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B.PIRATES その2

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 だが、激情を抑えることも出来ず、獣のように白哉に乱暴を働いた、己のこの浅ましさは、一体何だ。
 この誇り高い男を…愛しい白哉を…、ここまで怯えさせ、屈辱を味わわせ……

 浮竹の胸に後悔と絶望が、波のように襲ってきた。
 途中で我に返ったのがまだよかったとはいえ、白哉にとって許される事ではないだろう。
「…浮、竹……?」
 浮竹は、自分を押さえ込むように自身の両腕を抱き、うなだれながらきつく目を閉じて白哉の上から離れ、よろよろと後ずさった。
「……すまん……」
「………」
 白哉はゆっくりと身を起こし、半分脱がされたシャツの前を合わせた。
「……少し、頭を冷やせ。浮竹。」
「…すまん…」
 白哉にあわせる顔がないというように、白哉に背を向け窓際に立ち、俯いて顔を覆う浮竹は、それしか言えなかった。
 白哉はそんな浮竹を見て、散らばった制服を拾い、着衣を整えると、言った。
「……夜、また来る。」
「…?!!」
 白哉の言葉に、ばっと振り返った浮竹の前には、いつものように軍服を着込み、凛とした眼差しを向ける白哉が居た。
「…それまでに、もう少し紳士的な振る舞いを知っておけ。 粗忽なやり方は、許さぬ。」
「…白、哉…」
 なにか言いたそうな浮竹に白哉は背を向け、部屋から出ようとした。
「白哉…!!」
 呼び止められた白哉は、扉のノブに手を掛けたまま止まり、呟くように言った。
「…私もどうやら限界らしい…。
 …浮竹。 ……そう、なってしまった後のことは、知らぬ。堕ちてしまえば、…後戻りは出来ぬ。…覚悟を、しておくがいい…。」
 そう言い残すと、白哉は船室の外へ出ていった。

 残された浮竹は、当分、白哉が出て行った扉を見つめていたが、やがて、カタカタと、震え始めた。

  …白哉が俺を求めていた…!!

 今は、その事実だけで、どれほど心が喜びに満たされることか。
 浮竹は、今にも泣き出しそうな顔をして、片手で顔を覆い、天に感謝するかのように、空を仰いだ。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


『あやうくあの人の頸をかき抱こうとしたことが、もう百回もあった! これほどにも親しげな素振りがちらちらと目の前にゆき交うのを見ながら、それを捉えようとする手を抑えていなくてはならない気持ちは、誰が知ろう。
捉えようと手をさしのべるのは、人間のもっとも自然な衝動だ。』

   ―――ゲーテ
       『若きウェルテルの悩み』―――



 自室の窓際に腰掛け、浮竹は、傾く太陽をずっと眺めていた。

 …白哉は、覚悟をしろと言った。
 覚悟など、とうにできていた。
 本来敵である海軍総司令部隊長を、そして、類い稀なる高潔にして高貴な者を、浮竹は手に入れたいと思ったのだ。
 生半可な覚悟で、求めたつもりは毛頭なかった。
 今も、その想いに変わりはなかった。
「今夜……」
 浮竹が呟いた。
 …………陽が落ちるのが、とても、遅かった。

 そうして、苦しいまでの長い時が過ぎ、ようやく夜の闇が訪れた。だが、浮竹の待ち人は、いつまで経っても現われなかった。
  …やはり、来てはくれないのだろうか…。
 浮竹がそう思い始めた夜半に、浮竹の部屋の扉をノックする音が聞こえた。
 少しも待たせずに、扉は開かれた。
「…白哉…」
 浮竹は、本当に来てくれるのか不安だったことが一目で分かるように、ほっとした声で白哉の名を呼んだ。そして、夢ではないことを確かめるように、扉の外に立つ白哉をじっと見つめた。
 白哉は、いつもと同じ冷静な表情を変えずに、ぽつりと言った。
「……朝までこのままか…?」
「…あ、ああ…。すまん、入ってくれ。」
 中に通された白哉は、居場所を探すように、部屋の中を少し歩いていたが、結局立ったまま、窓際にもたれ掛かった。
 そんな白哉に、浮竹は言葉を探すように辿々しく訊ねた。
「…何か、飲むか?」
「…いらぬ…」
「…そう、か…」
「………」
「……………」
 浮竹は何を話していいか解らなくなり、焦りながら目線を泳がせた。
  ……まいったな……。

 まるで、初めてのような心境だ、と、浮竹は思った。
 無理もなかった。ずっと、恋焦がれた相手が目の前にいるのだ。殊更に緊張している自分を痛感していた。

 …本当に、触れてもいいのだろうか…
 今更ながらにそんなことを考え、浮竹は白哉を見た。
 白哉は、浮竹をじっと見ていた。そのまっすぐな眼差しに、浮竹の鼓動が早まった。
 その目。 その意志の強さを現している、白哉の美しい瞳に、浮竹は最初に心を奪われたのだった。
 平静を失いつつある己と違って、白哉はいつも通りに凛として、自分を見失わずにいる。こんな高貴な花を、自分の様な者が手に入れてもいいのだろうか…と、浮竹は思った。
「……浮竹。」
 突然口を開いた白哉に、浮竹は声が裏返りそうになりながら、「何だ?」と聞いた。
 目を逸らさず浮竹を見ていた白哉が少しその目を泳がせ、言いにくそうに口を何度か開いたりしていたが、やがて、小さな声で呟いた。
「……朝まで…このままなのか…?」
 少し怒ったような、少し恥らっているような、そんな顔で白哉は浮竹から顔を背けた。
 いつも真っ直ぐな白哉が、そんな風に、そんな顔をして、浮竹から視線を逸らしたのは初めてのことだった。
 浮竹は少し驚いて、そして少し、微笑んだ。
「白哉……」
 浮竹が、白哉に歩み寄り、その頬に触れた。
 白哉は、浮竹の手が誘うままに、顔を上げ、真っ直ぐに浮竹を見た。
 その美しい瞳に、少しの間、目が離せなかった浮竹だが、欲望の赴くままに、白哉の唇に深い口づけを落とした。
「…ん…」
 乱暴ではないが、昼間と同じ、浮竹の溢れんばかりの想いがこもったその口づけに、白哉は、ほどなく立っていられなくなり、浮竹にしがみついてきた。
「白哉……」
 唇を解放した浮竹は、まだ息の荒い白哉を優しく抱きしめながら、ゆっくりと軍服を脱がせ、シャツの中に手を差し入れた。
 白哉は、びくっと体を震わせ、その浮竹の手を制した。
「ま…ッ待て…。浮竹…」
「…!すまん!………何だ…?」
「……いや…謝らなくていい…」
「そうか…すまん……。」
 昼間のこともあり、浮竹は、白哉の制止に過剰反応していた。
 白哉は、俯きながら、話した。
「自分のために、言っておくが……その……。 ……………。」
「? ……何だ?」
 ひたすら言葉を濁していた白哉だったが、ちらりと浮竹を見ると、また俯いて、辿々しく話した。
「…私は…その、当然と言えば当然だが…、男との経験は…………つまり、……受け入れた経験は、ないのだ…」
「…。……え?……」
「初めてだ、と、言っている…!!」
「……え……?」
 白哉はじろりと、一瞬浮竹を見上げ、怒ったように言った。
「何度も言わせる気か馬鹿! だから…!! いいか!!お前はそれを熟慮して、私の体に負担のないよう、最善のやり方で……!!」
 目を逸らしながら、顔を染めて怒鳴る白哉の言葉は途中で途切れた。
 浮竹が、白哉をぎゅっと抱きしめたのだ。
作品名:B.PIRATES その2 作家名:おだぎり