こらぼでほすと すとーかー2
「そういえば、ヒルダさんも隻眼でMSパイロットですね。」
ヒルダは、判りやすく右目に眼帯をしている。ということは、MSを操縦することは片目でも問題はないのかな、と、八戒は質問した。
「まあ、乗れないことはないさね。虎もガイアに搭乗してるだろ。ただ、やっぱり単独で砲撃戦となると不利ではあるよ、八戒。だから、うちはチームで活動しているんだ。ましてや、あの親猫は砲撃タイプのMSだ。かなり不利だろうね。」
なるほど、MSのタイプによっても違うのか、と、ヒルダの答えに納得した。あまり、自分たちには馴染みのないものだが、ここのスタッフの大半が関係しているものだから、それなりの知識としては知っておくべきなんだろうか、と、ちょっと考えたりはする。
トダカが注文の品を作ると、運ぶのはアレルヤだ。かなりゆっくりとした動作で運んでいる。最初から、いきなりは無理だろうと、グラスの下に布で作られたコースターで滑るのは防止している。
「お待たせいたしました。」
ゆっくり、ゆっくり慎重に、ヒルダの前に、それは置かれる。
「ありがとう、アレルヤ。せいぜい、がんばるんだよ。」
「はい、ありがとうございます。」
ぺこんとお辞儀して、ニッコリ笑うアレルヤも、ビジュアル的には、かなりよろしいらしい。ガタイのいい青年が、可愛く笑うというのも、なかなか女性陣には受ける。
「いいんじゃないのかい? 初々しさで売れるよ。」
「ありがとうございます、ヒルダ様。」
なかなか評判としてはよろしいと、八戒も胸を撫で下ろす。ただし、単品だと、子猫たちは、どうともならないな、とは思ったのも事実だ。
さて、こちらは別の席。今度は、サポートの勉強だ。刹那のほうは、曲がりなりにも一ヶ月、キラの傍に座っていたから、そういう意味で慣れているので、そちらは、問題ない。問題は、紫子猫単品の場合だ。
「マリューおねーさま、ご来店ありがとうごさいまーす。」
「マリューさん、今日も一段と艶やかだなあ。」
ハイネと悟浄が、紫子猫を連れて、マリューの席に現れる。とりあえず喋らなくてもいいから、黙って座ってろ、と、ハイネが指示を出している。
「いつも通りのご挨拶ありがとう。まあ、噂の紫子猫ちゃんね。初めまして。」
マリューは連れ合いのムウから噂だけは仕入れているから、対応にも気遣いしてくれる。刹那の時も、野良猫を観察するみたいにしていたから慣れたものだ。
「いらっしゃいませ、ティエリアです。」
ほぼ棒読みだが、挨拶できただけでも、ロックオンやアレルヤにしてみれば感激ものだ。社会性が皆無のティエリアが挨拶するなんて、滅多に見られるものではない。
「マリューおねーさま、刹那より野良だから、この程度で勘弁してやってね。」
「ハイネ、それはわかってるわ。ティエリア、ジュースがいい? 何か食べる? 」
「・・・・・いらない・・・・・」
「はい、じゃあ、ノンアルコールね。悟浄、何か子猫ちゃんにも見繕ってあげてちょうだい。私は、ホワイトミモザ。」
「はぁーい、承りましたっっ。ティエリア、伝えてこい。」
「・・・わっわかった・・・」
立ち上がってパタパタとカウンターへ走り出すティエリアに、マリューは、「かーわーいーいーっっ。」 と、大喜びしている。
「アイシャさんも呼んであげれば喜ぶわよ。」
「確かに、そうなんだけどさ。それが、虎さんが反対でね。」
自分の職場に妻は呼びたくない、と、虎が拒否したので、このマイスター組プレデビューの席に、アイシャは来れなかったのだ。そういう点では虎より鷹のほうが寛容らしい。
「ムウのストライクゾーンど真ん中よね。」
「あーやっぱりわかる? それで、俺とハイネのサポートになってんだよ。」
「ロックオンは年齢が、ちょっとだけど、あれもそうよね? 」
「まあ、あっちは大丈夫。子猫たちが、ものすごい勢いで護衛しているからさ。」
もちろん、本日だって鷹はいるのだが、指名されていないから、カウンターで三蔵と飲んでいる。そこへティエリアが近づいたら、悟空が、その間に割って入っているし、三蔵がハリセンで鷹の伸びた手を叩いている。トダカが作り出しているカクテルをロックオンが用意していると、ちゃんと黒子猫が、左手の鷹の前に、ロックオンとの防護壁のように立って威嚇しているのが、かなり笑える。
「あっっ、ごめんっっ。」
で、何気に右側のフォローに入っている紫子猫の存在を忘れたロックオンが、どんっっとぶつかってしまうと、それをアレルヤが受け止めているのが、微笑ましい光景だ。
「ロックオン、用心が足りねぇーぞ。」
「すいません、三蔵さん。」
「俺じゃなくて、てめぇーんとこの子猫に謝ってやれよ。」
ぺしっっと、お得意のハリセンで三蔵が軽く叩くと、刹那がぷしゃあーーっっと、三蔵を威嚇するように睨んでいる。
「三蔵、やめろよ。刹那、ごめんな、手が早い保護者でさ。」
「いや、悟空、こっちこそ悪い。・・・刹那、睨まない。アレルヤ、これ、運んでくれ。ティエリア、痛くないか? 」
てきぱきと、そこを仕切って、アレルヤに飲み物の載ったプレートを手渡して、ティエリアに席へ戻るように指示を出している。
「さすが、ママニャン。」
ちったかちったかとアレルヤと戻ってくるティエリアを眺めつつ、ハイネがツッコみを入れる。
「慣れたら、絶対に、ちーママだよな? アスランも楽できていいじゃねぇーか?」
「ちーママ? あはははははは・・・・・それ、言い得て妙だわ、悟浄。」
マリューが大笑いしているのは、ヒルダの席まで届いていて、こちらでも笑いを誘っている。
「まあ、これなら、どうにかなりますかね? 」
「充分だよ、八戒。毛色の変わったのが入れば喜ばれるもんさね。」
来週からの本格デビューも、この調子ならどうにかなるだろうと、八戒も、待ちに待っているマイスター組ご指名のお客様への連絡を入れることにした。
『吉祥富貴』は、土日祝日は定休日なので、金曜の夜なんてものは、アスランにとっては、とっても嬉しい。古い言葉で言うところの、花の金曜日なるものだったりする。で、自分のパートナーも、それを喜んでいて、とっても積極的だっりするから、土曜日の朝なんてものは、かなり寝坊するのが常のことだ。午後近くになって、キラが空腹でうごうごと覚醒始めるまでは、そのまんまベッドで、ぐだぐだしている。
「お腹空かない? 」
「・・・・ん・・・」
きらきらと陽光が入ってくる寝室で、ミノムシみたいに丸くなって、ふわふわのガーゼのタオルケットに包まっているキラというのは、とても可愛くて、見ているだけで自然と笑みが零れる。
「今日は何がいい? 」
「・・・・・んーーー・・・・・クラブサンド? 」
「それだけ? 」
「・・・・・トマトのスープ・・・・・モンブラン・・・・・・」
「モンブラン? それ、材料がないから、後で食べに行こうか? 」
「・・・・やだ・・・・作って・・・・・」
「栗のペーストなんて、今頃、売ってるのかな。」
作品名:こらぼでほすと すとーかー2 作家名:篠義