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B.PIRATES その2

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「安静にしてるよ。このまま動かん。だから、そこに座って話を聞いてくれ。」
「しつこいぞ。…一体、何の話だ。」
「…今回の、敵の件だ。こちらで解ったことがいくつかある。」

 …白哉の表情が変わった。

 
 ベッドの上、半身だけ起こしている浮竹と、ベッドの横で椅子に座った白哉は、真剣な面差しで話し合っていた。
「京楽からは、何も聞いてはいないのか?白哉。」
「何も聞いておらぬ。敵について、何が解ったのだ。」
「奴ら、市丸パイレーツの分隊だったよ。俺を斬った男に見覚えがある。市丸パイレーツ更木隊副隊長の、東仙要だ。」
「市丸…?」
 白哉は一言呟いて、考え込むように黙ってしまった。そして、しばらくの後、独り言のように「何故だ…」と呟いた。
「…気付いたか? そう。今回の市丸の狙いは白哉、お前だった。そして、うちと海軍が密に同盟を交わしてからまだ二週間だ。」
「それは、私が海賊船に居ることが、すなわち同盟の情報が、どこかから洩れている、ということだな。…よりにもよって、市丸に情報が流れるとは…。しかもこんなに早く…。」
「うちに密偵がいるのか…もしくは…。」
「……海軍を疑う気か。浮竹。」
「誰でも疑わしいさ。特に、相手が市丸とくれば、密偵を送り込むのにどんな汚い手を使っていても、おかしくはないからな。」
「………。」
「なあ、白哉。それよりも、俺は、市丸が何故お前を狙って来たのかが疑問だ。…お前も気付いたと思うが、今回、敵がとってきた戦法は、まるで死に来たと言わんばかりの捨て身の攻撃だった。お前を引きずり出すために人海戦術を使い、全滅しても敗走する気はなかったのだろう。実際、敵の乗ってきた船は、今にも打ち捨てられそうなボロ船で、その中に大砲はたった一門だった。」
「…私を殺すことだけに集中したのであろうな。」
「それは違う。」
「……?」
「敵は、お前を殺そうとしたんじゃない。拉致しようとしたんだ。船上で、お前に斬りかかってきた敵が言った言葉を覚えているだろう?奴らは、『捕らえろ』『逃がすな』と、言ったんだ。」
「……覚えている。」
「…市丸がここまでしてお前を狙う理由が分からん。…何か、身に覚えがあるんじゃないのか?白哉。」
「……ない。」
「…。…何か、市丸の欲しい情報を、お前が持っているんじゃないのか?」
「そんなものは、ない。」
 白哉はきっぱりと言い切った。
 嘘だ。と、浮竹は思った。
 だが、白哉がどんなことをしても口を割るような男ではないということは解っている。
 しかし、どうやら白哉の抱えている秘密は、海軍全体の秘密ではなく、白哉の個人的なものであるようだ。市丸が、多くの狙いやすい海軍将校らを標的にせずに、白哉のみを狙うのがその理由である。

 …海軍内のイザコザを引っ被ってうちが被害に遭うのは割に合わないが、白哉個人の問題を引き受けるなら、まあ、いいか…。

 浮竹はそんなことを考えていた。それは公私混合じゃないのか?と、傍から思われそうな考えであったが、浮竹本人は、ちゃっかりそれで納得してしまった。
 そしてその後二人は、内部の情報洩れに互いに気をつけるよう話し合い、その件に関してはとりあえず終了ということになった。
 話し終えた白哉は席を立ち、浮竹に再度「眠れ」と指示を与え、退室した。


 部屋を出て、しばらくしてから白哉はふと思い出した。浮竹に薬を飲ませろと、荻堂に言われていたことを、すっかり忘れていたのだ。
 白哉は船長室に引き返し、浮竹に声を掛けようとしたが、ベッドに横たわる浮竹は、すでに深い寝息をたてていた。

 …この男は、寝起きが悪いくせに寝つきは良いのか…。

 白哉はそう思いながら、起きた浮竹がすぐに目に付くように、薬瓶をベッドの傍らに置いた。そうして、そのまま去ろうと思っていたが、ふと、考えた。

 …荻堂は、飲ませてから、寝かしつけろと言っていたな…。
 起きてからでもいいのではないか? …駄目なのか…?

 白哉は、悩んでしまった。他の者に後事を頼もうかとも思ったが、荻堂の例がある。『自分でやってくれ』と言われた上に、他の面倒を押し付けられる可能性がある。…むしろ可能性は大だ。

 …起こすか…。

 そう思って、浮竹の顔を覗き込んだ白哉は、あまりに安らかに、心地よさそうに眠る浮竹の顔を見て、つい起こすのを思い留まってしまった。

 どうする…。…これを飲ませなければ、どうなるのだ…?

 白哉は、浮竹の負傷した左腕を見た。
 きつく巻かれた包帯には、早くもじわりと血が滲んでいた。あれ程の傷である。多少の血止めを塗布したからといって、そうすぐに血が止まるはずはない。
 白哉は、顔を歪めた。
 手当てしている間も、その痛々しい傷口を直視することが、ひどく辛かった。

 …何故、私を庇って…私のために、こんな傷を負うのだ…。

 白哉は辛い思いを抱きながらそう思った。
 浮竹が、繰り返し白哉に言った言葉が、ずっと白哉の耳朶から離れなかった。
『護る』と。 そして…、

 …私を、『好きだ』と言った…。
 …それは、どういう意味なのだ、浮竹…。
 お前は、誰にでもそんな言葉を口にするのか…?
 船員すべての仲間を『好き』で…、だから、皆を『護る』のか?
 …そう…。誰が相手でも、お前はそんな傷を負うのだろう…
 私だけでは…ないのだろう…?

 白哉は、悲しそうに目を伏せ、浮竹の傷にそっと触れた。その瞬間にちょうど、浮竹が寝言のように呻き声を上げた。
 軽く触れただけなので、浮竹が痛みを感じたはずはないのだが、白哉は、痛かったのだろうかと思い、ひどく狼狽した。どうであれ、浮竹は自分を庇って怪我を負ったのだ。出来ることならどうにかして痛みを取り除いてやりたいと、白哉は思っていた。

 …そういえば、荻堂は、『相当痛い』だろうとも言っていた…。
 まだ、ひどく痛むのだろうか?
 …もしや、この薬は、痛み止めか?
 だとしたら、なんとしてでも飲ませなければ…。
 そう、無理やりにでも飲ませろと言っていたではないか。
 …浮竹に、口移ししてでも、無理やりにと……。
 ……する、のか? 私が…浮竹に…?

 そう考えた白哉の心臓が、突然大きな音を立てた。

 …私は、何を、考えている…!

 驚いたように目を見開いて、慌てた表情で浮竹の寝顔を見た白哉は、一瞬息を止め、胸を押さえながら、身動き一つせずに浮竹を見つめた。
 浮竹から目が離せなかった。
 心臓が、煩かった。
 浮竹のその、安らかな呼吸を繰り返している唇に目線が行ったとき、白哉の心臓の鼓動は、いや増して激しいものになった。

「………」

 白哉はもう、自分は何を考えているのだと思うこともできなかった。
 その時にはもはや、薬を飲ませることも、忘れていたのかもしれない。

 ただ。

 眠っている浮竹が、そこに居た。
 いつも優しい微笑をみせるその顔が、そこにあった。
 白哉に心地よい言葉をくれる唇が、そこにあった。

「…浮竹…。」

 白哉は小さく呼んだ。 起きる気配はなかった。

「…浮竹…?」

 白哉が腰を曲げ、顔を近づけた。息のかかる距離で呼んだ。
 起きる気配は…ない。
「………」
作品名:B.PIRATES その2 作家名:おだぎり