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鵞鳥のヘンゼルと魔女のグレーテル

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「やぁ、田中太郎さん?」
「臨也さん!?」
 帝人の暗い気持ちとは真逆の明るい声と表情。自分のHNを業とらしく呼んでみせる折原臨也に、帝人は驚きながらも同時に訝そうに首を傾げた。
「なんで、ここに・・・・・・?」
 新宿を活動拠点とする情報屋が池袋を訪れるのは珍しいことだ。いや、もしかしたら、帝人が滅多に姿を見かけないだけで、実は頻繁に来ているのかもしれないが。
 真偽のほどはわからないにせよ、帝人の前に現れたということは、何か意味があるのだろう。もしかしたらダラーズ関係の事で何かあったのだろうか? 
「――何か問題でもありましたか?」
 スッと目を細めて、それまでのあわあわと頼りない雰囲気を一変させた帝人に、臨也は満足そうな、そして宥めるような笑みを浮かべて「違うよ」と首を振った。
「安心しなよ。君が思っているのとは、関係ないからさ」
「え、じゃあ・・・・・・?」
 ダラーズ以外で、帝人に何の用事があるというのだろうか。帝人が一瞬で最前まで漂っていた緊張感を消して、キョトンと無防備であどけない表情を晒した。その変わりっぷりを小気味よさそうに観察した臨也は先程までの人の良さそうな笑みを少し種類の違う笑みに変え、ますます相好を崩す。
「俺が池袋に来たのは仕事のため。で、何かブツブツ独り言を言いながら自分の世界に没頭してる君を偶然見かけたから声をかけた。それだけだよ」
「はぁ・・・・・・」
 自分の世界に没頭してブツブツ独り言を言うなんて、ちょっとした不審者ではないか。指摘を受けた帝人は、ばつが悪く俯いた。
「で、何でそんな急に背を伸ばさなきゃいけないのかな?」
「そ、それは・・・・・・」
 帝人は何と言ったものかと言葉を濁した。思い切り個人的な問題なので、どうにも話し難い。しかも、説明のためには静雄の話をしなければならない。心の底から静雄を嫌いに嫌い抜いている臨也のことだ、まず間違いなく不快そうな表情をするだろう。そのせいで「あ〜、帝人君のせいで嫌な気持ちになっちゃった」と責められたりでもしたら堪らない。
 今以上に厄介毎が増えるのはごめんだ。ここは、適当に言って誤魔化すのが穏便かつ無難だろう。
 なので、帝人は精一杯誤魔化すことにした。あはは、なんて乾いた笑い声をあげながら、少しばかり引きつった笑顔で、
「いえ、大したことじゃないんです・・・・・・。えっと、身長が伸びなくて、ちょっと悩んでただけなんで」
 そう言うと、臨也はそれは楽しそうに「へぇ!」と声をあげた。
「そっか。うーん・・・・・・、確かに、帝人君ってその年齢の男の子にしては小さい方だもんね。だって、平均身長もないでしょ? 体格もお世辞にも良い方とは言えないよね。本当どこに出しても恥ずかしくない立派な『もやしっ子』って感じだし。――うんうん、それじゃあ思い悩むのも無理ないよねぇ」
 ピキッと帝人の笑顔が固まる。
 悲しいかな否定できないことだとはいえ、何もそこまで言うことないじゃないか! という苛立ちが無理矢理あげた頬の筋肉を重力に沿わせた。
 帝人の機嫌が悪くなったのを見てとった臨也は、業とらしいまでに申し訳なさそうな表情をして帝人を窺う。
「あ、気にしてたんだっけ? ごめんごめん」
 しかし言葉そのものは、「謝罪」という言葉の意味を辞書で引いてこい! と思うほどにおざなりだ。
 帝人は眉間の皺が深くなるのを自覚しながら、水素よりも軽い謝罪に「いいえ、別に」と憮然と返した。ちっとも「別に」ではなさそうな声音に臨也が失笑する。
「あはは、ちょっとした軽口のつもりだったんだけど、そんなに真に受けないでよ。そんなに眉間にシワばかり寄せてるとさ・・・・・・」
 そこで一度言葉を切った臨也は、帝人に向かってスッと人差し指を向けた。
 突然のことで動けずにいる帝人の視界に、夕闇の中でも鈍い存在感を放つシルバーリングが間近に迫り、その瞬間グリッと眉間に擦れるような痛みを感じる。
 帝人が声帯を震わせて痛みを訴える前に、臨也の言葉が、

「シズちゃん、みたいに怖〜い顔になっちゃうよ?」

「――え・・・・・・?」
 突然、先程まで心を占めていた人の名前がでてきて、帝人は思わず息を飲んだ。僅かに視線も泳ぐ。
 その様子を見逃さなかった臨也は、すかさず業とらしいまでに明るく、しかしねっとり絡みつくような声音で言葉を重ねた。
「あれ、どうしたの? 驚いた顔なんかしちゃって。ああ、シズちゃんみたいになるのが嫌だった? そうだよねぇ、あんなのと類似する要素が生まれるなんてホント吐き気がするほど嫌だね。最悪だ」
「い、いえ! そうじゃなくて」
「違うの? うーん、じゃあ何で? シズちゃんの名前を聞いて驚くってことは、何かあったのかな?」
 ――たとえば、その手に持っているコンビニ袋の事とかで。
 そう言って向けられた臨也の視線につられて、帝人も自分の持っている袋に目をやった。
 ハッとなって慌てて臨也の方に視線を戻せば、してやったりと言わんばかりの臨也が、目の前に。
 臨也は帝人の表情の変化を見逃さず、まるで罠に掛かった獲物を甚振るかのような悪辣な視線で帝人を射抜き、その強さに飲まれて何も言えない帝人を嘲うかのように、それまでゆるやかに弧を描いていた唇を歪ませた。
「あれぇ? もしかして図星?」
 俺に、君ごときの誤魔化しが通用するなんて、本気で思っているわけ? と臨也の視線が語る。
(全部バレてるんだ、きっと・・・・・・)
 帝人は、諦めて事情を説明することにした。これ以上、意地をはってみたところで、勝ち目などないのは火を見るより明らかだ。
(・・・・・・ん? じゃあ、結局僕って無駄に臨也さんに揶揄われただけ・・・・・・?)
 誤魔化しなどお見通しで、あの暴言。気づいて歯噛みすれど、もう遅い。
 情報力ピカイチ、駆け引きお手のものな意地の悪い大人は、たかだか一介の高校生なんぞよりも何枚も上手だということを帝人は改めて痛感するのだった。