」
「俺には、いねぇーよ。」
「はっ、バカほざいてるな? おまえんとこのガキ共は、みんな、巻き添え対象だ。・・
・・・おまえが、一足先にお陀仏したから、えらいことになったんじゃねぇーのか? 」
三蔵だって、その辺りのことは、八戒から報告されている。四人のうち、一人が暴走し
た結果、残りが窮地に立った。死ぬ気で飛び出したりするから、刹那は、あんなに不安定
になってロックオンを求めるのだとも言われて、納得した。当人が、そのことを自覚して
いないのがおかしいと苦笑していたのだ。こんな機会は、滅多にないだろうと口を開いた
。
「それは・・・私情で暴走したのは、そうだったけどな。」
「責任を取るっていうのは、死んで楽になることじゃねぇーと俺は思うぜ。拾ったら、最
後まで世話するのが筋だろう。そうじゃないと、拾ったのも、同じことを繰り返す。・・
・・おまえは、それでいいのか? 俺は、そんなのは認められねぇーよ。」
過去が、どうであろうと、因縁があろうと、拾うと決めたのは、自分自身で、それは、
自分自身を、も生きていることが前提の覚悟だ。生半可に拾ったつもりはない。先に何が
あるのかは判らなくても、とりあえず、拾ったのと自分が生きていくことが、絶対だと思
っている。
「悟空のことですか。」
作品名:こらぼでほすと 遠征2 作家名:篠義