こらぼでほすと すとーかー1
ジャマでベッドに居た。なぜだか、頬にガーゼが貼り付けられていて、怪我をしている様
子なので、何事だ? と、悟浄が尋ねる。
「昨日、階段から転がり落ちたんです。それで、背中とかあっちこっち打撲しちゃって・
・・今日は、休んでるんですよ。」
と、ロックオンの代わりにアレルヤが、お茶を用意しつつ暢気に返事する。
「喧嘩でもしたのかよ? 」
「いや、そうじゃなくて、俺が掃除してて、うっかり、刹那とぶつかって、刹那が落ちそ
うだから庇っただけです。大袈裟なんですよ、こいつらは。別に、打撲って言っても、大
したことじゃないし、どこも折れてるわけじゃないのに、この仕打ちなんです。」
どっこいしょ、と、ロックオンがベッドから降りようとしたら、傍で控えていた黒子猫
が介助している。
「特別ですよ、ロックオン。」
さらに、刹那と逆手にティエリアまで付き添って、応接セットへと歩き出す。そんな大
袈裟にすんな、と、ロックオンは苦笑しているのだが、二匹の子猫は聞く耳は持たない。
確かに、悟浄が見ている限り、普通に移動しているのに、大袈裟過ぎる介助だ。
「刹那君は大丈夫だったんですか? 」
「ロックオンが抱え込んだから、打撲もない。」
「いや、こいつが、びっくりして暴れてくれたもんで、ひっかかれましたけどね。」
「ああ、それで、それ? 」
頬のガーゼを、指差して、ロックオンは笑っているが、となりの黒子猫はバツが悪そう
に、ぷいっと横を向いている。やることがないと退屈だというロックオンは、別荘の掃除
を買って出て働いている。そうでもしないと、退屈で腐ると、ティエリアに文句を言った
からだ。
夏休みの小学生のように、タイムスケジュールを組んで、ティエリアは、ロックオンの
管理をしている。ジムマシーンは二時間、読書は一時間というようなことになっていて、
ちっとも体力を回復させられないから、ロックオンとしても苦肉の策だった。ただ、右側
の視界がないので、刹那がいることを忘れる。平面なら大人しく、そのまま刹那を転がす
ところだが、階段の上からでは、ヤバイと庇って、そのまんま転がり落ちた。もちろん、
刹那は抱き込んでいるから無傷というのが、さすが、おかんというところだ。
「それで、ティエリアから、さんざんに説教食らって、この様です。」
「それは災難でしたね。お医者様は? 」
「いや、本当に、そこまで痛くないんで。・・・・まあ、それは忘れてください。はい、
おまえらも座る。仕事の話だ。」
ぽんぽんと手を叩いて、三人もソファへと座らせる。そろそろ、仕事をはじめましょう
か、と、少し前に八戒から言われていたから、そのことだろうと、ロックオンも思ってい
た。アレルヤの治療のこともあって、延び延びになっていたし、さすがに、真夏の気候に
、刹那以外のマイスターたちが耐えられないだろうというのもあって、気候が落ち着くま
で延期になっていたのだ。
「早速ですが、近日中に、引越しして、そちらで落ち着いたら、仕事をはじめてもらうこ
とになりました。・・・・・最初は、見習いからということで、見学しながら慣れて貰う
ということで、よろしいですか? 」
「それ、刹那とティエリアもですか? 」
恐る恐るという風に、ロックオンが質問する。この子猫たちが接客なんてできるとは到
底、思えない。
「そりゃ、そうだろう。大人組だけ働いて、こいつら、遊ばせておくことはないさ。あの
な、ロックオン。そんなに心配しなくても、こいつらだって、仕事なれば、ちゃんとする
さ。それに、いつ、復帰になるのかもわかんないんだし、社会勉強だと思ってやらせてみ
ろよ。」
「俺はできる。」
「俺も、だ。ロックオン。」
で、悟浄の言葉に、両側の子猫二匹は、即座に親猫に反論する。まあ、社会勉強にはな
るんだろうが、他のスタッフに迷惑がかかりそうで、親猫としては心配だ。
「ねぇ、ロックオン。僕たちも一緒なんだし、フォローはできると思うよ。働かないで楽
させてもらってたら、申し訳ないしね。」
結果的に、そういうことになるんだろうな、と、アレルヤのフォローに、ロックオンも
頷くしかない。
「じゃあ、纏まったところで、住む場所のことですが、キラくんたちが住んでいるマンシ
ョンのふたつ下の階になります。所帯道具は、一式、準備しますし、着替えなんかは、こ
ちらから運びます。後、入用のモノは、このカードで買ってください。各人の名前が入っ
てますから、間違わないように。」
すらすらと説明して、カードを四枚、机に並べた。『吉祥富貴』のスタッフなら、誰で
も持っているものだ。法人カードなので、偽名であろうと、そのまま登録できて、そのま
まサインで買い物もできる。毎月、そこに給料が振り込まれるので、その限界までは使え
るようになっている。マイスター組のカードには、支度金ということで、先に、いくらか
振り込まれていて、当座の入用なものは、それで用意してくれ、と、八戒は続ける。
住居とクルマ一台は、貸与ということになっているし、仕事着も、趣味をとやかく言わ
ない限りは貸与だ。至れり尽くせりの環境だな、と、ロックオンは感心する。
ちゃんと、自分で生活していた人間にとって、それらは、良すぎるほどの好条件だ。
「普通、見習いの時は、ここまで、好条件じゃないんですけどね。・・・・・すでに、あ
なたたちには、顧客がついていることだし、それでいいと、オーナーもおっしゃいました
んで。」
刹那とロックオンは一ヶ月、ティエリアとアレルヤは、一日だけ、だったが、『吉祥富
貴』で働いている。その時のお客様たちが、四人のマイスターのデビューを心待ちにして
いるという。
「それから、ロックオン。暇な時にでもいいですから、これに目を通しておいてください
。僕の補佐をお願いします。」
差し出されたのは、「素人でもわかる経理の仕組み」 「簿記検定4級」 という二冊
の本だ。
「経理? 俺が? 」
「はい、うちの宿六は役に立たないし、他の面子は、金銭に無頓着で、今まで、ひとりで
やってましたんでね。」
「おいおい、八戒、それ、ひどくねぇーか? 」
「事実です。」
「精一杯、ご奉仕させていただいてたんだけどなあー。」
「それは、認めますが、売掛金の残高も気にしない人間は不適格なんですよ、悟浄。」
お客様でも、持ち合わせがなくて掛けにする場合もある。それが、膨らむようなヘマを
する客はいないものの、それでも、頭の片隅に、その数字くらいは記憶させておくものだ
が、『吉祥富貴』のホストは、そんなこと気にしていない。本来は、売り掛けの回収も、
ホストの仕事のはずなのに、八戒が連絡していたりするのだ。
「俺も、あんまり気にしない性質なんで・・・・」
「いえ、ロックオン。あなたと僕とアスランぐらいしか、経理はできないと思います。」
「そういうのは、ティエリアのほうが向いているような気が・・・・」
作品名:こらぼでほすと すとーかー1 作家名:篠義