Maria.
二.
「お、悟浄じゃないか、どうしたよ」
翌日、店の都合で仕事が休みになった悟浄が、花屋の前にいた。秋も半ばが近いせいか、店のバケツに生けられた花は落ち着いた風情のものが多かった。
奥のガラスケースの中には、それなりに華やかなものもあるが、数はそれほどでもない様子だ。
「この前はありがとう。母さん、すごく喜んでた」
「そうか、また何か持っていくか?」
花屋のオヤジは丸い顔いっぱいに笑顔をたたえ、あかぎれだらけの手で悟浄の頭を撫で回す。困ったようでも悪い気のしない悟浄は、されるがままになっている。
「ありがとう、今度はピンクのがいいなぁ…可愛いのが入ったら教えてよ」
「ああ、いいとも」
悟浄は店を離れた。
先日、オヤジに分けてもらった花は、まだ彼の手元にあるうちに継母が引き裂いてしまった。その紅さを呪いながら。
…紅いから。じゃあ、何色ならいいんだろう?