こらぼでほすと すとーかー3
まあ、制服はあるから、どんな格好でも問題ない。みんな、気楽な格好でやってくるので、トダカも、それについては咎めない。
「おはようございます。・・・・刹那、トダカさんにご挨拶は? 」
「・・・おはよーございます。」
「はい、おはようございます。まだ、早いけど? 」
「いや、刹那が、ストーカーと遭遇しちゃって逃げて来たんですよ。・・・・おまえも、事務室へ行ってこい。」
コンビニの袋を持っているキラが事務室へ向かったので、ついでに、刹那も追い駆けさせた。
「ストーカーって、元はキラ様の? 」
「ええ、今日はキラじゃなくて、刹那でした。いきなり、告られるし、どっかに拉致されそうな勢いでした。」
へふーと、ロックオンはカウンターに座って、そこへ突っ伏した。しつこいとは思っていたが、あそこまでとは知らなかった。ていうか、ほんと、KYだ。あれほど拒絶している刹那を見て、それについて何も感じないというのが怖ろしい。いろんな人間を見てきたつもりだったが、ああいうのは初めてかもしれない。
トンっと、カウンターが響いたので、顔を上げたら、自分の前に冷たいメロンソーダが置かれていた。
「お疲れ様、少し休憩してなさい。疲れた時は甘いものがいい。」
「・・あ・・・すいません・・・・」
久しぶりに加重をかけて全力疾走したら、大層こたえた。とは言っても、それぐらいで堪えたなんて刹那には知られたくないわけで、平気なフリはしていたが、ばっちりトダカにはバレているらしい。
「俺、そんなにわかりやすいですか? 」
「わかりやすいだろうな。」
「・・・精進します・・・・」
「はい、がんばりなさい。」
トダカは、別に、それ以上には何も言わないで、酒瓶を磨いている。あれぐらいで、息が切れている自分に情けないとか、ロックオンは反省していたりする。
・・・・・ていうか、あのしつこさって、ハンパないって・・・・・・・
あれを相手に、しばらくは逃げ回るのか、と、思うと、どっと疲れてくる。殺気ではないから、判りづらいのも問題点だ。
「オーナーが戻られたら、どうにかなる。」
酒瓶を磨きつつ、ロックオンに言うでもなく、トダカが声を出した。
「オーナーですか? 」
「ああ、キラ様や刹那君に害があるとなれば、容赦なくやられるさ。もし、それまで不安なら刹那君に、キラ様を動かして貰えば済むことだ。」
「え? 」
「キラ様が、やると派手になるから、誰も言わないんだけどね。」
まあ、あのロクロクちゃんだのを作っているキラだから、電脳世界においては、敵はないだろう。今の世界で、電脳が関わらない事柄は無いに等しい。転属させることだって、キラなら簡単にやってしまうだろう。トダカは、それを言っている。
「だから、それほど心配しなくても大丈夫だ。ロックオン君は、心配性だな? 」
「そういうわけじゃないんですが・・・・・でも、キラは、あの変態と普通に親しそうでしたよ? トダカさん。」
「キラ様にとって、あの程度は敵じゃない。それに、ストーカーだと思っていないから。」
「へ? あれで? 」
「そう、あれで。殺気がないから感じないらしい。」
そういうもんですか? あれ、相当、痛いと思うんですが? と、一瞬、思ったが、キラ自身が天然電波なんだから、あの程度、なんでもないと言っても、妙に納得できてしまう。置かれているメロンソーダを、ごくりと飲んで、まあ、いい勝負かもしんないな、と、ロックオンは苦笑する。
デビューを心待ちにしていたお客様その一は、開店時間きっちりに現れた。並んでいるティエリアとハレルヤに、いやーん、と、大感激といった具合で、レイによって席にエスコートされる。
「お久しぶりです、橘様。・・・・・お飲み物は? 」
優雅に、レイがメニューを差し出すと、お客様は、にっこりと笑った。
「レイ、お祝いだから、ピンクのシャンパン。それから、オレンジと紫のカクテル。ティエリアとハレルヤにも、何か好きな物を。」
「承知しました。」
ハレルヤは、どっかりとお客様の横に座ったのだが、違う違うと対面のティエリアの横を指定された。
「ハレルヤ、ティエリアの肩抱いて? 」
「おいっっ、ババア。それ、どういうリクエストだよ? 殺すぞ、てめぇー。」
「いやーん、もっと言って、もっとっっ。ティエリア、ああ、その姿、かーわいーいーっっ。もう、なんでも好きなもの頼んで、頼んでっっ。」
「ノンアルコールのカクテル。・・・・なぜ、俺が、こいつに肩を抱かれる必要がある? 」
「いや、趣味だから。気にしない気にしない。あはははは・・・・ここ、どんどん、ホストが充実していくわねぇー。ほんと、天国だわ。・・・・ああ、八戒、軽く気功波頼めるかな? 」
「もちろんです、橘様。最近、お忙しいそうですね? あまり無理なさってはいけませんよ。」
「もう、あなただけよっっ、八戒。あたしの身体を心配してくれるなんてっっ。」
飲む前からハイテンションなお客様は、美形揃いのホストを前にして、ご機嫌で喋っている。まだ、自分の客が来ないロックオンは、バックヤードの手伝いをしているが、そのハイテンションぶりにはついていけない。
「ロックオン、俺が運ぶ。」
横にくっいている刹那が、カクテルの入ったグラスを持ち上げようとするから、慌てて止めて、チョコレートの入った皿をプレートに載せて運ばせる。それを見て、また、「かーわーいーいーっっ。」 と、お客様が叫んでいるので、ちょっと引いていたりするが、運ぶものが準備できたら、こちらも動かざるをえない。
「うぁー、ロックオンがお運びさん? 豪華だなーいやー相方に悪いわぁーー。もうすぐ、来ると思うから、笑顔で迎えてやってね? ロックオン。あっちも、へばってるから。」
あ、俺の客の相方って、この人かいっっ、と、内心でツッコミしつつ、笑顔で、「承知しました。」 と、返事した。
どうやら、マイスター組のデビューも盛況で、お客様たちもご機嫌でお帰りになった。そろそろ店仕舞いしようかと、スタッフたちも簡単な後片付けを始める。
「なあ、三蔵さん。」
で、片付けなんかに参加しない三蔵は、帰り支度をさっさと始めていて、虎に声をかけられた。
「なんだ? 」
「今夜、親猫とちびを、あんたのところへ泊めてやれないか? 」
「ああ、うちはかまわねぇーぞ。」
「すまないが頼むよ。」
「ごちゃごちゃしてんなら、やっちまえよ、虎さん。」
話は、いろいと流れているので三蔵も、ストーカーのことは聞いている。その標的が、キラから刹那に変わったのも、八戒から聞いているので、そういうことなら協力は惜しまない。
「あれが現役じゃなかったらな、俺だってやりたいとこだ。・・・・・今後のこともあるから、オーナーの指示を待っているところだ。」
作品名:こらぼでほすと すとーかー3 作家名:篠義