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鵞鳥のヘンゼルと魔女のグレーテル

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ヘンゼルの困惑と預言者の忠告





 立ち話もなんだからと連れられ入ったファミレス(食べ物を持ったまま入店なんて良くないですよ、という帝人の意見は当然のようにスルーされた)は、そろそろ夕食時ということもあってか、学校帰りの学生やカップル、会社帰りとおぼしきサラリーマンなど多くの人で賑わっている。
 帝人が、店内の喧騒に紛れ込ますような声音でこれまでの出来事を順を追って話した結果、
「ふーん。シズちゃんが、ねぇ」
臨也が寄越したのは、注文したコーヒーを飲みながら興味深そうとも如何でもよさそうとも取れる相槌を打つという何とも微妙なものだった。折角説明したというのに何とも手応えのない反応である。
「そりゃ、また大変だね」
「貰ったものを食べきるのは大変といえば大変なんですけどね・・・・・・。それよりもむしろ、最近では段々申し訳なく思ってて」
 そう言うと帝人は、喋り通したせいで乾いた喉を潤すためにアイスティーを啜る。喋り甲斐のない臨也に理不尽なものを感じはしたが、しかし誰かに胸の内を明かしたせいか、それまでより幾分気持ちが軽くなった気がした。
「あんなのに申し訳ないとか思う必要ないでしょ。ウザイならウザイってはっきり言ってあげるのも優しさの一つだよ、帝人君」
「ウザイなんて、そんな・・・・・・!」
 とんでもないです、と帝人は首をブンブンと横に振った。お菓子ばかり渡されて少々困っているが、静雄の行為それ自体を責めたり、ましてやウザイと思うなど考えもしなかった。
「ふーん、君は人が良いねぇ。それにしても、大きくさせるためにお菓子、か。ブクブクになりそうだね」
「うぅっ・・・・・・。が、鵞鳥は困ります・・・・・・」
「ガチョウ?」
 鳥がどうかしたの? と怪訝な様子で訊ねてくる臨也。帝人は、ポロッとこぼしてしまった失言にハッとする。
「あ、えーっと・・・・・・」
(誤魔化したい・・・・・・けど、多分無理だ)
 そんなものが臨也に通じないのは先刻身をもって知った。今も心なしか臨也の笑顔はあまり良くない意味で凄みが増している。なので、帝人は躊躇いながらも妄想と言ってしまえばそれまでな想像を口にした。
 あまりに荒唐無稽な話なので、ふざけて聞こえないようできるだけ真面目に語ったつもりだ。しかし、話終えたときの臨也の様子で、帝人の努力が100分の1だって実っていないことが分かった。
 臨也がブハッと噴き出し笑いを始めたのだ。彼なりの配慮なのか帝人が話終えるまで一応耐えていたようだが、何のフォローにもならない。
 一頻り笑って漸く落ち着いたのか呼吸を整えた臨也が、それでも若干笑いで揺れる声を出した。
「あー、もう帝人君ってば、俺を笑い死にさせる気? ホント面白い子だね」
「面白くないです。僕は、真面目に――」
「真面目だから余計に、だよ。――ていうか、自分を高級食材に例えるなんて、随分と自信家だねぇ?」
「へ!? そ、そういうつもりはなかったです・・・・・・」
 思いもよらないツッコミを受けて、帝人は慌てた。
「うんうん、自覚なしか。さすが名前だけあるね、み・か・ど・君? あー、でも確かに太った方が貫禄がでるかも。丁度いいんじゃない?」
 シズちゃん程じゃないけど君も大概名前負けしてるから、と大変失礼なことを言うや再びクツクツと笑い始める臨也。帝人は咥えていたストローをギチッと噛みしめた。
(やっぱり、話すんじゃなかった!)
 機嫌は損ねなかったようだが、こっちの機嫌が損なわれまくりだ。
 ブスッとした帝人の様子に、臨也は宥めるように「まぁまぁ」と言った。そして、マイペースに話題を変える。
「でも、さすがにフォアグラはいただけないなぁ」
「そうなんですよ」
 あくまで物の喩えではあるが、このいつまで続くともしれないお菓子三昧では、その内本当にフォアグラが出来る勢いで太るかもしれない。
「可愛さがないよね。それに家畜ってところも良くない。帝人君ってば、もうちょっと喩えがあるでしょう?」
「・・・・・・は?」
 会話のキャッチボールができてない。
 噛み合わない応酬に少し頭痛を感じ始めた帝人のことなど気にもせず、臨也は「そうだなぁ」と言いながら、人差し指に填めている指輪を弄りながら少し考える素振りを見せた。その表情は無駄なまでに真剣だ。
「お菓子、育つ、太る・・・・・・。うーん、よし、ここはメルヘンにいこう」
 ドシリアスな表情から一転、ニコリと胡散臭いほど爽やかに微笑んだ臨也が、先程まで弄んでいた方の人差し指を帝人の鼻っ面に突きつけた。
「君は、ヘンゼルだ」
「へ?」
 メルヘンでヘンゼルとくれば・・・・・・帝人がすぐ思い浮かぶのは一つしかない。
(もしかしなくても、『ヘンゼルとグレーテル』のこと?)
 親に捨てられた兄妹が森の中を彷徨い歩いているとお菓子の家を見つけて、しかしそれは人食い魔女の罠で――というあれだろうか。
 帝人がストローで一心にアイスティーをグルグル混ぜながら考えていると、その思考を読んだのか、臨也が「そうだよ」と頷いた。
「多分、帝人君が考えてるのであってる」
「なんで、ヘンゼルなんですか?」
「メタボな鵞鳥よりマシだろ?」
「・・・・・・」
 正直、どっちもどっちな気がする。しかし帝人は、やけに楽しそうな臨也に水を差すのも気が引けて、口から出かけた言葉をアイスティーと一緒に飲み下すことにした。
「そうそう、ちなみに魔女はシズちゃんね。あ、グレーテルがいないか。じゃあ、グレーテルもシズちゃんで」
「グっ、ゲホッ・・・・・・はぁ!?」
 思わずアイスティーを噴き出しかけた。なんてトンデモ発言をぶちかますのだろう。
 ゲホゴホ噎せる帝人を愉快そうに観察する臨也は、残りのコーヒーを飲み干すと、驚き混乱する帝人の注意を引くかのように勢いよくソーサーの上に置いた。安手の陶器同士がぶつかる少し鈍く高い音が帝人の耳に厭にハッキリと響いて、体がビクリと反応する。
「まあ、ものの例えだから、童話の内容と関係あるわけじゃないけど。アハハ、でもあの男が・・・・・・うん、最高に気持ち悪くて滑稽で良いじゃないか!」
「静雄さんに殺されますよ・・・・・・」
「君が言わなきゃ分からないよ」
 それとも君は俺を売るのかな? 人でなしー、と業とらしいほど大袈裟に嘆かれて、帝人は「まさか!」と慌てて首を横に振った。そんな後々が怖いこと、とてもじゃないができない。できたとしても、やりたくない。