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THW小説④ ~Twilight Good-Bye!~

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コンコン,と一応ノックする。
中からは,
「はい,どうぞ。」
という律儀な声。
「失礼します」
と,俺も律儀に答え,ドアを開けた。
中に入ると,ぼーっと窓の外を眺める副隊長の姿。
・・・やっぱり,いつもと様子が違う。
いつもなら,イスにきっちり座って,テーブルに正対してるはずなんだが。
「副隊長,コーヒー持ってきました。冷めないうちに,どうぞ」
若いのに,ブラックしか飲まない副隊長。
そんな好みを熟知している辺り,俺も下っ端らしく,お茶汲みが板についている。
「あぁ,ありがとうございます。碧風さんのコーヒーは,おいしいですからね。ありがたくいただきます。」
やっぱり,ニコっと笑って,イスに座り,俺と向かい合う。
・・・おかしい。
俺は,自分のミルク砂糖たっぷり甘々コーヒー(もはやコーヒーではない)をすすりながら,チラと副隊長をみやる。
いつもなら,副隊長は,こんな笑顔を俺には簡単に向けない。
もともと,相容れないと思っているであろう,俺に。
目をつぶって,
「はぁ〜」
なんて,しみじみコーヒーをすすっている。
・・・相当,お疲れなんだろうか。
なんだか,自分がこれからする話なんて,しない方がいいんじゃないかとすら思ってしまう。

「で,」
スッと目を開いて,副隊長が口を開く。
「碧風さんのお話って,なんですか?」
だが,その目は,伏したままだ。
俺は,らしくない副隊長の姿を見て,本気で戸惑う。

・・・どうすっか。
・・・・だが。

これを聞かないと,俺は多分,「攻特隊」という組織そのものに信用がおけなくなってしまうだろう。
「・・・あの,」
・・・意を,決して,口を開く。
「どうして,副隊長が,隊長にならなかったんですか?」
副隊長は,ふぅっと息をついて,答えた。
「ああ,なんだ,そのことですか。その答えは簡単ですよ。」
「簡単?」
「意見の,相違ですよ。」
俺は,ギクっとした。
やはり,上の中にも,そういうことがあるんだと。
だが,そんな俺をよそに,淡々と副隊長は語る。
「僕は,もうザビ隊長は,敵だと思うんです。戻ってこないと。だから,遠慮なく千葉を襲撃するべきだと。」
しかし,副隊長の表情は,沈痛そのものだ。
「でも,他のナンバーズは,そうは思っていない。思いたくない。だから,Utaさんを隊長に,との声が強かったんです。」
「・・・なるほど。」
多数決で決議が行われるのならば,当然の結果だろう。
「・・・それに。僕は,若すぎるんです。まだ成人していない僕が,この大きな組織のトップになったところで,何ができるんでしょうか?」
「歳なんて,関係ないでしょう?副隊長はとてもご立派ですよ。」
「・・・いえ。僕は,まだ未熟者です。ちょっとしたことで取り乱してしまうし。それは,ザビ隊長が居ない数日の間で,僕自身,隊長はつとまらないと実感したところでもあります。」
副隊長にしたら,「ちょっとしたこと」ではなかったのだろうし,あの取り乱しようは誰もが吃驚したところであるので,そこはあえて突っ込むのはやめた。
何も言わない俺を,肯定ととったのか,またニコッと笑って視線を俺に向ける。
「でも,よかった,碧風さんの話が,これで。」
「?どういう意味です?」
「てっきり僕は・・・碧風さんが,攻特隊を辞めると言うのだと,思ってましたから。」
「え・・・そんなわけ,ないじゃないですか。たかが,ザビが辞めただけでしょう?」
「それが・・そうでもないんですよ。」
また,ふっと目線をコーヒーに落とす。
「隊長が居なくなってからのこの数日で・・・何名か,除隊者が出ているんです。」
「・・・本当ですか?」
「ええ。ザビ隊長の,殉教者,とも言うべきなんでしょうかね。僕は,結局,説得できませんでした。ザビ隊長のカリスマに魅せられた人は,数多いですからね。・・・僕も,その一人ですし。」
なるほど。あいつのカリスマは,人を惹きつける。
それは,否定できない。
「でも,彼はもう敵です。我々は,それを認識しないと,きっと足元をすくわれる。ここで,情を絡めたら,ダメなんです・・・!」
ぎっ・・・と両手のこぶしを血がにじむほど,握り締める。
だが,相変わらず,目線はあげない。
悔しいのだろう。
副隊長は,自分の力のなさを痛感している。
そして,非情に徹しなければ,と,自分自身をさらに痛めつけている。
泣いている,と俺は思った。
副隊長は,心の中で,号泣している。

俺は,たちあがって,ポン,と副隊長の頭に手を乗せた。
「ねぇ,副隊長。本当は,ザビに帰ってきてほしいんでしょう?」
「・・・・!!そんな,ことは・・・」
「ない?本当に?」
「・・・無くは無いですが,あの方がそうそう戻ってくるとは思えなくて・・・」
「まぁ,確かにそうだな。・・・じゃあ,奪うってのは,どうだろう。」
「は?」
「あいつは,自分で千葉に行ったが,その真意はわからない。じゃあ,直接本人に聞くしかないでしょう。副隊長,攻特隊全員で,あいつに襲撃かけるってどうです?」
「・・・また,すごいことを仰いますね。」
「少なくとも,今は,襲撃という手段でしか,ザビとは話せない。ならば,全員に襲撃命令かけて,我々の恨みつらみを直接ぶつけようじゃありませんかwww」
語尾は,笑いがこらえられなくて,不謹慎にも,多少吹き出してしまった。
それにつられて,副隊長もプッと吹き出す。
「いいですね,それ。グッドアイディアですwww」
「でしょう??wwww」
そして,暗い室内でクックックと笑う男二人。
・・・はたから見たら,悪代官と越後屋にしか見えない。
「では,早速,そのように手配します。」
ニヤンと笑う副隊長は,生き生きとしたいつもの彼だ。
「じゃ,そろそろ僕はこれで・・・」
ガチャ,と扉を開けて,副隊長は振り向いて言った。
「碧風さん,ありがとうございました。おかげで,自分の中で整頓がつきましたよ。・・・あ,あと,ミルクと砂糖,控えないと,糖尿になりますからね。」
「え,ちょ・・・!」
俺の言葉を聞かず,バタン,と扉を閉める。

・・・いいじゃん,甘党なんだから。
いつもの毒舌に,どこかほっとして,俺もマグカップ2つを手に,部屋を出た。