すれ違い
日々也side
最初は嫌々だった。胡散臭いお告げを真に受けて、まったく顔も知らない女を口づけで起こしてこいとか。
だから日々也はとっと城に眠っているという眠り姫を起こして連れて帰り、好きな人間観察でもしようと思っていたのだ。
あの姫君の顔を見るまでは。
「・・・何これ人形?」
最初の感想はまさに人形。ビスクドールの様な真っ白な陶器の様な肌。濡れ烏の様な滑らかな髪。そして淡い花びらのような唇。
そっと、その頬に触れてみる。案の定きめ細かな肌は手のひらに吸い付くかのような瑞々しい感触だった。
初めて日々也は渇望した。この少女が欲しい、と。心臓が早鐘のように鳴り響く。
(あぁもう!なんなの!?俺は童貞の子供かっ)
日々也は焦る気持ちを落ち着かせようと、深く息を吸い込み、そしてはき出す。
そして眠り姫が眠るベッドに腰掛けると、姫君の唇に触れようと顔を近づけた。
近くで見るとより一層美しいと思う。ドクドクと嫌な熱が下にたまっていくことに日々也は舌打ちしたい気持ちになった。
そして今度は先程よりも深く息を吸い込むと、ゆっくりとはき出す。大丈夫と念じながら。
はやる心臓をのまま、日々也は眠り姫の唇に己の唇をあわした。
(甘い・・・砂糖菓子のようだ)
この口を余すことなく蹂躙したい。舌でこじ開けて可愛らしいこの姫君の舌を吸って口内を我が物顔で暴れたい。
そんな衝動が日々也を襲う。その破壊的な欲求に蓋をして日々也は眠り姫から唇を離した。
しばらくすると、姫君の睫がふるふると震え出す。そして、瞳が瞼の中から姿を現した。
「っ」
無意識に日々也は息を飲み込み、まじまじと未だ焦点が定まらぬ眠り姫を見つめる。
そして漸く紺碧の瞳が日々也を映し出す。あまりにも美しすぎた。
そう、決して穢してはいけない聖域。穢れを知ることの無き聖母。
日々也は先程の、己の考えがとても恐ろしい物だと感じた。この少女に自分は醜い欲をぶつけようとしている。壊してしまう。
そんなことは耐えられないと日々也は思った。
そして同時にいつくしみたいと、守りたいと感じた。この何も知らない少女を己の手で。
恐ろしいとも、いつくしみ大切にしたいというその感情は初めて日々也が他人に感じる感情だった。
「あなたは・・・・だれ・・・?」
透き通る声に日々也は拳を握りしめ、慣れた笑みを貼り付けた表情を眠り姫に向ける。
「おはよう眠り姫。俺の名前は日々也」