こらぼでほすと 遠征2
「ああ、うちのサルも、そうだ。・・・・おまえの年齢じゃ、まだ、ちっともわかってね
ぇーことが、たくさんある。俺たちだって、そうだ。それが判って、拾ったのが、大人に
なるまでは生きてる必要があるのさ。・・・庇って死んだって、それは、いい終わりじゃ
ないんだよ。庇って、敵を殺して生き延びてこそ、いい終わりだと俺は思う。」
「いや、俺は勝手に死んだんで・・・・庇ってはいませんよ。」
「これから先である。おまえの様子からすると、それでいいと思いそうだから、忠告して
るんだ。おまえが、そういう心持ちだから、あのガキは、おまえから離れないんだよ。」
けっっと舌打ちして、ごくごくと酒を飲み干している三蔵は、ふらりと、こちらを向い
た。紫の瞳は、じっとロックオンを睨んでいる。
「強くなれよ、ロックオン。そうでないと自滅するぞ。」
真面目に心配されているのだと気付いて、ロックオンも苦笑する。刹那の揺るがない強
さが羨ましい、と、思っている。たぶん、自分が、一番脆いだろうとも思っていたから、
それを指摘されたら苦笑するしかない。
「さすが、坊さんってとこかな。・・・・肝に銘じます。」
「おう、わかったらいいさ。まあ、飲めよ。」
どぼどぼと流し込まれているのは、アルコール度数40度という代物だ。それなりに強い
ロックオンだが、これ、全部、飲むと潰れるかもなーと、ちょっと退く。
そこへ、家からの渡り廊下を走ってくる姿があって、ふたりして、そちらに視線を流し
た。足音と人影は、ふたつだ。本堂へ、すったかたーと昇ってくると、まず、悟空が、た
はーと息を吐いた。
「もう、ダメだぞ。それ以上、飲むと危ない。」
「うっせぇーな、おまえは、キラとちびと遊んでろ。」
そして、ちびと呼ばれている刹那のほうも、ロックオンからコップを取り上げて睨んで
いる。
「いくらなんでも、飲みすぎだ。そろそろ寝ろ。」
「はいはい、もうやめるよ。けど、もったいないから、これだけは飲ませろ。」
いい酒ではあるので、捨てるのはもったいないと、手を伸ばしたら、びしっと手を叩き
落された。
「飲んでもいいけどさ、ロックオン。部屋に戻ってくれる? うちの親父さ。一定量を越
えると口説くんだよ。・・・・いやだろ? さんぞーに口説かれるのなんてさ。」
「いいじゃねぇーか。こんな美人なんだから、口説かないと失礼になるんだよ。なあ、ロ
ックオン。今夜は、寝かさないぜ?」
ええっ、今までの良いお話は? というぐらい、怖い台詞を吐いた三蔵に、ロックオン
は、後退さる。ほらな、と、悟空が大笑いして、ひょいっと、その坊主の身体を持ち上げ
た。
「じゃあ、おやすみ。」
軽々と、そのまんま、渡り廊下を戻っていく悟空に、ふたりして唖然とした。とりあえ
ず、後始末をするか、と、三蔵のコップと洋酒のビンを持ち上げたら、刹那が、それも奪
う。
「おまえは部屋に入れ。」
刹那も、それを運んで、家のほうへ走り去った。いい感じで酔っているので、このまん
ま寝てしまおうと、ロックオンも脇部屋に入る。布団に転がって、電気を消したら、その
まんま、ぐっすりと眠ってしまった。
「あら、それで、大本命は、どうだったんですか? キラ。」
翌々日の吉祥富貴に、歌姫が来店して、第一声が、それだった。「ロックオン三度目の
ダウンはいつ? トトルカチョ」 に、歌姫も、もちろん賭けている。事前情報を聞いて
、この日だとマークしたのは、日曜日だった。避難所しかない三蔵の寺で、ちゃかちゃか
と動き回ったら、確実に熱中症になるだろうという予想だったのだ。
「ハズレ。・・・・・後一歩だったんだけどね。刹那が気付いて避難させちゃったから。
」
朝から、前夜に汚した本堂の掃除をしたのだが、途中でだらだらと汗が止まらなくなっ
たロックオンを、刹那が慌てて、脇部屋へ押し込んだ。そして、それじゃあ、ダメだろう
と、悟空は、水風呂へロックオンを運んで叩き込むという乱暴な処置をしたお陰で、熱中
症にはならなくて済んでしまったのだ。
一人だけ中途半端で申し訳ない、と、昼食は、ロックオンが作ったのだが、見事な洋食
ばかりで、三蔵は黙ってビールを飲んでいたが、他には好評だった。
「残念というか、よかったというか、複雑ですわね、キラ。」
「うーん、あの調子だと、刹那が阻止しそうだから、賭けは成立しないかもね。」
最初に言い出したのは、キラだったが、別に真剣に考えたわけではない。お客様に名前
を覚えてもらうには、いいかな? ぐらいの思いつきだったが、意外にも、お客様の食い
つきはよかった。ほぼ100パーセント、この賭けに参加しているほどだ。
「アレルヤくんのほうは、どうなんですか? オーナー」
冷たいものを運んできた八戒が、さりげなく、そちらのほうを確認する。刹那と悟空に
、熱中症の前兆と対処法を教えたのは、彼だ。ある意味、オーナーの賭けを反故にした張
本人である。
「検査は終わったそうで、そろそろ治療にかかるそうですわ。問題はないそうですから、
一月もしないうちに戻れるようですよ。」
「それ、刹那には教えてあげたの? 」
「いいえ、ティエリアが、ちゃんと連絡を入れていると思います。・・・さて、キラ。次
は、何をしましょうか? 」
もちろん、トトカルチョ不成立なんてことは、歌姫様は絶対に認めない。炎天下に出て
来なければならない用件を作るぐらいは、オーナー権限で、どうとでもなる。
「うーん、みんなで海? それとも近場でプール? 」
それに気付かないキラは、次の遊びの予定だと思っているから、夏らしいことを言い出
す。周囲の人間が、あーあーと、ロックオンに内心で同情しているが、誰も口にはしない
。歌姫様は容赦がないからだ。
「うふふふふ・・・・・わかりました。プールで、予定を組みます。」
「あ、僕、普通の水着がいい。去年みたいなのは、イヤだよ、ラクス? 」
「でも、キラの身体を他の方にお見せするわけにはまいりませんよ? 」
というような理由で、昨年のキラの水着は、女の子が着るようなワンピースの白の水着
だった。アスランが、それを見て、プールサイドでのた打ち回ったのが、スタッフの記憶
に焼きついている。
「ハープパンツとTシャツとかがいいな。」
「まあ、可愛くないこと。」
「だって、たまには、ラクスとお似合いのカップルって言われてみたいもん。去年は、姉
妹みたいって言われて、僕としてはショックだったな。」
「あらあらあら、うふふふふふ・・・・わかりました。お似合いのカップルになるように
、用意させておきますね。」
さすが、天然、と、悟浄が、ひゅう、と、口笛を吹く真似をしている。これが、本心だ
から怖いのだ。そうなるつもりは、まったくないというのも、本心だから、さらに怖い。
「今度は、プールらしいよ、ヒルダおねーさま。」
「平和でいいじゃないか、悟浄。・・・・とりあえず、ロックオンには、もう一回だけ泣
作品名:こらぼでほすと 遠征2 作家名:篠義