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Maria.

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「こんにちわ」
 ぼんやりと歩く悟浄の肩を叩いたのは、昨日教会にいた女の子だった。
「昨日はごめんなさい。もっとちゃんとご挨拶なさいって、シスターに怒られちゃった」
 悟浄は頭が真っ白になって、ただ頷いている。
 陽の下で見る彼女は、いっそう目が引かれる。栗毛をまるでベールのようになびかせながら笑う姿は、昔母と行った教会で見た、祭壇の上の女性像に似ている気がした。たしか、赤子を抱いて穏やかに微笑んでいる、そんな像だったはずだ。
 そんなことを考えていると、女の子が悟浄の袖を引いた。
「どうか…した?」
 言って喜んでもらえるとは思えない。所詮あれは木の人形だ。苦笑して、首を軽く振った。
「…お前、どこから来たんだ?この街の子じゃないだろ?」
「もっと北の方。お母さんと、東の都へ行くの。…でもお母さん、ここへ来る途中で倒れちゃって…」
「それであそこに?」
 女の子は頷いて、シスターには感謝してもしきれないわ、と嬉しそうに言った。
「都へ、何をしに?」
「お父さんのところに行くの。事情があってずっと離れていたんだけど、やっぱり皆一緒が一番だからって」
「…いいなぁ…俺なんか…」
 言いかけて、悟浄は言葉を飲み込んだ。相手のことも知らないのに、こちらの事情を話して嫌がられるのも、同情されるのも真っ平だった。
 気が付くと、もう教会の前に着いていた。女の子は寄って行かないかと言ってくれたが、悟浄はそれを断り、また来るからと言って望まぬ帰路に着いた。

          ○

 その日から、夕刊配達の最終場所ということもあり、二人はよく話をするようになった。2、3日に一度は女の子は悟浄に中へ上がらないかと誘ってくれたが、その度に曖昧な断り方を繰り返した。
 女の子は長く旅をしてきたせいもあってか、驚く程面白い話をたくさん知っていた。が、秋の陽は暮れるのが早く、彼女の話はいつも途中になってしまう。彼女会いたさも手伝って、悟浄は今までよりもずっと早く仕事を済ませて教会へやってくるようになった。そして、話を聞かせてもらう代わりに、街の色んなところを案内した。町中はもちろん、川や森の中の、野花が咲くところも。
 一緒に遊ぶようになるにつれ、悟浄には一つわかったことがあった。それは、彼女はけして人を蔑んだりするような人間ではないということ。いつか彼女になら、自分の身の上を全て話してもいい、そう思うようになっていた。

作品名:Maria. 作家名:gen