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不思議の国の亡霊

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6.2011/05/03更新




 不思議な感覚は、アーサーとこの国を歩くたびに重くアルフレッドに圧し掛かってきた。
 アルフレッドがイギリスという国に来たのは、正真正銘初めてだ。歴史の勉強やテレビなんかで観たていどで、自らこの『イギリス』という国のことを調べたこともない。
 なのにアーサーの口からこの未知の国の思い出話を聞かされるたび、ほんとうにそんなことがあったんじゃないかと思う。そんな記憶が、自分の中にもあるような気がしてくるのだ。
 ここで一緒に食事をしたなと言われれば、その映像が脳裏に浮かんでくる。ここを歩いていたら歩いた記憶がよみがえり、ここでこんな話をしたと言われたらそんなことがあったような気になる。
 全部想像だ。いや、全部アーサーからの影響を受けて、『そんなことがあった』という気になっているだけなのだ。
 わかっている。わかっているはずなのに、なぜか彼がそう言うと思考が引きずられてしまうのだ。
 いや、そんなことではダメだとアルフレッドは首を振る。
 ここにはアーサーの心の問題を解決させるために来ているのだ。それがここでアーサーにつられて自分までおかしくなっていては意味がないではないか。
 強くあるべきだ。自分は、そうやってアーサーを引っ張ってやらなければならない。
 アルフレッドはこの地にきて強く、そのことを感じていた。


作品名:不思議の国の亡霊 作家名:ことは